同人誌『ヘリオテロリズム』Vol.2(発行人 そらけい/2005年4月)に寄稿した作品です。
十年以上も昔だけに記憶が薄れているのですが、写真をテーマとしたのは『美術手帖』2004年12月号の特集「日本写真史がわかる!」がきっかけだったように思います。本作の執筆を機会に写真の歴史に興味が湧き、東京都写真美術館の企画展「写真はものの見方をどのように変えてきたか」に通うなどしました。
この号はミステリ特集でした。ひねくれた私は「ミステリとしての体裁は整えているが、余りがでるものを書こう」とたくらみました。真相の大部分は明かしつつ、核心的な個所をあえて語り落としたのです。
当時の文章の拙さも手伝って、わかりづらい代物になりました。今回の改稿を機に文章を足したり、傍点を補ったりしたので、難易度は下がっているはずです。
蛇足ですが、作中で触れることができなかったタイトルの意味について説明しておきます。
アブラクサスはグノーシス主義の創造神話において、世界を支配するとされる存在です。ギリシア語のアルファベットは数字に対応させることができ、アブラクサスの綴りは合計で365、一年の日数と同じになります。
つまりタイトルは時の狭間を、正常な時間の流れから外れた領域を意味しています。アブラクサスという名前は、恐らく合計が365になるよう古代の人々が意図的に作ったものでしょう。そこが写真論を下敷きにした、人為と自然との響き合いというテーマと整合しているように感じられて選んだタイトルだったと記憶しています。