海山蒼介先生が送る、第27回スニーカー大賞《特別賞》受賞作。
ひょんなことから学校に通うことになった殺し屋の少年『黒木猫丸』が中二病の少女『竜姫紅音』と出会い、勘違いに勘違いを重ねあらぬ方向に話がねじれてゆく青春コメディ。
本題に入る前に、当作品のカクヨム版について話しておきたい。
本作ははカクヨム経由で応募された作品であり、今でも元になった小説は読むことができる。
(殺し屋兼高校生、中二病少女に勘違い!:
https://kakuyomu.jp/works/1177354054898582141)
私も過去に読ませて頂き、レビューまで送った作品なのだが、正直な話をすると当初は粗が目立つ作品だった。物語の構成、内容の方向性、『台詞は基本的に字下げする必要はないんだよ~!』という気にはなるものの無視できないこともない細かな文法まで。様々な欠陥があったのは事実だ。
が、それでも尚私がレビューで★3評価を送った理由は他でもない。『そんな細かい欠陥なんか全部無視してもいいほどに、根底となる内容が面白かった』からである。猫丸と紅音の掛け合い、そして勘違いによって明々後日の方向に話が飛んでゆくコミカルなコメディは、群を抜いて完成度が高く、そして面白い。
欠陥さえ改善されれば、今より三倍……いや十倍は面白くなる。そう確信できるほどのパワーがある作品だった。とはいえそれには相当な範囲を改稿する必要もあるだろうし、製品版ではどこまで素晴らしい作品になっているのか、とても楽しみな作品だった。
そして実際に発売された結果、どうなっていたか。
結論。『十倍は面白くなる』と考えていた私の予想は、大いに外れた。
『百倍』面白くなって帰ってきたのである。
製品版となって帰ってきた本作は、カクヨム版とは別物というレベルと変わっていた。ありとあらゆる欠陥を潰し、だけではなく本作ならではの長所を最大限に伸ばす加筆が加えられている。考えていた以上、最高を超える形で帰ってきたと言ってもいい。
二人が出会ってからが面白いのに、それまでが長かった序盤の構成は大きく改善され、本作において最も魅力的な二人の掛け合いまですぐに辿り着けるようになっている。そこまでの文章も構成から大きく見直され、テンポを削ぐような無駄が消えている。
そして何より。製品版におけるカクヨム版からの最大の変更点であり、最高の改善点。それは、本作のテーマを『竜姫紅音とのコミュニケーション』に一貫し、特化したことだろう。
カクヨム版では中盤以降は別の登場人物にフォーカスを合わせた関係で、せっかくの『中二病少女との掛け合い』の面白さが減ってしまったのが残念で仕方なかったのだが、製品版では中盤以降の展開を紅音のみに絞ったことで、元々最高に面白かったポイントにフォーカスが全集中し、最高の形に仕上がっている。まさに本当に読者が読みたかったもの、顧客が求めていたものはこれである。
だが、それだけでは収まらない。さらに幕間に紅音視点の話を挟むことで、彼女が持つ魅力を引き上げている。そして紅音の可愛い一面やラブコメチックな幕間を見せることで、本編における勝手に凄まじい勘違いを起こし、明々後日の方向に行動を起こす猫丸のシュールさが引き立つのである。
海原カイロ先生の挿絵も紅音の可愛い面をこれでもかとばかりに表現しており、そちらも是非とも見て欲しい。
カクヨム版との比較ばかりになってしまったが、私が言いたいことはひとつ。本当に本当にめちゃくそに面白いコメディ作品なので、みんな読んで欲しい。
なんだったら公式の試し読み(
https://kakuyomu.jp/works/16817330649422585203)もあるので、それを読んでからでも遅くない。是非。ホント後悔させないから。
【BOOK☆WALKER 販売ページ】
https://bookwalker.jp/de5a770790-39b8-4979-9814-bcb83dcf0e4a/?acode=z9UsVH9j