• ミステリー

『名探偵は、性別不明。』付記

 二〇一三年七月、ミステリファンの大規模オフ会イベントMYSCON11が開催されました。ミステリ作家の北山猛邦さんの持ち込み企画にて、イベントに参加された方々の協力で名探偵キャラクター「森澄紺」が誕生しました。本作は森澄紺を主人公に据えた、恐らく初めての連作短編小説となります。
 偶然で驚きましたが、乾くるみさんが森澄紺を起用した短編「GIVE ME FIVE」を収めた『ジグソーパズル48』が本作を連載していた二〇一九年三月に刊行されました(初出は『小説推理』二〇一四年一月号)。pixivを「森澄コン」で検索すると、くにもも・さくらさんによるイラストがみつかります。発案者の北山猛邦さんも、講演会で発表した犯人当て小説に森澄を登場させているようです。
 各話の冒頭にある引用の、引用元の詳細は次のとおりです。

第一話 『HELLSING』三巻(著者 平野耕太/少年画報社/二〇〇一年一月)八九頁
第二話 『鮎川哲也コレクション〈挑戦篇〉Ⅰ 山荘の死』(著者 鮎川哲也/出版芸術社/二〇〇六年六月)所収「赤は死の色」一五六頁下段
第三話 『刑事コロンボ 完全版vol.1』(発売元 ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント)所収「殺人処方箋」(リチャード・アーヴィング監督/一九六七年)からの聞き書き
第四話 『夜と霧 新版』(ヴィクトール・E・フランクル/池田香代子 訳/みすず書房/二〇〇二年十一月)一一七頁

 森澄紺と本作について、もう少し綴っておきます。前述の企画では、自身の創作物であれば許諾なしに登場させていい名探偵キャラクターとして「シャーロイド」という概念が提唱されました。森澄紺はシャーロイドの一人となります。初音ミクなど音声合成技術によって歌うキャラクターを「ボーカロイド」と呼びますが、それにならったのでしょう。
 森澄紺の設定については、キャラクターのアイデンティティを尊重する範囲での自由な解釈や改変が許されるとMYSCON11公式サイトに記されていました(二〇一九年四月現在、閲覧できない状態)。本作は、森澄のもっともインパクトのある特徴「性別不明」「色白美形」「十八歳で船上刑務所教祖大量殺人事件を解決」あたりは公式設定に沿っています。
 一方で、たとえば「制服を着ている」という特徴を「やや一般人離れした服装センス」に改めるなどしています。名前も公式では片仮名の「コン」ですが、漢字に変えました。森澄の両親の設定や、年表にある他の出来事(四歳のとき一夜にしてカジノで一千万ドルを稼いだなど)もあきらめています。森澄紺がどのような人生を送ってきたか、執筆を続けるうちに設定が膨らんできたためです。
 私はMYSCONに数多く参加し、楽しい時間を過ごすことができました。第一話を執筆したのは恩返しの気持ちが含まれていました。第二話は当初、独立した短編として構想していました。話の都合上どうしても名探偵キャラクターが必要となり、森澄を再起用することになりました。
 ここまで来たならば、短編をあとふたつ加えて連作短編にしよう。そんな気持ちになり、森澄紺の誕生から六年もかけて亀のような歩みでようやく完成に至りました。しかしながら、すでに本作を読了された方はご承知かと思われますが、このキャラクターの謎はさらに深まったようにも感じます。本格ミステリにおいて解けないことを許された唯一の謎、それが名探偵なのかもしれません。

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