• 異世界ファンタジー

【読書日記】『腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~』感想

明治サブ先生が送る、第27回スニーカー大賞《金賞》受賞作。
かつての日本・明治時代を舞台に繰り広げられる、悪魔祓師の少年と悪魔の少女の物語。時代背景こそ独特で個性的な本作だが、描かれている内容はストレート。正統派のボーイミーツガールである。
主人公『皆無』は序盤に大悪魔との戦闘で命を落としてしまうが、ヒロインの悪魔『璃々栖』によって使い魔となって生き返る。その代償として、彼女の力の源である腕探しに協力することになるのだが――その最中に起きる出来事によって、二人の関係性は徐々に変化してゆく。

正直に申し上げるが、序盤は結構読みにくい文章であると感じる内容だった。
文章が悪い、という意味ではない。描かれている世界観の情報量が多く、また馴染み薄い時代故にパッとそれらをイメージできず、どうしてもスムーズに理解できなかったのだ。私の知識不足もあるだろうが、この辺の感覚は公式の試し読み(https://kakuyomu.jp/works/16817330649422390153)を見て各々判断してほしい。
序盤の展開は世界観描写を重視してゆったりめなこともあり、面白くなる前に「自分には合わない」と判断されてしまいそうな危うさもあるが、この物語が真に面白くなるのは中盤以降。丁度試し読みの範囲が終わった後あたりから、急激に物語が動き始めるのだ。そして一度動き出してからは、途中で止まることを許さないほどに、ぐいぐいと物語に引き込んでくれる。

祖国か、璃々栖か。それは、皆無に迫られたひとつの重大な決断から始まる。
十三に過ぎない少年の身には重く、それでいて人生を左右するような大事な出来事。それに皆無は決断し、決断を下した後も悩み、後悔する。そんな繊細な心情から始まって、確固たる意思を持って物語が動き出すのだ。
何より魅力的なのは、物語が進むにつれて変わる二人、皆無と璃々栖の関係性だ。
最初皆無が抱いた璃々栖への感情は、どちらかといえば憧憬のような――自分とは違う存在への憧れのような感情だった。だが、それは璃々栖が見せる一面に過ぎず、彼女の違う面を見る度に、その抱く感情は変化してゆく。話が進むにつれて璃々栖のことを理解していき、恋も知らなかった少年が突き動かされてゆく。また璃々栖も同様に、皆無へ向ける感情が最初の頃から変わってゆく。そんな二人の姿に、目を離せない。
さらには物語も息もつかせぬ怒涛の展開で、最後まで楽しませてくれる。本作はカクヨム版もあるのだが、興味を持ったのなら是非とも製品版も手にとって欲しい。特に、そんな作中の雰囲気を汲み取ったくろぎり先生の挿絵は必見である。

尖った個性に振り切った故に、最初に手に取るハードルこそ高いかもしれないが、気付けば夢中になっている。そんなパワーを秘めた作品である。もし序盤でつまづき読むのをやめたのなら、騙されたと思って一度最後まで読んでみて欲しい。とても面白かったです。


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