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物語が始まらない『ある生物の記録』

 その生物は、乳離れしたばかりの子猫くらいのサイズだった。
 両手で持ち上げると、腹を見せているにも関わらず、おとなしくされるがままになっている。
 濃いグレーの毛は短く、つやつやと光を反射している。とても柔らかかったが、水生生物特有の脂肪によるハリを感じることができた。ネズミのようなしっぽは長く、しなやかではあるものの感情は読み取れそうにない。
 その生物はカモノハシのような嘴の横に、申し訳程度についている小さな黒い瞳をこちらに向けてくる。

 ふいに腕に違和感を感じた。
 左腕に淡い緑をした植物が見える。
 一見すると豆苗が4、5本腕に刺さっているようだ。しかし直感的に違うと感じた。刺さっているのではない。生えているのだ。
 白い皮膚の下に緑の茎が薄く見える。葉を震わせるそれらは、私の腕から生えてきたに違いない。

 茎が接する部分に、微弱な電気を流されているような痛痒さを感じる。おそらくこの植物が毒を発しているのだろう。
 原因は分からないが、この生物を触ったことを発端に身体から植物が生え、毒を流されているようだ。はてさて、どうしたものか。


240112 夢日記

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