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『半人前のメディシアンと破天荒な王女』を読んであれこれ思った話(ネタバレあります💦 そして長いです💦)

私の好きな作家さんの堀井菖蒲さんが『半人前のメディシアンと破天荒な王女』という小説を現在連載しております。

https://kakuyomu.jp/works/16818093072814362604

現代ドラマがお得意の堀井さんにしては珍しいファンタジー小説でして、タイトルにもあります半人前のメディシアン(現代のお医者さん)が獣人の相棒と一緒に、朱殷熱(レグア)と呼ばれる流行病にかかった王女様を直し、ひいては流行病を鎮圧していくというお話です。堀井印の太鼓判が押してありますから、読みやすくて面白いんですが、単なるファンタジーじゃない! このお話には深い、ふかいテーマが隠されているのです……。

メディシアンが主人公なので病気と治療が物語の軸となっているのですが、「健康のあり方」に関する含蓄に富んでいて、読み進めながら「はっ」とすることが大変多いんですよね。

例えば、第八話でゴブリンの家族が子供の朱殷熱を直して欲しいと主人公のメディシアンであるタイラーに頼むのですが、ここでは朱殷熱の特徴が詳しく説明されます。栄養が十分に取れている健康な人がかかっても軽症で済むが、身体が弱っている人や虚弱な人だと重症化するとか、終生免疫ができるとか、設定がリアル。

ゴブリンは知能が低いので、食料調達手段が限られていて栄養が十分に取れない。だから子供が朱殷熱にかかってしまった。栄養のある動物は自分たちでは狩れないから、死んでいるものを見つけて食べ物にする。でも死んだ動物は病気を持っているかもしれないので、穀物を育ててはどうかと勧めるタイラーに、生態系が崩れてしまう心配をするゴブリン。ここで「ああ、確かに健康って環境からバランスが取れてないとダメだよな」と、包括的な視点に思わず膝を打ちました。

その後、主人公は王女を治すのですが、もぬけの殻のようになってしまっている王女。タイラーはどうして治療がうまく行かないのかを考える必要が出てきます。第二十五話、第二十六話では、ベテランの治療者との会話を通して、自分の治療を振り返ります。

そこで気が付いたのは、病気の原因や、薬となる食べ物がどのように作用するのかを考えずに盲目的に作業していた自分の姿でした。「原因究明、実行、検証。これを繰り返して、医術は発展するのです」と、治療者だった母親から教えられていたのに、その考えに至らずにいた自分を恥じる主人公。そして、王女の状態の原因を探り心身相関の法則を見つけ出します。このあたりも単なるファンタジーとは一線を画す深さにうーむと唸らされます。

話は少し変わるのですが、最近とある医療関係者の方とお話する機会がありました。良い方だし、お話しやすくて、一緒にいる間は楽しく過ごさせていただいたのですが、なんというか、すごく断片的な印象を受けたんですよね。医療にまつわるお仕事をされているのに、衛生管理に無頓着だったり、特定の身体的・精神的な特徴に偏見を持っていたり……。少し特殊な環境で育ったせいもあるとは思うのですが、それも含めて「なぜそうだったのか」「なぜそれをするのか」「なぜそう思うのか」というもう一歩踏み込んだ考えを持ったら、ものすごくお仕事にも人間性にも深みが出て、患者さんたちにも言外の信頼感みたいなものを与えられるのではないのかなあ、と感じました(大きなお世話なんですが……😓)。

で、その方のことを考えているときに、堀井さんの『半人前のメディシアン……』を思い出したんですよね。主人公のタイラーはメディシアンとして特殊な能力を持っています。食べ物の効能を読み取ったり、その効能を増幅させたりできます。でも、ベテラン治療者に出会うまでは「なぜ」という観点が抜け落ちていることに気付きません。

「なぜ」という疑問を持つことは、「目的や意図をはっきりさせる」ことでもあります。「なぜ」を考え始めてタイラーが行ったのは、知識のネットワーク(体系)化です。体系的に知識を見直したところ、新たな知見を得ることができ、それを治療法に還元しました。その結果、無事に王女が意識を取り戻したので、タイラーの母親の教えだった「原因究明、実行、検証」の手順が満たされます。さらに、意識を取り戻した王女は、その治療法を社会に普及させるようにタイラーに働きかけます。つまり、タイラーが個人レベルで体系化した知識を社会に還元させようとするわけですね。

