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くろてんゲーム化エッセイ32.世界包括神話-ギリシア編(5)

ようやくTwitterにゲーム動画があげられました、ということで一安心。その余勢でこれです。『オデュッセイア』までやる余裕はないし、次はエジプト神話! と、思いましたがその前にギリシア神話の万神殿における、主要神格なん柱かを紹介してギリシア編の終わりにしたいと思います。

・ゼウス
 言わずと知れたギリシアの主神。全知にして全能にして絶倫な、猿の如きエロ天空神。いい年した髭のおっさんでありながら万年発情期のヤリたい盛りな若造の如き性格とそれを強引に押し通す権力と実力を兼ね備える、ひじょうにタチの悪い神さま……まあ、実のところゼウス以前の地中海世界というのは地母神崇拝が強かったので、クレタ島出身のゼウスの王権を認めさせるには土着の地母神たちとの婚姻というお話を多生強引でもでっちあげる必要があったと、そういう背景があります。それにしてもやりすぎだろうとか、せめて合意を得ろよという気が非常に強くするわけで、古代ギリシア人はこういう強姦話が大好きだったのでしょう。そもそもギリシアって一夫一妻制だったはずで、ゼウスのやりようは明らかに逸脱しまくっています。おかげで彼の血を継ぐ英雄が多々生まれた、ということもありますが。
 女神レアから生まれたオリンポスの神々としては最後に生まれた末弟でありながら、上の姉弟がことごとくクロノスに喰われてゼウスによって生まれなおしたために扱いは長兄という、よくわからん出生でもあり、この生まれもなんらかの暗示があるのかとおもわれますがそのせいか家長的鷹揚さと末弟的な甘ったれ気質を兼ね備えます。まあ基本的に我が儘で強引。全知全能であるはずなのに自分の常時の相手が妻であり妹神でもあるヘラによって酷い目に遭うことを見通せず、そして彼女らの不幸をまのあたりにしても平気で次の相手のところにとんでいく放蕩の神でもあります。ギリシアの神々というのは人間のモラルとかあんまりしばられないので、総じて全員自由なのですよね。人間たちにとっては迷惑千万なのですが、古代ギリシア人というのは運命論者で「神と運命の裁定には逆らえぬ」と諦めていた節があり神を恨んだ、憎んだという話はあまりありません。
 武器は雷霆ケラウノス。単眼巨人キュクロプスの三兄弟が鍛えて献上した必殺の武器です。古代人にとってもっとも恐ろしかったのは気象現象、その中でも嵐と稲妻であり、主神が雷神を兼ねるのは当然の帰結。このへんはインドのインドラが扱う「ヴァジュラ」、北欧オーディンの雷槍「グングニル」とトールの「ミョルニル」なんかと共通です。ケルトの主神ヌァザ・アーケツラーヴの「クラウ・ソラス」だったりその後継ルー・ラファーダの「ブリューナク」なんかの「腕が伸びて敵を討ったように見えた」という表現もやはり雷の残光でしょう。ただ、あまりに強力すぎる力ゆえかゼウスがケラウノスを積極的に扱うシーンは案外に多くありません。その辺は最低限モラルを守ったという所でしょうか。

・ヘラ
 ローマではユーノー。ゼウスの正妻であり、その特徴としてはとにかく凄まじいまでの嫉妬深さ。ただし相手が放蕩主神ゼウスなので、そりゃあ腹も立つし怒りもするでしょう。問題は彼女の怒りの矛先が常にゼウスではなくその浮気相手の美少女たちに向くことで、だいたいゼウスの寵愛を(無理矢理に)受けた女たちはヘラの怒りによって悲惨な目に遭います。ゼウスがイオと密通したときはイオを雌牛に変えてしまうという人権の無視ぶり。おまけにゼウスが決してイオに会えないよう、百眼の巨人アルゴスを見張りにおくという、これだけでも相当な徹底ぶりですがゼウスがヘルメス神を放ってアルゴスを眠らせるとヘラはイオにアブをけしかけ、刺されたイオはイオニア海を泳ぎ渡ってエジプトに渡り(そのゆえにイオニア海と言うわけですが)、そこで女神イシスになったとかなんとか。
 ほかにも生まれたばかりのヘラクレスに毒蛇けしかけて殺そうとするとか苛烈な女神ですが、もともとヘラという名前はへロス(英雄=ヒーローの語源)の女性形なので怒りと嫉妬に狂ってないときは優しく礼儀正しい貴婦人であり、貞淑な妻です。ゼウスはヘラと結婚するため婚儀の300年前からずっと求愛していたほどにヘラにメロメロでしたし、いくら浮気しても最後にはヘラのもとに戻ります。その都度ゼウスは「おおヘラよ、今まで数多の美女や女神を相手にしてきたが、お前ほどの美しき女神に目に掛かったことはない」と歯の浮くような言葉をかけるのでした。

