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物語が始まらない『廃番の飴』

 色も大きさも不揃いなファンレター。担当編集から送られてきた小包の中には、今日もまたカラフルな封筒が収まっている。

 その中に一つ。ひときわ厚みのある封筒が目に留まる。

 紙のものとは思えない硬い感触に、取り出してみるとからからと小さな音を立てた。
 そっと封を開き「あっ」と声が零れた。

 冬の朝の色をした封筒から、夏の夕日の色が一つ出てきた。
 白く縁取られた丸い缶。中央には小筆で『飴』と書かれている。

 封筒の中でかさりと音を立てた便箋を取り出す。眩しいほどに白い便箋に、細く、硬い文字で文章がつづられている。


  拝啓 赤巻青子 様

  僕は先生の書く花野みつ子シリーズが大好きです。

  学生の頃に出会い、みつ子の明るさに救われました。一年に一冊、みつ子と

  新しい世界に触れることがとても楽しみでした。

  だから花野みつ子シリーズの連載が止まってとてもショックでした。

  先日、雑誌のコラムで先生が「本を書くときはシリーズごとに飴を選ぶ」と

  言っているのを見て、もしかしてと思いました。

  シリーズが終了した前後に廃番になった飴を探して、僕の中で、一番、花野

  みつ子シリーズとイメージがあう飴を選びました。

  同封した缶は、製造元の飴屋さんに頼んで作ってもらったものです。

  まったくのお門違いでしたらごめんなさい。知らない人からの食べ物は怖い

  とも思います。ご迷惑でしたら捨ててください。

  でも、もし、当たっていたら。もし、よければ、またみつ子の物語を書いて

  頂けないでしょうか。どうかよろしくお願いします。

                                 敬具

                          近所の悪がきの一人        

                                長野栄太


年度末に向け多忙により、物語シリーズはしばらくお休みとなります(*- -)(*_ _)ペコリ

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