高校で友達と話した。
「ね、千花。知ってる? 幸せのぬいぐるみ」
「何、それ?」
「いつのまにか、自分の持ちものにまぎれこむの。持ってると、めっちゃラッキーになれるんだって」
「へえ」
千花は幼いころに重病をしたせいか、少し冷めたところがある。どうも信じられない。
「これこれ」と、友人は写真を見せてきた。
それを見た瞬間、千花の心臓がはねた。
「なんで、この写真持ってるの?」
「だから、バズッてるんだって」
「これ、わたしのクマだよ?」
どこにでもあるクマのぬいぐるみだ。けっこう古びて毛がダマになってる。
「じゃあ、いいことあった?」
「えっ? 別に……」
と言ってからハッとした。医者は治る見込みがないと言っていたのに、なぜか、とつぜん、自分の病気は治った。もしかしたら、幸運のぬいぐるみのおかげかもしれない。
(そういえば、いつのまにか、なくなってた)
千花の順番は終わったからだ。今度は、ほかの子のところへ幸せを届けに行ったのだ。
(ありがとう。クマちゃん)
帰宅してから、千花はぬいぐるみのことを母に聞いた。
「前にうちにあったクマのぬいぐるみなんだけど——」
「あれね。千花ちゃんが病気のとき、ママの実家近くのお地蔵さんにお供えしたのよ。千花ちゃんの病気が治りますようにって。そのあとすぐ、千花ちゃん、病気治ったでしょ? お地蔵さまのおかげかな?」
「えっ……? お供え?」
すると、そのとき、スマホが鳴った。さっきの友人からラインだ。
『言い忘れてたけど、そのぬいぐるみ。自分でいなくなる前にすてると復讐に来るらしいよ。死体なんか、ひどすぎて見れないレベルだって。千花、すててないよね?』
すてる? お地蔵さまにお供えするのは、すてたことになるのか?
その夜、ベッドに入っても寝つけなかった。誰にも言ってないが、この数日、夜になると、外から変な気配がするのだ。
トントンと窓ガラスをたたく音が……。
※こちらはKAC20232用に書いた作品です。お題は人形だったか、ぬいぐるみだったか。もう削除していいはずなので。