・ポセイドン
 ローマではネプチューン。ネプチューンと言えばキン肉マンを阻む。連想する46才の遠蛮ですが、ポセイドンと言えばあの喧嘩番長的なイメージでだいたいあってます。海神としてオリンポスに住んでいないにもかかわらずなぜかオリンポス12神に数えられるポセイドンですが、大地の女神デメテールとならび海も大地も人間の生活になくてはならないものなので信仰を集めるのは当然。あとはギリシアという地中海世界の交易路の中心として海路が使われるということが大きかったでしょう。
 ゼウスの弟(兄)であるだけに姓には奔放。正妻はアンフィトリーテですがデメテールを攫って妻にしてますし、怪物として知られるゴルゴン三姉妹、あのステンノ、エウリュアレー、メドゥーサの三人もポセイドンの愛人です。ほかにも多くの海のニンフ(妖精)を囲っていますが、特別エピソード的なものはなし。
 武器は三叉の鉾。もともと武器と言うより猟具ですが、ポセイドンと言えばこれという象徴的なものですね。気性の激しさはギリシア神話中でもトップクラスで、怒ると津波は起こすし海獣をけしかけるとし手がつけられない暴れ者なんですが、だいていいつでもゼウスにはやりこめられます。所詮喧嘩番長扱いというか、強大なポセイドンをさらに強大なゼウスがおさえつけるという筋立てによってゼウスの王権がより確立されることになるのでした。

・ハデス
 ローマではプルート。冥府の支配者ですが冥府=地獄という単純なものではなく死者の魂を裁き管理するという意味でインドのヤマ神とか中国の東岳大帝なんかに近いものがあります。ハデスという名は「見えない者(アイデス)」に由来するとされ、実際冥府の自分の館に住んで人前(神前)にはほとんど姿を現しません。ひきこもりです。魂の裁定という仕事はしてるのでニートではないですが。
 このハデスが珍しく地上に出るとやはりゼウスの兄弟、ポセイドンと同じく一人の少女を見初め強引に冥府に連れ去りました。この少女がペルセポネー(地上における名前は違うのですが、すいませんど忘れです)で、嘆き怒った母デメテールが乗り込んでくるのですがそのときすでにペルセポネーは冥府の食べ物を口にしていたため、地上に帰ることを許されず、ただしゼウスの温情で1年のうち春と夏の間だけは地上に戻れると言うことになりました。
 ハデスというのはけっこう心優しいのか、ペルセポネーを喜ばせるためにちょっとでも地上に近く見えるように冥府の景色を作り替えるとか言う、細やかなところがありました。ゼウス、ポセイドンと比べるとだいぶ優しい紳士です。ただしギリシアにせよローマにせよ、民衆が「死者の神」をあがめるという概念を持たなかったためハデスに捧げられた信仰はほとんどなく、その証拠にギリシアにハデス神殿というものはなく、神からも人からもほとんど無視されてひっそりくらす神でした。象徴する武器が「姿隠しの外套」であることも影の薄さを象徴しています。

・デメテール
 ポセイドンの妻である女神。もともと地母神であり、穀物を守護する豊穣神。新興のゼウスたちが勃興する以前の最高神。アッティカのエウレシス派においては最高神であると同時に背絶対神であり、全てを創造し、死者をも蘇らせる力を持つとされた。ローマでの名前はケレース。

