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谷根千ぶらぶら

 台風が通り過ぎたので、日暮里にある朝倉彫塑館に行ってきた。前々からずっと行きたいと思っていた場所。建物の近くまで来たことはあるけれど、いつも素通りしていた。
 一部屋目から息を呑んだ。日光が燦々と差し込むアトリエは2階部分まで吹き抜けになっていて、数体の朝倉文夫の彫刻作品を昼下がりの光が照らしていた。一つの作品と目が合い思わず息を止めた。今にも刀を振り出しそうだった。
 アトリエの奥には、誰もが一度は教科書で見たことがあるだろう「墓守」の姿が。くたびれた布の質感、年老いてなお、死者を見守るものとしての威厳を持って生者に向けられた鋭い眼光。生きている人間よりずっと生々しい生の香りを感じた。
 書斎の天井まで壁一面に取り付けられた本棚も圧巻。しかし何よりここの見所は、彼がこだわった住居部分であろう。気泡の入った古いガラスから覗く中庭は少し歪んでいて、そこもまた味わい深い(戦前に作られたガラスが好きで、本郷にある「伊勢屋」という建物のガラスが特にお気に入り。)。笹の葉の擦れる音、水面で口をぱくぱくさせる錦鯉、水の溢れ流れる音、障子の隙間から通り抜ける風……まさに「自然と一体になる」とはこのこと、と思った。白い塗壁、曲線を描くコールタールの外壁、そして日本家屋部分の瓦のコントラストの優美さにも心奪われた。全く異質な素材・形状のものが絶妙なバランスで混在し、違和感なく受け入れられるとはどういうことだろう。増築を繰り返してきたというが、彼の美意識には感服するのみである。
 そして屋上庭園。男が身を乗り出して地面を見下ろしている。一体何をのぞいているんだろう?想像するのもまた楽しい。
 今まで行かなかったことを心から後悔した。これが500円で見られるなんて、東京都、太っ腹すぎる。

 朝倉彫塑館を満喫した後は、谷中銀座、通称夕焼けだんだんをぶらぶら。どら焼きを買ったり、籐のかごを見たり。ベーゴマを遊ぶ子どもたちを見た時は、一瞬違う時代に迷い込んでしまったかとくらりとした。観光客と地元住民が混在している様はなかなか面白い。

 明日は何をしよう。夏休み最後の日だ。アップルパイでも作ろうか。

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