日本のある田園地帯から出土したとされる、派手で子供じみたテクスト。このテクストは、「ヨブ記の主人公はヨブではない。むしろヨブと言う悲劇の人に、どう周囲の友人が接するべきかを書いたのだ。」という、胡散臭い内容が書いてある、聖書と読んではならない真っ赤な日本語の外典である。
亡き師の研究の後を継ぎつつ、ひと山当てようともくろむ聖書研究者、近藤縁は、無宗教の立場にありながら、鐙美佳、そして本の中から出てきたと思われる、金の小牛の幻影と接触する。
牛は「多神教」と「自然」を説きながら、近藤を操り、大敵である鐙美佳親娘を失脚させ、追手に備えようと企む。だが、牛の霊の語り掛けに、染まりきることのない近藤は、牛の霊の力で徐々に憔悴し始める。校舎内で傷害事件が発生するも、詳細を握ったまま、牛の霊は近藤のもとを去る。牛は、より扱いやすく、優秀な自信の信者を求めていたのである。
蚊帳の外で『三差配偽記』研究に戻りたい近藤は、事件に巻き込まれる中で、「資料の喪失」や、「鐙の父である高名な学者に会えない」などの問題にぶつかる。同僚の長谷や、動画投稿者の飯敷に会いながら、地道に研究対象との距離を保ち続ける。
やっとのことで鐙らと再び会った近藤だが、一連の事件の犯人ではないかと疑い、衝突する。山羊の霊の加護を受けた父娘に、協力者で、かつ牛の霊の駒となった倉丸、牛の協力関係にある長谷がぶつかるが、近藤はどちらの見方でもなかった。ついに、再開した牛の霊が、より邪悪であることを認め、美佳と手を組みつつ、事件の事実上の計画犯であった長谷を追い詰め、双方の側が問題点に向き合い、世間的な明るみになる目途がつく。山羊の幻影は牛を、神の御前に連行しながら、同時に、汚い『三差配偽記』の物語は幕を閉じる。
敢為邁往と無為自然を巡って、登場人物の野心が交錯する「人文スピリチュアル群像観念小説」。
元ネタ_アレクサンドリアのクレメンス
「例えば、血反吐を吐きながら巨万の富を募金した人間と、ただ悪いことをしなかっただけの人間は、本当に同じ天国に帰るのだろうか?」レオ10世