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恋や明かさむ、挿絵64 蘇芳と梓弓

『蘇芳と梓弓』

時にふたりの壮士《をとこ》有り。
貴とき男、貌さやけくなまめかし。
益荒男、貌猛々し、梓弓のごとし。
貴とき男、益荒男の袖とりて曰く、

「月に日にしくしく思ほゆ 心を知らに  
夏麻引く 命かたまけ もとなそ恋ふる 
汝が帯ほどけ。」

益荒男袖うちはらひて曰く、

「乱れましなむ。吾は思わじ。」

貴とき男笑まし曰く、

「争はむ手もここだ愛しき。」

貴とき男、蘇芳より赤く匂ひたる唇で益荒男の……。


    *   *   *



『蘇芳と梓弓』

ある時、二人の立派な男がいた。
一人は、貴い身分で、顔は清らかで優雅である。
一人は、マスラオで、顔は猛々しく、腕は太く、立派な梓弓のように堂々たる体躯である。

貴い男はマスラオの袖をとり、

「夜も昼も絶え間なく想っている、私の心を知らないのか、(※注一)夏麻引く、命をかけて、むしょうに恋い焦がれている。おまえの帯をほどきなさい。」

マスラオはつかまれた袖を振りほどいて、

「ご乱心めさるな。オレはそのような想いはありません。」

貴い男は微笑み、

「嫌がってみせるこの手も、なんと可愛いことか。」

と、蘇芳の花より赤く際立って美しい唇でマスラオの……。






(※注一)夏麻引く……なつそびく。夏、麻畑からとった麻。命にかかる枕詞。



「恋や明かさむ」
古志加の章
第四十話  「花麻呂っ、次から次へと来るよー!」
https://kakuyomu.jp/works/16817330667140952851/episodes/16818093075802448416

8件のコメント

  • まだ追い付けていませんが気になります!
    大事に読みつつ早く追いつきたいなぁって改めて思いました。
  • きんくま様

    こんにちは。

    わはは、わははは、これはお遊びです。(^_^;)
    「いはゐつら」のあと、ぜひ、「恋や明かさむ」にお越しになってください。
    お待ち申し上げております。
    (お時間のある時に……)
  • 表情が美しすぎて、恥じらいすぎてっ(笑)。
    あはは、これは!これは!
    厨の皆さんが泣いて喜びますよ!?
  • 幸まる様

    あははは、美しい大川さまと、嫌がりつつ恥じらうマスラオです(笑)

    厨屋で働く小竹売作、「蘇芳と梓弓」

    紙は高価なので、口伝で伝わる秘話ですが、もし、現在のように紙が安価だったら、このような表紙の本として厨屋の皆さんに親しまれたでしょう。ぷぷっ(*´艸`*)
  • 千花ちゃん。

    おぉ~、美しき大川さまと恥じらうマスラオ。
    美しさの中に禁断の怪しさが……たまりませんね。

    コジカちゃんも頭の中で想像していやいやそんなまさかと混乱ですね。
  • この美のこ様

    うふふ、美しき大川さまと恥じらうマスラオです(笑)
    美しく妖しい、禁断の世界です。
    古志加の頭のなかも、しっちゃかめっちゃか、えらい事になってます(;・∀・)
  • イイゾ……、イイッ!!!
    これが、漢の美学だ!

    たまらんわーーーっ!!!
  • 虎の威を借る正覚坊様

    力強いイイゾ、ありがとうございます。
    厨屋の女官たちも、「これが漢の美学……。」「たまらんわーっ!」と喜んでいるようです(笑)
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