――よく知りもしないどなたかと対立するような線を引いて、分かりやすい対比像を持ち出して、「自分の物語を読んでもらったから」と肩入れして味方の格好をしただけなのでしょう。その人を肯定するためのその言葉は、嘘偽りの無いとは言いません、ずるい含みの無い言葉ですか。だってあなたの言う「理想の読み手」は、“あなたにとって都合の良い読み手”と読み替えても一切矛盾が無いではありませんか。
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私が本当に真剣に潜ろうと思ったなら、きっと丁寧語は一旦外すだろう。今のところ深層には私とあなたしかいないのだから、そうね、ホントはもっと格好付けない話し方。
誰かに向けた言葉の話は別の機会で。ここでは物語への向き合い方について。
いただいた返答に時間のない時に気付いてしまい、でも上から下まで読んで、せめてメモくらいはと書き残した中に
「物語ではなく人を描いている?」
「ゴールは『(仮)内在宇宙』を全て言語化すること?」
と二つ書いてあった。
私は「あなたを通して見えた世界を描く」方法が今のところ最もやりやすい。言い換えると、他の誰かにそれ以上の何かを込められない、物語世界を俯瞰できない。そう、「技量が足りない」では何も表せていない。人間一人が活き活きと在れるような厚み、小石一つを手に取れるような質感。何一つものにできていない。
でも、やっと内在宇宙に繋がり得る別の誰かを意図的にでも想像するようになって、だからこそあなたの特権的立ち位置がぼんやりと分かるようになった。内在宇宙を探す、もしくは内在宇宙を歩く他の誰とも異なって、あなたはそこに辿り着くことはないかもしれなくて、そもそも内在宇宙のそのまた外にいるか、あなたが内在宇宙そのものであるのかもしれない。「メアリー・スー」にならないことは口約束するまでもなく、けれど、特別扱いする可能性が高いことは忘れずに。
ひとつ、『イデアの海』で現れた問いの答えは二つに絞られた。最初に、私はベンチで眠るあなたを見ていた。
『仮想箱』を通していただいた外からの視点で裏付けできたことがある。私があなたと視点を重ねるようにしてあの場所にいたということ。書き終えた後に自分でもそう書いていたものね。これでやっとメモの一つ目の問いが意味するところが見える。
少なくとも今私が「物語を描く」という時には、世界ではなくあなたを描いている。あなたを通して見えた世界と言い換えてもいい、でも世界そのものではない。だから登場人物のいない世界にはほとんど熱量が込められないと思っている。そして、私と深い関わりのあるあなたを描いた物語への評価が、私自身への評価であると必要以上に感じてしまう。私は書き終えた物語を自分から切り離さない。切り離せない。
一旦それを、良いか悪いかは別として。では私は、あなたを描いた物語が、例えば何かで賞を取るほどに有名になって欲しいのか。この答えにはクモリがない。これがメモの二つ目。私は内在宇宙を全て出力するだけの時間が欲しい。有名になることは目的ではない。本の形になった物語が売れて、働く時間、生活するために割かなければならない時間をなくせるならば、と、夢物語の手段として空想していた。そんな不純な物語は完成しないのではと思うのに。完成したとしてもそれは私たちの探していたものではないと、分かっているよね。
では私のゴールが内在宇宙の言語化だとして。私の描いた物語を美しいと言ってくれた読み手様のことはどう考えるのか。絶対に蔑ろにしてはいけない。仮想箱に関して言えば、“読んでくれている人がいる”というエネルギーがなければ1部3章の完結は叶わなかった。あなたの見た景色を美しいと言ってもらえた、この場合は“私”と切り離してそう感じて、だから嬉しかった。
『「承認欲求」は本物でしょうか。』
本物で、少なくとも今はそれがなければ深いところへ進むことができない。
けれどもし本当に内在宇宙を言語化したいだけならば、そのために生まれた物語はそもそも公開する必要がないのでは。永続化は元の記憶媒体一つあればクラウド上にいくらでもできる。主要企業のサービスは私が生物学的に死ぬまで残っているはず。
やっぱり私は随分と都合のいいことを言っている。たくさんの人に読んでもらえば「良い作品」と言ってくれる別の読み手が現れるかもしれない。それをエネルギーとして使おうとしている。そのエネルギーが無ければ先へ進めないのに、評価は半ば諦めたなどと嘘を言って。
どちらかに傾け切るための手は思い付かない。覚悟もまだ無いでしょう。でも、そもそも広く浅く評価を得られるような方向には進めないはず。そのための入力量も足りないし、特別なものも持っていない。オキアミのまま大海原に飛び出すようなもの。それでは星明かりすら届かない海の真ん中で消える。
もう片方は。そう、内在宇宙は私の中にしか無い。
それでいいのかな。メモの2つの「?」マークには一旦答えて、“在り方”は先延ばし。イデア第一層を出れば少し進めるかもしれないけれど、すぐにまた詰まってしまうと思う。
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本日はここまで。