【あとがき】
最初に考えたのは、一辺〇・一ミリほどの小さな機械が無数に集まり、板にも棒にも膜にもなる、という仕組みでした。
何にでもなれる。
これは便利です。
便利すぎる。
便利すぎるものは、だいたいそのままでは小説になりません。
なので、物質量は増えない。
エネルギーにも限りがある。
移動には時間がかかる。
壊れたら壊れる。
という、ごく当たり前の制限をつけました。
そうしたら遭難しました。
原子炉は爆発しません。
AIも暴走しません。
乗員同士で殴り合いもしません。
隠れていた宇宙生物も出てきません。
全員だいたい真面目で、だいたい優秀です。
救難船もちゃんと来ます。
かなり地味です。
それでも困る。
技術が正常に働いていても、物も電気も時間も有限なら、全部を残すことはできません。
船を直すことはできるかもしれない。
成功率、七十四パーセント。
悪くない。
でも、もう船を直す必要がないなら、その七十四パーセントに賭ける意味もない。
そこで船長は船を捨てます。
正確には、船を捨てて人を残します。
事故の最初には、六十キロのセルを拾いません。
電気がもったいないからです。
救難船が来た後では拾います。
今度は向こうの電気だからです。
同じ六十キロでも、条件が変われば判断は変わる。
人間なんて、案外そういうものかもしれません。
あるいは、そうでないと困ります。
ちなみに、船長の白い制帽は火星到着時にかぶる予定でした。
結局かぶりませんでした。
まだ着いていないので仕方ありません。
何にでもなれるセルを最後まで使ったあと、船長に、
「今は、何もしなくていい。」
と言わせました。
何にでもなれるものが、何にもならなくていい。
ずいぶん遠回りして、そこへ着きました。
船は着きませんでしたが。
濃尾