このお話から推論できるのは、明確な意図は、断片的だった知識を体系化していくこと。知識の体系化という観点があれば、包括的な視点から物事を解決していける可能性があること。そして「原因究明、実行、検証」と科学的な裏付けがとれた解決方法であれば、普遍性も高く、社会で広く活用していける可能性が高いこと、などなど……。これは医学だけではありません。教育や社会システムについても同様だと思います。

『半人前のメディシアン……』には、個人レベル、そして社会レベルでの知識のネットワーク化、そしてそこから得られる新たな知見を個人の知識および社会の知識として還元していき、より良い生活に結び付けていく、という社会的な深ぁあいテーマが編み込まれているのではないでしょうか……! 視点が広い! こんな見地からファンタジーが書ける菖蒲、おそろしい子!(by 月影先生)

また、「なぜ」という意図は人間じゃないと持つことができません。AI は処理はできますが、意図は持てませんからね。そのあたりでも、人が人たるためには「なぜ?」という疑問を怠ってはいけんのじゃ! と感じさせるお話でもあります。

頭空っぽにして読めるお話もいいんですが、それだけじゃない! 楽しく読みながらも思考を促される『半人前のメディシアンと破天荒な王女』、ぜひ読んでみてください!

2件のコメント

  • つ、月影先生、ありがとうございます。

    まさか近況ノートで自作をここまで深く解説し、宣伝して貰うなんて事態が起こるとは思わず……。読んでから「いや、これは夢だ」と思って一時間ばかりウォーキングをして頭をすっきりさせ、これを書いています。

    「ファンタジーを書くことはなかろう」と思っていたのですが、ぼんやり浮んだアイデアを物語に肉付けしていく手段として「医療物」にしてみたのですが、舞台が「中世後期のヨーロッパっぽい」にしたのでどこまで具体的に書いたらいいのか難しく、「伝わってんのかな?」と心配していました。まず、言いたいことは伝わっていて良かったです。

    コンテスト用なので十万文字以内に仕立てないといけなかったんです。ならば風呂敷は普通サイズでいいはず。なのに十人用テントに敷けるくらい大きな風呂敷を広げてしまいました……。

    そして何より、「異世界ファンタジーを書く」のが照れくさくって。
    でも、お陰様で吹っ切れました。「あの娘」くらいしっかり熱量を注いでシリーズを完結させます💪

    この近況ノート、私の近況ノートおよびXで照会させて頂いてもよろしいでしょうか?
  • オーッホッホ! 月影千草です笑

    『半人前のメディシアン』すごく面白いですよ! 読んでいていわゆる「英雄譚」のツボが抑えられているのが良いな〜と思っていました。

    「英雄譚」というのは、ジョセフ キャンベルという哲学者が古今東西の英雄話を解析して見出した、主人公がお話の最後に英雄たる人格に至るまでに踏むプロセスのパターンを指します。ジョージ ルーカスが「スター ウォーズ」を作る際に、この英雄譚のパターンを用いたことは有名です。ひいては今のラノベの無双キャラに引き継がれるのですが、イマでは英雄になるための苦労部分が薄まってしまいすべてチートで処理されてしまっています。

    でも『メディシアン』では、主人公がきちんと苦難に向かい合って、代償を支払いながら使命を果たすのに必要なアイテムを手に入れているのがいいなと思いました。そしてその度に学びがある。良いファンタジーのお手本みたいな作品だと思います。

    医療関係の内容がリアルでも良いんじゃないですかね? ほかの作品は転生してチートばっかりしてるんだから、それに比べたら、与えられた能力で解決法をジローに助けられながら見出して、十分にファンタジー内で完結していると思います。

    それに王女が民を救いたいと思う動機もいいです。今のラノベのヒーローは、自分がすっきりするだけで「他の人のために」って視点があんまりないんですよね(悪役令嬢系では多少ありますが)。宇宙戦艦ヤマトまでは「地球のため」だった使命が、ガンダムからエヴァに至る系統では個人レベルの葛藤に縮小してしまったので、逆に王女が個人的な体験から社会に目を向けるというのは新鮮に映ります。

    というわけで、ファンタジーも向いてますよ! ジローが卵から出てきてすぐにムキムキだったり、やたら女性に人気があるのも面白いです。長く読めるので風呂敷大きくて良いです。続きも楽しみにしています!

    こんな延々とした解説で良ければどこでもご紹介ください🤗


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