【あとがき】
この物語に登場するニバダ・ブランカ VSP3は、実際に私の手元にある、伯父の形見の腕時計がモデルです。
虎目石の文字盤、超硬合金のケース、そして一見しただけでは分からない厚い風防。
1970年代の機械式腕時計には、現在の時計とはまた違った構造や工夫があります。
今回は、そんな時計を元時計職人が修理する話になりました。
機械をコピーできる文明なのに、主人公は特殊工具を手作りし、オークションで古い同型機を探し、部品を一つ一つ洗って組み立てています。
ほとんど昔ながらの時計修理です。
もっとも、コピーするにも元になる機械が必要です。すべてを新しく作るより、古い同型機から部品を取った方が手っ取り早い場合もあるでしょう。
時計修理という仕事がなくなっても、時計を修理することが好きな人間までいなくなるとは限りません。
そして、古い時計を大切に使いたい人間も。
最後になって、ようやくコピー文明の出番がやってきます。
第十話にして、なかなか地味な機械の話になりました。
でも、時計はそういう機械なのかもしれません。