第1回創元ミステリ短編賞に応募し、落選した短編小説です。
落選を知ってからしばらくして驚くことがありました。書店で手にした井上悠宇『不実在探偵[アリス・シュレディンガー]の推理』(講談社/2023年6月)が水平思考ゲームを題材にしていたのです。
もともと「狼を食べた赤ずきん」で水平思考ゲームを扱ったのは、その前に書いた『おまえも犯人だ』がきっかけでした。悪夢という現実とは異なるルールに支配された領域を本格ミステリの素材とすることに面白さを感じました。この方向を模索してみたいと思い、試してみたのが水平思考ゲームだったわけです。
世の中には星の数ほどもミステリ作品がありますが、水平思考ゲームを題材にした作品を私は知りません。示しあわせたわけでもないのに、こんな近い時期に同じ題材の作品が現れるとは不思議なものです。幸い『不実在探偵の推理』を読んでみると、水平思考ゲームという素材の活かし方にはだいぶ違いがあるとわかりました。
公開をためらった理由がもうひとつあります。この物語に登場する少女について語りつくせていないように感じたのです。ミステリとしての仕掛けのため必要な設定を用意し、それはすべて作品に反映しました。ですが、なにかもっと大きなバックグラウンドが秘められているように思えてならないのです。
質問を重ね、想像力を駆使して隠された物語を探る。水平思考ゲームという素材を扱った時点でそうなることは決まっていたのかもしれません。