フウギは激怒した。必ずや。
あの邪知暴虐の王を取り除かねば。
ならぬと決意した。
フウギには政治がわからぬ。
フウギは社畜である。
目覚ましに起こされ。
早朝深夜。
電車に揺られて暮らしていた。
けれども不景気に関しては誰よりも。
敏感であった。
いつものように電車に乗ると。
電車内がやけに寂しい。
のんきなフウギも段々。
不安になってきた。
傍にいた。
若い衆を捕まえ。
「何故、これほどまでに活気がないのだ」
と問いかけたが。
若い衆は何も答えない。
車両を変えると。
老爺に会い。
言葉を荒くして問いかける。
「何故、これほどまでに暗い表情をしておるのだ!」
老爺は答えなかったが。
身体を揺さぶり。
真剣なまなざしで見つめると。
老爺は口を開く。
「……王が、増税をなさったのです」
「何故、税を増やすのだ」
「税が足りぬと申しますが、使用用途がわからぬお金があふれ。税は余りもうしています」
「王は、たくさん税を増やしたのか」
「はい。始めは森林環境税、それからインボイス。それから、子育て支援金。それから」
「おどろいた。王は乱心か」
「いいえ。乱心ではございませぬ。……人を、財源を信ずることが出来ぬ。と言うのです。近頃は、大臣すらもお疑いになり、辞任に追いやった次第でございます」
「呆れた王だ。一言言わねば気が済まぬ」
フウギは単純な男であった。
通勤かばんをてにしたまま。
普通電車で。
東の京へと駆けて行った。
東の京の王宮前に向かうと。
門前の警史に捕まり。
懐から住民税未納の催促状。
が零れ落ち。
王の前に連れだされる。
「税を払わずに。何しに参ったのだ。早く申せ」
王は静かに。
そして、威厳をもった声色で言った。
「民から暴君の手から救うために参った」
フウギは悪びれずに答えた。
「自らの税すらも払えぬおまえが何を言う」
王が憫笑する。
「言うな!」
フウギは絶えず言葉を発す。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は民である私の懐さえも疑っているのか!」
「疑うのは、正当な心構えだ。そう、教えてくれたのはお前たちだ。言っておくが、私は増税なぞしておらぬ。インボイスは前政権から決まっていたことである。故に、わしが首相でなくとも決まっていた。第一、今までお目こぼしをして払わなくてよいようにしてやったのに。その恩義を忘れ、怒るとは何事だ」
暴君は一呼吸置いてから。
ため息交じりに続ける。
「わしとて平和を望んでおるのだ」
「何のための平和か。自分の地位を守るためか」
フウギが嘲笑して言い放った。
「だまれ。住民税未納の下賤の者よ! ……口では幾らでも清らかなことを言える。わしにはお主の奥底が見え透いてならぬ。住民税の免除してもらいたくて来たのであろう。其の支払日は今日までであるのだからな」
「ああ、王は悧巧だ。うぬぼれるがよい。私は自らの税が増える覚悟で参ったのだ。税の減額や免除なぞ決して求めていない。…ただ」
フウギは覚悟を決めて言う。
「私に情をかけたいなら。三日だけ。この住民税の支払いを待ってはくれぬであろうか」
「ばかな」
王はしわがれた声で低く笑った。
「とんでもない嘘をつく。逃げた未納税者が、戻ってくるとでもいうのか」
「そうです。帰ってくるのです」
フウギは必死に言い張る。
「私は約束は守ります。三日だけ猶予を下さい。それまでに住民税の納付金額を集めてきます。そんなに私の帰りが信じられなかったら、この都に、昔、カイロ大學にて友人になった。小さな池と呼ばれる者がおります。その者に支払わせてください」
王はほくそ笑んだ。
生意気なことをいいよる。
どうせ、払うはずがあるまい。
人はこうだから信じられぬのだ。
まぁ、よい。
「願いを聞き届けた。その身代わりを呼ぶがよい。三日目の日没までに帰ってこい。遅れたら、その身代わりに払わせる。ちょっと遅れてくるがよい。おまえの住民税は永遠に赦してやろう」
「永遠と言うことは。来年分も赦してくれるのですか」
「えっ?」
「えっ?」
走れフウギ 完。
書いている途中で。
休憩時間が終わったので打ち切りとなります。
橘風儀の次回作をご期待ください。