渡辺淳一の『阿寒に果つ』を読み返してみた。随分昔に読んだこの小説がもう一度読んでみたくなって取り寄せた。
中公文庫から出ているこの小説はけっこう分厚いけど、あっという間に読める。
若い頃の読後感は、「死に魅入られた少女」という印象だった。エキセントリックな短い人生を生きた純子の、自死という選択が、自殺した高校の上級生を思い起こさせた。死の理由は他人には分からない。「不可解」を残して逝った人への思いを重ねた。
数十年経って、また読み返してみて、複数の男性との交友を持ち、それに一時のめり込んでは捨てていった彼女の心象風景を想像しても「不可解」への不完全燃焼が残る。
若い頃にはまったく記憶に残らなかった姉とのエピソードを読んで、はっきりと言葉にはできないが、純子の心のなかの多くの部屋の一つが開いたような気がした。
女から見て思うのは、「俺こそが一番純子に愛された」と思っている悲しさだ。誰も愛していなかった。それこそが一番納得できる答えだなと思う。
もやもやとして、ずっと心に残り続ける純子という多くの男にとってのファムファタールという存在。不可解な行動と心情。そして、その結果としていきついた「死」かなと思う。
カタルシスがない小説だ。だが、多分、何度もまた読みたくなる小説だ。