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深夜、数の子を煮汁に沈める者

押し付けられた四本の、金色の粒界――。
濃度一%の塩水に浸して三時間。水を替えてさらに三時間。街から音が消えていた。
小鍋に水を張りコンロに置く。鍋底が五徳に触れて硬質な音を響かせた。
出汁を取る。鰹出汁である。
続いて醤油を投じ、酒、少量の味醂を加えて輪切りの唐辛子をいくつか。コンロのスイッチを押し込んだ。点火プラグが規則的に鳴り、失せると同時に火が灯った。
しばし待つ。
その間に。
ボウルに手を入れた。黄金を覆う白幕を指でこそぎ、つまみ、剥ぎ取る。
露わになる、春を告げるはずだった卵塊。
泡立つ鍋の火を止め、黙々と薄膜を剥いでいく。どこか遠くでエアコンの室外機が回っているらしい。
ジップロックに数の子を入れ、冷めた煮切り醤油を注ぎ、ボウルに張った水に沈めて空気を抜く。閉じ、完全に沈んでいるのを目視で認め、冷蔵庫に戻す。
時計を見上げた。
午前三時。
――なにをやっているのでしょう、わたくしは。
心中に呟くと、ロメオ・イ・フリエタのシガリロを左の犬歯に挟み、ジッポーを開いた。
仄めく赤。
甘く香る煙が鼻腔を抜ける。
飲みかけのショットグラスを片手に、キッチンの照明を落とした。


どうでもいいけど、テクノロイドの既視感ってヴァイスクロイツですわね、と思った。

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