この記事は『アルデバランの追想』のネタバレを含みます。
近況ノートというよりむしろ、アルデバランの追想のぼやっとした設定のようなものを書き留めています。
アルデバランの追想は、ふたりの男の物語です。
一人目は、紹廸。ほとんどの話は紹廸の視点で語られます。
二人目は、サクラ。ほとんどの話において、サクラは何かしら真相を知っている様子です。
「紹廸が世界の終末に巻き込まれながらもサクラの介入によって終末を回避する」というのがアルデバランの追想のだいたいの話におけるストーリーの柱です。
ときどき違うものがあります。(第一章五話『陽炎』など)
しかしながら基本的にサクラは終末に関して何かしらの知識を持っていて、何も知らない紹廸を終末から救うためにあれこれと手回しをしています。
サクラは成績優秀な優等生であり、たとえサクラの言動がまるでこれから訪れる未来を知っているかのようであっても、「サクラならそういうこともあるだろう」と片付けられるような男です。
ところがどっこい。
そうではない話がいくつかあります。
まず最初はシリーズタイトルにもなっている第一章八話『アルデバランの追想』です。
この『アルデバランの追想』は、天界の代わりに悪魔と戦う世界の話です。
作中ではおもにブラックバードと呼ばれるこの世界の紹廸は、天界武器を手に悪魔を殲滅していく運命にあります。
八話『アルデバランの追想』は、九話の『まだサヨナラの時間じゃないね』はエピローグのため実質的に第一章の最終話にあたり、シリーズタイトルを回収する物語だけあって、他の世界とはかなり違っています。
サクラとの出会い方や、サクラがどのように紹廸の人生に干渉してくるか、というところは、明らかに他の物語とは異なります。
さらに、最も重要な違いは、この物語は唯一、紹廸の本名が明らかになっています。
他の世界ではサクラからは「紹廸」、友人からは「ツグ」と呼ばれ、紹廸の名字には言及されません。
それゆえに、紹廸の名前の持つ意味合いが、すべての物語を動かす根幹にあります。
柱時計で言うところの竜頭です。
次に紹介したいのは第二章二話『大団円よりいくらかはマシ』です。
誰もが特殊能力を持つ世界で、圧倒的な脅威を秘めた紹廸が、平たく言うと自暴自棄になる話です。
やさぐれはタイトルにも現れていますね。
この物語の特異性は「終末を引き起こすのが紹廸である」という点です。
そして紹廸は明らかに故意で終末を招きます。
終末を遠ざけようとしているサクラにとっては、この紹廸の言動はとんでもない衝撃でしょう。
そして、第二章四話『夜明け前より暗い場所』では、ついにふたりの立場が逆転します。
あるいは、第一章八話『アルデバランの追想』と同じ地点、つまり原点まで元に戻るとも言えるでしょう。
『夜明け前より暗い場所』の紹廸は、第一章八話『アルデバランの追想』の紹廸とかなり似ています。
錆び付いて掠れている。塞ぎきれないひび割れを押さえている。散らばった欠片を集めている。そんなどうしようもない人間です。
「あー、壊れている」と自覚しながらも、元に戻れないこともまた理解しています。
戦いながら、どこか疲れたように笑い、それでも立ち止まることが出来ません。
本質的には紹廸という人間は、このサイドの人間性を持っています。
ここで唐突に近況タイトル『僕は魔王、君はラスボス』を回収します。
シリーズのコンセプトとして「サクラは魔王ルートを持つ人間」として描いています。
ここでいう魔王とは「たったひとつを守るために世界の破滅を厭わない」という性質のことです。
実際のところサクラは、終末の回避を目的とはしていても、その救済は紹廸だけが対象であって、ほかの世界がどうなっても良いと思っている節があります。
第一章七話『レプリカ、レプリカ』ではその性質が顕著に出ていて、紹廸からナンバーを奪った世界のことを容赦なく切り捨てます。
一方、「紹廸は勇者ルートと魔王ルート、そしてラスボスルートを持つ人間」として描いています。
勇者ルートは第一章八話『アルデバランの追想』で守護者として救世主となる紹廸が分かりやすいかと思います。
魔王ルートは第二章四話『夜明け前より暗い場所』での、サクラを救うために罪を犯し続ける姿が該当します。
そしてラスボスルートが紹廸には用意されていて、これはサクラには辿り着けない場所です。
長く険しい冒険の旅路の果てで、魔王を討伐したその先に、紹廸は立っています。
あらゆる絶望を纏った状態、あるいは絶望さえもまだ生ぬるいような深い感情を背負って、紹廸はそこに居ます。
それが紹廸という人間、おそらくはシリーズの最終話です。
ちなみに紹廸の本名を姓名判断してみると、総合的にあまり良くない印象、というより悪いですね。
なんか、ごめんな。