アテネ
 ゼウスとメティスの娘神……ただし普通の生まれ方はしていません。メティスが生んだ自分の子が自分を凌ぐであろうと預言されたゼウスは妊娠中のメティスを丸呑みしてしまいます。しかし出産予定日、ゼウスの頭のてっぺんからアテナは完全武装の女神の姿で飛び出しました。鎧と盾と兜と槍で完全武装した、愛らしい女の子、という表現で。
 女神としての献納は知恵と技術と戦いと多岐にわたり、特に戦神としての側面が強いですが後述アレスのように蛮勇を誇るタイプではなく、智慧と機略で勝ちを制する戦略家タイプ。メティスを介さずに生まれたと言うことでゼウスの大のお気に入りであり、永遠の処女神であり、地上で戦争があればだいたい、ひとかたの守護神として人びとを導きます。技芸の女神としても出色であり、とくに機織りの守護女神として著名。アテネ神殿には機織り技術の向上を願う女性の参詣客が絶えなかったそうです。

・アポロン
 ギリシア神話の神様というと美形で均整の取れたイケメンというイメージありますが、そのイメージをひとえに抱えるのがアポロンです。ほかの男神はたいてい髭だったりマッチョだったり根暗だったりであまり美形ではありません。もともと小アジア全体で信仰されていた「永遠の美青年」であり、自由と若さの守護神を司り、音楽、芸術、詩の守護神であると同時に、獰猛な狼を使役する牧畜の神でもありました。
 なにより特筆しなくてはならないのは預言者としての能力で、デルフォイ神殿を中心としたアポロン神殿では巫女の口を借りての神託が(「シビュラの託宣」と呼ばれます。シビュラという巫女の少女がきわめて熱心で優秀な預言者であったため)行われました。
 また、恋愛にも強かったですが、お相手は同性の美少年であることが多かったようです。ヒヤシンスのルーツになったヒュアキントスとか。

・アルテミス
 ローマ名ディアナ。ゼウスの娘で月の女神であり、狩猟を司り、たいへんな男嫌いであると同時に無垢な童貞の守護神でもありました。ちなみにギリシアにはほかにも月の女神がいますが、セーレーンが天、アルテミスは地上、ヘカテは冥府の月を司り、基本だれが崇拝されるかというとやはりアルテミスだったようです。

・アフロディーテ
 ギリシア一の淫蕩を誇る、美と愛の女神。もともとギリシアではない小アジア、メソポタミアの方でイシュタルと呼ばれた大地母神であり、神でも人間でも気に入った相手には寵愛と加護を与える、優しい……というか奔放な女神。夫ヘパイストスがいるにもかかわらず軍神アレスと逢瀬を重ねたあげく、衆神環視のなかでアレスとの房事を暴かれて三行半を突きつけられるもののまったく反省せず(もとより悪いことをしたと思わないので)、次々に男を喰いまくるスケールのでかい女神でした。息子エロースはローマのキューピッド。

・ヘルメス
 旅人と盗賊の神にして魔術の開祖。後世ギリシア・ローマ系の魔術学のことを「ヘルメス学」といいますが、それはこの神様が「実在した偉大な魔術師」であったとされることに起因します。なので魔術学的には非常に興味深い神様ですが、ここではあくまで神話的なヘルメスを。
 アポロンに匹敵するくらいの美形ですが、その適当な性格と無節操さから決定的に違います。生まれたその日にアポロンの家畜を盗んで遊んだというくらいの生来の盗賊で、享楽主義で、富と幸福と繁栄をもたらす神ですが、自分を崇拝してくれる相手なら誰でも加護するという寛容というか適当な神様です。庶民派。

・アレス
 ローマ名マルス。ギリシアよりはローマの方で高名。なにせ三月は「マルスの月」という意味ですし、ローマ皇帝は代々「マルスの矢」という特別な矢を保管していました。
 にもかかわらず本家のギリシアではあまり活躍がなく、アフロデーィテの愛人ということと凶暴獰猛な性格くらいしか伝わりません。ギリシアは基本的に女性優位の社会なので、ゼウス、ポセイドン、ハデスという桁外れの三人以外は女神に喰われがちであるうえに、戦争、という加護する対象の競争相手がアテネであるということで埋没しがちでした。だいたいはアテネが加護するがわの敵役。

 ……以上11名。他にも語るべき神は存在するかも知れませんが、だいたいこれで主要なところはカバーできたかと。それでは、本日これにて。

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