どうやら僕は死んだらしい。
魔王城直前、迷いの森で茂みから飛び出してきた突進ウサギに殺された。
なんという間抜けだろう。ここまで死なずに頑張ってきたというのに。
目の前に見える懐かしき我が家は幻だろうか。これが世に聞く走馬灯か。
・・・・・・にしては、いやにはっきり見えるな。
おい嘘だろ。勘弁してくれ。
生まれたばかりの赤子のような声が出た。
現実だ。
眼前に建つは僕の家。僕はここから旅に出た。
「初期リスかぁ」
体を起こし、装備を確認する。
服装は旅に出たときのぼろ、木の枝一つ持っていない。
全ロスだ。
初期リスへ戻された挙句、装備も経験値も死んだ場所へ置いてきた。
せめて森へ入る前、宿のベッドで寝れていれば。
リス地の設定ができていれば、そこから復帰することもできたはずだ。
地道にレベルを稼ぎ、時には村人と交易し、やっとの思いであそこまで行ったのに。
黄金の林檎も、獄灯龍の骨鎧も、金剛石の剣もすべて置いてきた。
仲間がいればまた違ったのかもしれない。
だが、貧乏勇者に着いてくるもの好きなんているはずもない。
それもこれも、全部国王のせいだ。
魔王討伐に行けと言うのに宿代一つくれやしない。
「はあ・・・・・・。なんかもう、どうでもいいや」
僕は立ち上がると自宅を通り過ぎ、魔王城と反対方向へと歩を進めた。
この世界は水を張ったスープ皿のような形らしい。
魔王城はスープ皿の中心部に位置している。
そして皿からは絶えず海の水が溢れ出ているそうだ。
だったら、魔王城から反対へ旅に出よう。
世界の端をこの目で見てみたい。
どうせ村に戻ったところで爪はじき。
国王に会えばまた魔王討伐へ行かされる。
なにが勇者だ。
ただ手の甲に星型の痣があっただけじゃないか。
世界の命運なんてくそくらえ。僕は僕の旅に出る。