• 異世界ファンタジー

【読書日記】『死亡遊戯で飯を食う。』感想

鵜飼有志先生が送る、第18回MF文庫Jライトノベル新人賞《優秀賞》受賞作。
この物語は、主人公『幽鬼』を中心として描かれる、いかれた世界で行われているデスゲームのお話。……だが、その内容はデスゲームモノとしては異端と言ってもいい。一般的なデスゲームモノの感覚で読むと、強い違和感を感じるであろうことは、前置きとして伝えておきたい。

普通のデスゲームモノであれば、例えばこうだ。「主人公は連れてこられた一般人。人殺しに手を染めたこともない、普通の人間である。同様に連れてこられた何名かのプレイヤーと共に、生きて帰るために協力、あるいは敵対するプレイヤーと対立する、極限状態で繰り広げられるサスペンスである」……と。
だが、この物語の主人公である『幽鬼』は、そんなお約束とは真逆の存在だ。
彼女はデスゲームの経験者、それも熟練のプレイヤーだ。命のかかった極限状態でも冷静で、ゲームにも手慣れたものである。必要とあれば躊躇せず人も殺せるし、その感性は常人からはかけ離れている。
そもそも彼女は巻き込まれたわけでもない。自身の意思でゲームに参加している。その理由も「お金のため」とか、現実的でわかりやすい理由でもない。「九十九連勝を目指してる」とかいう、とても正気とは思えない目標を掲げているのだ。いかれてるとしか思えないだろう。
読み進めた先で描かれる彼女の普段の生活に至っては、生活能力が皆無。自堕落的で、社会不適合者。そんなゲーム外の一面を知ると、本当に彼女は「こんないかれたゲームの中でしか生きられない」と、そんな別世界の人間であることを実感させられる。

そんな彼女『幽鬼』は、最初に語った感情移入しやすい一般的な主人公とは程遠い。人によっては、欠片も理解できない主人公ですらある。
だがしかし、そんな普通に生きられない彼女のことを、少しでも理解できる人ならば――読み進めるほどに、彼女のことが気になって仕方なくなる。目を離せなくなる。それほどまでに魅力的なキャラクターでもあるのだ。


何故この作品がデスゲームモノとしては異端なのか。理由は明確だ。デスゲームという舞台こそ同じであるが、描いているテーマが根本的に違うのだ。
この作品が描いているのは、「無理矢理事件に巻き込まれた被害者」による「普通の日常に戻るための戦い」ではない。「こんないかれた世界の中でしか生きられない少女達」による「生きてゆくための戦い」なのだ。
故に、この物語で中心として描かれるのは、未経験の初心者じゃない。何回もこんなゲームに参加しているような経験者――『幽鬼』を始めとした、常人とは言い難い少女達なのだ。
ひとつひとつのゲームだけで見た場合、人間関係から深く掘り下げ、ひとつの大きな事件としてドラマを描いている普通のデスゲームモノと比較すると、本作のゲームはあっけないと感じるかもしれない。だが、それも当然だ。何故なら彼女らにとってこのゲームは、大きな事件でもなんでもない。こういう形の日常でしかないのだから。


試読版を読んだ時にも思ったが、賛否両論。人を選ぶ作品である。
本編とあとがきの間に他の先生方の解説が挟まれているのだが、そこに書かれている二語十先生の言葉の通り、「幽鬼という主人公。彼女を受け容れられるか否か」という評価が正しく思う。私も語ったように、彼女を欠片として理解できない人も、一定数いるだろう。そして理解できない人が楽しめるものかといえば、難しいと言わざるをえない。
そこにデスゲーム特有の猟奇的な――〈防腐処理〉という名目でフォローはされているが、だからといってすんなり受け容れられるとは言い難い――描写も加わってくる。万人にオススメできるか、といえば否だろう。

だが同時に、(私のように)刺さる人には強烈に刺さる内容であると、太鼓判を押してもいい。
発売前にTwitterで『全編試し読み』とかいう頭のおかしい、それは最早試し読みではないんですけど??と感じた企画を行っていた本作なのだが、それは本作が人を選ぶ作品であると同時に、刺さる人は全編読んだ上でも購入してくれる、という自信の現れでもあったと思う。


もしこれまでの話を踏まえた上で、興味を持ってくれたのなら、是非一度読んでみてほしい。
私は読んでよかったと思える作品でした。面白かったです。

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