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五津海宗貴という道化

鬼還奇譚のちょっとした話です。
「夢と踊る」までの内容に触れています。

五津海は、鬼還奇譚の登場人物の中では個人的に一番書きにくい男です。(意外と近衛が書きやすい)
ぼく自身が今ひとつ五津海という男を理解していないということもありますが、五津海がまあ、とにかく動かしづらい。
「したたか、と言えば聞こえはいいものの、自覚も悪意もなく他人を巻き込むことに関して、あれの右に出る者はいないだろう」
これが志麻による五津海の説明ではあるのですが、はたして本当にそうなのでしょうか。
今回の近況ノートは五津海について少しだけ考えていきたいと思います。

五津海宗貴に関するおさらい。
・顔が良い、その自覚もある(作中一番の美形はナギですが、ナギを和風イケメンと称するならば、五津海は洋風イケメンです)
・社交的(コミュ力おばけ)
・鬼を葬り去る妖刀を持っている
・志麻に銃殺されることが夢
・酒も女も賭博も興味無し
・刀を抜くと攻撃的な別人格に入れ替わる(記憶共有型の二重人格)
・オニカエシの能力としては妖刀以外に特筆すべきものは無いが、上記の通り心を壊しているため精神攻撃には逆に強い
なお、五津海の名誉のために記しておきますが、軍人としての戦闘能力は決して低くはありません。
ただ渡会と近衛が強すぎ、志麻の狙撃の腕が良すぎ、万里がマッドサイエンティストすぎ、という周囲が特別なだけです。

五津海の行動原理はシンプルで分かりやすく、志麻が世界の中心に存在します。
志麻に銃殺されたいという願いは、自分で書いておきながらちょっと引くくらいのところはあります。
けれども、この願望こそが、五津海の五津海たる所以とも言えるでしょう。
自分のミスで矢橋に鬼が憑いてしまったこと、そして矢橋の人間としての命に志麻が止めを刺す結末となってしまったこと、そのふたつを「罪」として五津海は背負っています。
このため、五津海は「志麻に銃殺されること(=矢橋への償い)」と「志麻の願いを叶えること(=志麻への償い)」によって罪が赦される、あるいは赦されてほしいと考えています。
「理不尽な仕打ちが気に食わない」とか「間違った存在は糺すべき」という自分基準の近衛や渡会とは異なり、生きる理由自体が完全に志麻依存なので、五津海だけは死んでも志麻を裏切りません。
志麻のためならば地獄行きすら恐れない男です。
愛が重くて頼もしい。

ここまでは良いんだ、ここまでは。

行動の心理はシンプルであるながらも、キャラクターとして動かしづらいのは、五津海が仮面を被っているからです。
「五津海宗貴は道化である」
自己防衛のために憎悪を別人格として切り離したこと(トラウマからの生存戦略)により、五津海の行動はシンプルながらも分かりづらくなっています。
それは、五津海がコンプレックスの塊であり、自分自身を演じているからです。
五津海のコンプレックスについては時々顔を覗かせていますが、近衛や渡会のように武術に優れているわけではないと思っているところなどは、特に五津海にとって大きなコンプレックスになっています。
自分には顔と妖刀しか取り柄が無いから、その顔を武器にして他人の懐に入り込み、独自の人脈を広げています。
もちろん、顔だけで他者からの信頼を得られるわけではありませんが、五津海の場合はまず顔で近付き次に話術と人柄で落とすタイプの社交性です。
顔が良い自覚あってこその戦略を選んでいます。
つまり、五津海の社交性は後付けであって、本来の五津海は別段、社交的な性格ではないのです。
社交的な性格を演じているのはある意味、矢橋の模倣と言えます。
五津海は育った環境から、他人に取り入る方法は心得ていますが、処世術をどう使いこなして世の中を渡り歩いていくのかという点においては、人格者である矢橋を見習っているところがあります。
(五津海の幼少期については最終決戦あたりで登場予定です)
純粋な憧れとともに、矢橋に対する負い目もあることでしょう。
志麻を心の中心に置きながらも、頭の中には矢橋が居る。
そういった頭と心、理性と感情のチグハグなところが、五津海を難しいキャラクターにしていると思っています。
言動の半分は狂気で、残りの半分は演技。
それなら本当の五津海宗貴がどこに居るのかと言えば、「あんなもの一生元には戻らない」ので、二度と会うことは無いのでしょう。

ちなみに五津海のイメージカラーは黄蘗色、花は竜胆、誕生日は9月17日です。

ところで鬼還奇譚は、最終決戦の対戦カードはもう随分と前から決めているのですが、一部の勝敗についてはまだ悩んでいます。

そんなこんなで、今年ももう年の瀬で、おそらく本編の更新は年明けになります。
鬼還奇譚は、一気に真相へと近付いています。
来年こそは完結するはずですので、もう少しお付き合いください。

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