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『こじき若殿』への感想【自主企画参加用記事】

【冒頭1万字以内に出てくるなかで一番好きな登場人物と台詞】
若殿
「このまま死なせるわけにはいきません」

【1万字程度としてキリの良い話数】
第01話~第04話

【具体的な想定読者】
高校生くらいの方

よろしくお願いいたします。

2件のコメント

  • こんにちは
    自主企画へのご参加ありがとうございます

    思いの外、企画が盛況でして、レポート提出までお待たせしそうです。

    さて、なんですが。
    このように改まって四谷軒さんの作品を読ませていただきレポートを書くとなると、なんだか緊張しますね 笑。

    では、また後日。

    ありがとうございました
  • 大変遅くなりまして、申し訳ありません

     まさかのこの時期に喉風邪をひきましたのね。周囲を散々心配させて寝込んだわりに、本当にただの風邪(扁桃周囲炎)だったわけなんですが、そんな近況報告はおくとしまして。

    「四谷軒さん、初めまして!」の心で読ませていただきました。


    【総評】

     主人公の葛藤、内情がよく伝わってくる。また3人の登場人物も、それぞれが物語の導入に役割を果たしていた。
     一方で、高校生に対しては、漢字選択がやや難解か。物語内での状況説明は過剰。
     説明すべきところ、描写すべきところ。このふたつの選択が説明に偏りがちなところが難点。

     さて、それぞれの細かい言及を続けていきます。ほとんどひとつ、いかに自然に説明事項を提示するか、についての指摘ですね。


    【説明台詞が入りがち】

     「……寒い」とは、わざわざ言わずとも地の文から伝わっています。この場合、寒いということは自然かもしれませんがさきキく、第一声から「このまま凍え死ぬか」の方が、インパクトがあって良いでしょう。

    《若殿が貰ったものを放り投げ、土間に伏すかたちで倒れていた継母に近寄る。思わず触れたその手が。

    「熱い……」

     額に手を回してみると、たしかに熱い。
     継母は、体調を大きく崩していた》

    改定案:
    ①直前の台詞から発話者=主語を引き継ぎ、冒頭の主語を削る
    ②「継母」に係る修飾が、不必要になされているので、削る
    ③最後の一文は、説明台詞にして新規情報をもたらさないので、削る


    《施しの鉢を放り投げ、駆け寄る。土間に伏す継母に、思わず触れたその手が。

    「熱い……」

     額も、疑いなく熱い》


     四谷軒さんの場合、その台詞がその場での発言されるに自然かどうか、と考えるステージから一歩進んで、その台詞が物語を構成するに有効な一手であるかどうか、と判断なさる方が良いかと思います。より高度になりますが。

     四谷軒さんの文章は、切り取られたような行為の連続、スピード感のある言葉の並びが魅力なので、それをさらに際立たせるためには、とにかく文章を簡潔に!
     特に、修飾というか、「つなぎ」の言葉が過剰になりがちなところを気を付けていただきたいです。



    【回想への入り方】

     他の作品でもそうなのですが(初めまして、の前提は忘れてます 笑)、回想への入り方、イクスキューズが漫画的です。

     大ゴマに主人公の顔アップ、外枠が黒ベタになり、過去に飛ぶ。というような、形式上の「過去ですよ」サジェストが、説明感を増させます。

     小説は、他の映像メディアよりもさらに、時空的飛躍をシームレスに行える表現方法です。
     その特性を活かし、継ぎ目ないシーン切り替えを行い、ここぞというときに、場面転換を明示するサジェストをとっておくと良いかと思いました。

     本作は三人称にて進む物語ですので、若殿が自分を抱き締める→父は〜と直に回想に入ることに違和感ありません。
     特に、ここは冒頭シーンですからね。読者の脳内イメージを固定するためにも、場面展開ではなく付帯説明として、若殿の生い立ちを描いた方が好ましいです。

     それで、さらに構成に関して踏み入れますとね。

    「旅僧が、好奇心旺盛な人柄だったからである」

    という一文は、いささかいただけないので、完全にこの老僧を、「若殿の生い立ちを説明するための聞き手」に据えた方が良いのではないかと思うわけです。

     冒頭は、寒さの中、力なく家路へ向かう若殿。しかし、実は生まれは賤しくないのよ、と仄めかしつつ。ただひたすらに現状に耐えるも、耐えきれない胸の内を明かし、読者の同情を集める。
     老僧の登場 → 若殿と継母の出自の卑しからざることを言い当てる。「さて、何故なるか?」との疑問を読者に代わって尋ねさせる。
     若殿が、実は……と語り出す。

     この構成だと、場面の飛躍がなく、かつ自然に過去を「説明」することができ、
    「若殿は、その苦衷を他人に語るのは始めてだったが、旅僧が思いの外、聞き上手で絶妙に相槌や問いをしてくるので」
    との地の文とも、調合がより良くなります。

     説明台詞を入れたい場合、説明される必然性を持つ登場人物(余所者や子ども)を出すことは定石ですが、これも同じです。


    【その他、細かいこと】

    《寒風だけでない、足元は、夜来の雪が冷たく若殿の粗末な草鞋を履いた足から体温を奪う》

     修飾関係要整理。
     主語を「足元は」と読むと「足元が体温を奪う」となってしまいます。成立しないことはありませんが、より好ましい主語は「夜来の雪」かと。


    《ましてや、城を乗っ取った井上をおいておや》

     文意不明瞭。
     これも、説明台詞への指摘になります。

     「況や〜をや」の反語構文であることは読み取れますが、ここでの挿入は少し浮いています。
     「まして、井上ぞ」と台詞を立てて、地の文で「城を乗っ取った男に頭を下げるとは〜」と付け加えた方が、自然に感じられました。


    《狐の肉》

     猪は捕獲が難しいとして、冬山の猟なら兎とかの方が美味しいと思います。
     狐、肉食ですから、美味くないです。



    【まとめ】

     さてさて、今回は遅れましたうえに、また好き放題言っておりますね、お許しください。

     キャラクター性から見ると、若殿の素直さが描かれると同時に、貧窮に荒んだ心や継母への苛立ちなど、思春期らしいアンビバレンツとその葛藤が表現されていて、大変魅力的に映りました。
     良い物語でした。

    ありがとうございました
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