亜済公

▶日本国憲法の改正を経て〈戸籍省〉による人権の剥奪が横行するようになった近未来日本。自分を『動物』だと思い込み某動物園に収容された少年Tが、密室となった檻の中で無残な屍をさらして…

　あの刃の落ちる、ドスン、という重苦しい音。 　首も、大気も、見ている者の意識すら、すっぱり切断してしまうかのような。 　血しぶきだって、死体だって、ネットにはいくらだって転がっ…

　ぐぢゃり。 僕は握った肉塊を、両手で二つにねじ切った。命っていうのは、煮込んだ茄子みたいに柔らかい。あるいはひょっとすると、僕自身の生命だって。

「ミャクミャク様」とは、古事記や播磨風土記に記された民間伝承、および伝承に登場する水神、あるいは厄神の総称である。第二次世界大戦後の日本民俗学会で注目を集め、学問的流行を引き起こ…

ふうん、と母は答えつつ、目玉焼きを二つに割った。とろり、と半熟の黄身が溢れる。ぱっくりと割れたその格好は、どこか傷口を思わせた。鋭利な刃物で、切りつけられた真っ白い皮膚……。

　いつだって悔しそうに知子はいうのだ。微かに肩を、上下させ、ゴーグルをひょい、と外すのである。きっと、数センチの差だったろう。私は敗北していない。けれど、「勝利」とも、思えなかっ…

私は、絶対に死ねないんだよ。傷だろうと、怪我だろうと、たちどころに治ってしまう。――そういう、呪い

――地上にしかいられない。空を見ても、何も見えない。ビルからジャンプすることでしか、どこか行ける気がしない。そういう、子供じみた感傷なんだ。

眼窩には、くしゃくしゃになった、目の残骸だけが残っているんだ。栄養を吸われて、空っぽになった僕の眼球。可愛い、可愛い、僕の右眼。黒ずんで、湿った瘡蓋みたいだった。ぽたぽたと、白っ…

――山城の国小椋といふ所の農人、久しく心地悩みけり。或時は悪寒発熱して瘧の如く、或時は遍身痛み疼きて痛風の如く、さまざま療治すれ共しるしなく、半年ばかりの後に、左の股の下に瘡出来…

それは、いわゆるマネキンとは、趣を全く異にしている。全体に作りが稚拙であり、表面の磨きも不十分だ。大人と同じくらいの背丈であるのに、比して足がやたらと短い。直線的、と表現するのが…

「前頭葉の大半と、頭頂葉の一部分が、えぐり取られていたんです。一目見て、とても助からないと思いました。次いで、彼女が生きている……生きようとしているのが分かったとき、何か、得体の…

私は妻の頬を打った。ぱちん、と冷たい音がした。もう一度、その頬を繰り返し撃ってみた。ぱちん、と今度はやや熱っぽい音がした。妻は、動く様子がなかった。私は、再び同じ頬を打とうとして…

……この状況で、表層的な記録と、深層的な記憶とは、全く別に考えなければならないのです。最終的に残された個体は、記録の上では歴史を持つ。けれど、記憶の上では、この上なく空虚な存在……

誰もが前進を続けていた。前を向いて、昨日より今日、今日よりも明日、より早く走ろうとする。いつからか、私は自分が、一人立ち止まっていることに気がつくのだ。

　――到着予定時刻まで、あと十分です。 　眼球に設置された視覚素子が、視界にそう表示した。どうやら、居眠りの時間はないらしい。わたしは手元の鞄を探り、身分証を確認した。 「第五種…

公衆電話は、全部で五つ。彼らはケタケタいやらしく笑い、誰かへ電話をかけていた。自らの受話器を自らに当て、自らのボタンを自ら押す。その唇から唾液が跳ねて、私の頬に張り付いた。

ほろり、と人形は涙を流し、わたしは念入りに舐めとってやる。それから、いつものようにキスをするのだ。彼女の、永遠を祈りながら。今日も明日も、変わらず昇る、あの太陽に祝福されて。 …

思うに人は、他者との関係性の中で生きている。だから肉体的な死の後に、他者に認識されることで、初めてその死は承認される。初めて死者は確認される。認識されない死は死ではない。認知され…

ジョニー・ジョニーはジョニー家の次男として生を受けたが、彼自身がそれを望んでいたわけでは決してなかった。望んでいたわけではなかったのだが、望まないというわけでもまたなかった。つま…

限りなく希薄な時間の中に、浮かび上がる陶器の輝き。原稿用紙６枚で展開される奇怪な空間。

歴史上一度だけ、我々が邂逅を果たした奇妙な島。垣間見える「何か」を求めた、文化人類学の権威である熊野教授のエッセイを、雑誌「文学と歴史」より抜粋。

写真機を携え、夜の街を歩く男は、ある光景に触発される。無数の足が地面から生える日常の中、彼はどこへ向かうのか。奇怪な世界を描きだし、現代を鋭く風刺する傑作。

——故郷の地で、奇妙な祭祀に遭遇した主人公。彼は果たして何を見たのか？　太古の遺物が時を超えて現代に現れる。 小説家川光俊哉先生に講評をいただきました。→https://not…

——私が誰より知っていることが、ただ一つだけあるとすれば。泣くのを我慢していると、段々悲しくなくなってくること。何も怖くなくなって、いつしか何も愛せなくなる……。

我々が蓋をし必死に目を背けている本質は、底知れぬ嫌悪感を呼び覚ます。濁りきった風景を描く奇怪なる全三話。 ※ロボット工学三原則の概要は、　アイザック・アシモフ『われはロボット』…

《作成する人格のSEXを入力してください》 　SEXもないだろう、と思いながら、私は女性、と入力する。 《作成する人格のGENDERを入力してください》 　やはり女性、と入力した。

—— 魚は、実に美しかった。その細かな鱗は微かな燐光を発し、チカチカと明滅する。水面は陽光を反射して、スペクトルの欠片が、燐光と共に舞っていた。 清涼かつグロテスク、幻想的な短…

全五話に渡り描かれる、矛盾に矛盾を重ね無限に円環する奇妙な構造宇宙。至上の言語実験SF。 ――例えばSという少女がいる。少女が分裂すればそれは§と表され、二つに割れるか串刺しに…

そこには焼きそばがあったが、カップ焼きそばはなかった。なぜなら、カップがなかったからである。

紅茶の香りの中、一人の少女が泳いでいる、セーラー服。

延々と連なる山岳地帯に重なった、膨大な遠心力の凱旋門は、轍を穿つ軽便鉄道の閃光に感嘆した。

無限に出てくるご馳走……そんな光景を幻視したことありませんか？ 五分で読めるショートショート。

僕が僕になり、僕が君になるただそれだけの話。

貴方の目が今後もそこに有り続ける保証なんて、どこにもないのですよ。

－－見られることへの欲求は、案外、性欲なんかよりずっと強いのかもしれない。他人に見てもらえなければ、存在する意味なんかどこにもないんだからね。生物の最も重要な存在意義は、他者の観…

あなたがいるのは瓶の中ですか？　外ですか？

ここはどこでしょうか。

巨大ロボ同士が戦う話。 対怪獣兵器となった男は、怪獣が一匹残らず駆逐された後、自分が「正義の味方」ではなくなったことを実感する。

今日、母親が生えてきました。

15年前の3月14日。「1+1=2」が事実上否定された。当時の対談や社会への影響を振り返り、今日、某日刊新聞で特集が組まれた。

わけわからん。