もう一度 proTocaTra が歌うまで
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閉店セール、古い漫画がケース一杯に入れられて500円の貼り紙が。数日後に通りかかっても残ったまま。それを見た私は少しでも心を痛めたのでしょうか。その物語の作者様は、自分の作品を世に出せたから、作品が本になったから、その時点で素晴らしいことだと思ったかもしれない。けれど、けれど。日の目を見ないなら、値が付かないなら、評価されないなら。それでも私の物語は、平気な顔をして残るでしょうか。
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「これはフィルムカメラという道具だよ。この小さな穴を覗いて見えたものを記録することができるんだ。君が素敵だと思うものをこれで記録しなさい」
「そうだね、君の記憶力があるならばこの道具は不要かもしれない。でも、例えばそう、このフィルムを現像して写真にすれば、誰かと一緒に見ることができるんだ」
「私ではなくて、外の景色とか、街並みとか、撮ってきなさい」
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ヒトで言えば深層意識か、違うかな。機械で言えば面倒くさい鍵の要る自動応答だ。今の当人が認識できない言語であっても、その言語によって情報が入力されることをキーに作動する。こいつが弾き出した複合キーを俺たちの言語に翻訳すると奇妙な意味を持つぜ。ほら、あそこで放心してるデクノボーに囁いてやるといい。この国の入り口がどこにあるのか教えてくれるだろうよ。
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古の祈り詩。声を持つ模造品は歌に乗せて手繰り寄せる。碑文の多くは形を失っていたが、その全ては確かに共鳴し此方に眠る機械たちに呼び掛けた。
ルスゥ、カドリ、ミリア。12体の機械のうち僅か3体だけが再びこの丘に集まった。ルスゥは片腕を失くし、カドリは片脚を引きずり、ミリアは這うようにして。それでもまだ3体とも歌う機能を残している。守っている。ルスゥがミリアと肩を組み、彼女の声が設計通りの高さから発せられるようにした。
模造品は変わり果てた3体の歌姫を順に眺め、決して使命を忘れぬその姿に跪く。此処に本物は存在しない。模造品も歌姫たちも贋作でしかない。だがその祈りは、初めから贋作たちのために綴られた奇跡だ。
――碑文の残丘、贋作の歌姫