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異世界の科学

前回の生命に魂はあるかの後ろに加筆してた部分が長くなりすぎたのでこっちに分けました。

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俺は魔法があれば科学は発展しないという見解にはかなり懐疑的で、現実で錬金術が化学の基本となり、占星術が天文学の萌芽となり数学の発展に多大な影響を及ぼしたように、それが科学的思考をもって発展するかどうかは、今の我々から見て科学と言えるかどうかとはあまり関係がないと思ってます。

魔法がある世界なら魔法に関する学問があり、そこでは科学的思考によって魔法について研究されていて、魔法を利用したシステムを作る技術者はいまの SIer と同じような悩みを抱えてると考えます。

(後者はちょっとブラックなとこありそうで…誰か書かない?自分で書くのはやだな)

我々の科学に相当する分野に対しても、飛行魔術がある地球に似た丸い星なら早いうちに地球平面説は否定されるでしょうし、ゲノムの塩基配列の解読なんかも魔術的ナノマシンやすごい顕微鏡魔術みたいのを使って早く発展するかもしれないしみたいな。

魔術があるからといって科学的思考そのものがなくなるとは俺には思えないので、魔術がある世界には魔術があるからこその発展の仕方をした科学があるんじゃないかなーってのが俺の好みですね。

「科学的に説明できないものが魔術である」が定義とすると、これもちょっとややこしいんだよね。
ちなみに「我々の世界の物理学で説明できないものが魔術である」なら何も矛盾はないよ!

我々の世界の科学で説明できなくても、その異世界の科学で論理的に説明できるなら “科学的に説明できる” だと俺は思ってる。
なので、科学というのは我々の世界にあるものだけをいうという前提だとこの議論が根底から食い違う。

魔法学とか魔方陣系統学とか魔法言語学とか魔法医療学とか、系統的に客観的に事象を探求する学問があるならそれは、広義の科学、その世界での科学じゃないの? ってこと。

もっといえばそれだけの論理的思考、科学的探求ができる文化が成熟してるなら、多少は化学や物理学も発生してないと不自然だと考える。その内容は魔力がある世界に特化されてるかもだけどね。物理学の式に魔力の項があるみたいに。
もちろん、その発展が「魔法があるから我々の世界に比べたら遅れる」はある一面では起き得るけど、魔法があるから研究が捗るもあるはずなんよなぁ。

そういうのは我々の世界の科学ではないからオカルトだ、は乱暴に感じちゃう。

科学ってのは、世界の仕組みとかについて客観的に事実を探求することだから、異世界の世界システムが魔術や魔力を組み込まれたものであるなら、その世界の科学には魔力とかが組み込まれるだけだと思うんよ。

魔法があるからって、知的好奇心や科学的思考、世界の仕組みとかについて客観的に事実を探求したいという考えが知的生物からなくなるとはあまり考えたくないし……

我々の世界を参考にするなら、人間からそういう知的好奇心や探究心を奪うのは魔術よりも、特定の考え方を強制する政治的側面の強い宗教や貧困だと俺は思う。
科学的探求はギリシャや中東方面で大きな発展をして、中世のヨーロッパでは宗教的な理由で色々ストップしたからね。
「世界は神が作ったんだから考えるな!」されてないなら、魔法により生活が楽になってるぶん、知的活動は捗ると思うんよなー。

世の中には科学が少しでも関わったらファンタジーではないという過激派みたいのもいて……
「この世界の生物に遺伝子はないし、物理法則もないし、すべて神の思し召しで決まっていて、人が世界の仕組みについて考えても全くわかることがない。説明できるものはファンタジーとはいえない」という世界。

そういう創作を俺は否定しないけど、我々の精神構造というのは我々の世界の仕組みに適応してできてるので、仮にそういう世界ならその世界の人間に相当する生き物の精神性はかなり異なったものになると思うんですよね。

何をやっても法則性が保証されないんだから、俺らからみたら異常に刹那的だったり信心深かったりしそう。いやそもそも一貫した物理法則がないなら生物が統一性のある知覚や認知システムを獲得することが難しいし、見え方も聞こえ方も個体差が大きすぎて、言語はなく直接に意図をテレパシーしてそう。見えるものも精霊に好かれてるかどうかとかで全然違うから

――とか考えたらキリねぇ。
普通そこまでガチにやると読み手にとっても負担の大きい作品になるので、大抵の異世界だと我々の世界の物理法則に適応した我々の世界の認知システムで、その異世界の想像もできる範囲に収めるんすよ。

モノを投げたら飛ぶし、砂糖でカラメルができるし、ワインから酢ができる、隣にいる人には視力の差があれ似たような感じにモノがみえていて、声を発すれば通じる。そういう世界にしておいて「物理法則はありません」は無理があるからね。

「いや違う、音を伝えるのも、ものが飛ぶのも、ワインが酢になるのも全部精霊がやってるんだ!」

そうだとしよう。でも、その世界の人間の精神構造が我々とそこまで差がなくて、我々が読んでてそこまで負担にならない作品なら、精霊が担当してる世界システムは一貫性があり、我々の世界の物理法則に相当するというだけなんじゃないかな。

そうするとその世界では精霊学が発展して、そこで科学的思考によって精霊の活動の法則やなんかを研究して、「最も精霊がうまく酢をつくれる温度は、マナ密度は……」とかなるんじゃねぇかなぁ。そこにあるのはまさしく科学的アプローチによる実験と検証と科学的思考なんすよ。

「その世界の住人は一切科学的思考をしない」というガチの異世界を扱った作品も面白そうだけど書くのはすげーむずかしそう。

もちろん、我々の世界をモデルにしても「日常生活で科学的思考や類推が必要ない一般の人間にはそういう概念自体が存在しない」という状態はありえる。

https://blog.tinect.jp/?p=41430
↑かなり面白いです。1920年代のロシア人への質問のくだり

例えば非常に活動が制限されてる農民なんかは下手に推論を身に付けずに現実に経験したことのみで判断するほうが生存率がよかったかもしれないし、現代の感覚で頭が悪い、で済む問題でもない。

そういった人たちをガチで描いた作品も面白いだろうし、登場人物の多くが全くの教育を受けておらず情報にも触れていないなら、このロシア人のような話し方をするかもしれない。でも書くにもすげー大変じゃね?

(紀元前の哲学でも我々から見て頭いい奴はいるわけで、ぶっちゃけ中世かどうかより、育った環境の方が差がでかいよな。勿論、現代の方が比較的世界の広範囲で教育が行き届いてるってはあるが)

まぁあるいみ異世界人が頭悪すぎて無双は正しいのかもだが……現代的感覚で頭が悪いのと、生きる力があるかどうかはまた別だからなぁ。上のリンク先のロシア人だって、すごい編み物するかもだし家を作れるかもしれないし。まぁこれは俺が「すごいですぅ」が苦手なだけか。

俺はやっぱ魔術があっても科学的思考はなくならないしその世界なりの科学があるという方が書いてて楽!だなぁ。
読む分にはどっちでもよい!

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