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くろてんゲーム化エッセイ-16.世界包括神話-北欧編(2)

昨日は住宅売買契約その他で10時近くまで出先、4時過ぎまで自宅作業でしたがようやく一休み、実に40日以上? ぶりの休養日です。とはいえ家のお仕事、うちのおかんの世話やら、炊事洗濯はやらねばなりませんがお出かけやら契約やら諸手続の必要がないのはだいぶ違います。というか昨日の契約のあと、精神の緊張が解けたんでしょうね、二日市駅から博多駅に移動して博多駅にいる間中、脳神経がおかしくて妙な具合でした。普段から相当につらくはあるのですが、昨日のはかなり格別。よく倒れずに済んだなと思います。

さておきまして本日は北欧の(2)。ロキの子供たちの説話と、神々の宝物の説話になります。

ロキの子ら
ロキにはシギュンという貞淑な妻がいましたが、彼の有名な三人の子供はロキとシギュンの間の子ではありません。ロキがシギュンの貞淑と忠実に満足せず、ヨトゥンヘイムの女巨人アングルボザと間にもうけた子です。

長子は狼フェンリル、次子は蛇ヨルムンガンド、三番目はヘル。神々はいつもロキのいたずらに手を焼いていましたから、この子供たちがロキから生まれたと知ると非常に不安がりました。ノルン(運命の三女神。上からウルド、ヴェルダンディ、スクルド)たちに相談しましたが、彼女らは「彼から被る最悪のこと以外、なにも期待するな」と言うのみで解決法を提示しません。なのでオーディン以下の神々は4人(母アングルボザ含む)を捕えることに決めます。ヨトゥンヘイムを強襲、アングルボザに猿ぐつわを噛ませて捕え、まずヨルムンガンドをミッドガルド外辺の海に放り捨てます。溺れさせるはずでしたが、ヨルムンガンドはたちまちに成長してミッドガルドの海を囲みきってしまいました。このためヨルムンガンドはミッドガルドの大蛇とも言われます。

ついでオーディンはヘルをニフルヘイムの霧と闇の中に放り込みます。彼女はニフルヘイムの9つの国を支配し、死者の家エリュードニルを築き、悠々と女王然として過ごします。彼女のナイフは《飢え》であり、ベッドは《病床》、病床のとばりは《ほのめく不幸》でした。フェンリル狼だけは普通の狼に見えましたが、一番強力なのはこの魔狼でした。全ての神の中にあって彼に食事……肉の塊……を与えられたのはオーディンの子(という扱いにされた)チュールだけでした。ノルンたちは「彼こそオーディンに死をもたらす者」と警告し、以後フェンリルは日に日に巨大化していきます。ノルンたちはしきりに警告を繰り返し、神々は彼に足かせをはめることを決意しました。まずリングウィル島にフェンリルを連れ出し、レーティングという鉄の鎖がフェンリルの足に巻きましたが、瞬時に砕かれます。ついでドローミという鎖はレーティングの数倍の硬度でしたが、これも粉々。最後に、小人たちに作らせたグレイプニルの縄、「猫の足音、女の髭、山の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾」で作られたこれがついにフェンリルを絡め取ります。フェンリルはこれが小人の魔術の品であることが分かったので身に巻かせることを拒んだのですが、チュールが担保として自分の右腕をフェンリルの顎門に差し入れたので我慢して巻かせ、そしてやはり謀られたと知った瞬間、チュールの腕を食いちぎりました。そのときほかの神々が笑っているわけです。これは神喰らう狼をようやくとらえたという意味でもあり、かつての主神チュールの王権がこれによりオーディンに移ったことの象徴神話でもあります。

神々はグレイプニルの端にゲルギヤという鎖をつけ、その端をギョルという、大丸石につなぐと1マイルほどの深さに埋めました。さらにギョルを固定するためスヴィティという大岩を落としました。フェンリルはなおも身をゆすり、暴れ、大口を開けますが、このとき神の一人が剣を抜き、フェンリルのあごを地面に串刺しで縫い留めます。フェンリルは遠吠えし、涎を垂らし、これがリングウィル島の支流アーム《期待》川となりました>
フェンリル、ヨルムンガンド、ヘル。この三匹の怪物はそれぞれに終末の日を待ちます。

神々の宝物
神々はオーディンのグングニル、トールのミョルニルなどそれぞれの持物がありますが、これはもともと神の持ち物ではなく小人たちが作って与えたものです。小人たちが進んで神々にプレゼントしたのではなく、ロキの計略により献じさせられたのでした。いきさつとしてはロキがまず雷神トールの妻シフの髪を刈り取るといういたずらをします→トールブチ切れ→殺すぞロキぃ! →ロキは冗談だったから許せというものの、トールは聞かず。殺そうとしますがロキがシフの髪と、それともっと素晴らしい宝を持ってくると言ったのでかろうじて命だけは助けました。

シフの髪をもとに戻せるとしたら小人しかいません。なのでロキはまず小人イーヴァルディの息子たちに会いに生き、まず前以上に見事な、輝き風になびく金のかつらを作らせます。ついでにスキーズブラズニルという分解可能な大船と、稲妻の神槍グングニルをも作らせ……そしてすぐ帰るのではなく、ブロックとエイトリという小人の館を訪れるとイーヴァルディの息子らと彼らの対抗意識をあおり、これより優れたものを作るなんて、キミらには無理だよ、と煽ります。

煽られたブロックとエイトリは完璧な黄金の猪、草原も海も空も構わず駆けるグリンブルスティ、また同じく完璧な黄金の腕輪、9日ごとに自分と全く重さの金腕輪を8つ生み出すドラウプニル、そしてもう一つ完璧なものを作るはずがロキの横やりで不完全になった銀の大斧、雷霆のミョルニルを作りました。

ロキは両者を連れてアスガルドに戻り、彼らにプレゼンさせて、「勝者に神々の感謝と友情、そして褒賞を与える」と約束。イーヴァルディはシフにかつらを、スキーズブラズニルをヴァン神族の王子であり神々の福王であるフレイに、グングニルをオーディンに捧げ、ブロックとエイトリはグリンブルスティをフレイに、ドラウプニルをオーディンに、ミョルニルをトールに捧げます。そして神々が最も素晴らしいものと決したのは、ロキが邪魔をして不完全なものとなった大斧ミョルニルでした。ブロックは賞品としてロキの頭を求め、神々は進退窮まるロキを嘲笑しますが、ロキは「頭をとってもいいが、首に触れるのは許さない」こう言ってまぬかれるものの、ブロックはならせめてお前の口を縫い合わせる、と腕を伸ばします。ブロックのナイフでロキを傷つけることは出来なかったのですが、兄エイトリの錐を借りると刃が通り、革ひもでロキの口を縫い留めます。この革ひもはすぐに引きちぎられますが、激痛にロキは復讐の事ばかり考えるようになったとのこと。それまでのロキはいたずら好きの変質者ではあっても外道な悪魔ではなかったのですけども、このあたりから神々の黄昏の予兆が始まります。

本日これにて。次話で光の神バルドルが死に至る顛末と、ロキの捕縛、最後に神々の黄昏ラグナロクを語りたいと思います。

4件のコメント

  • おぉ…(>_<)💦
    おつかれさまです🍉
    本当に、あまり無理なさらずにですよ〜🍉
    北欧神話、結構奥が深いんだぁ(*'ω'*)フムフム
    ゆっくり休める時は、ゆっくりしてくださいねー🍉
  •  いつもためになるご講義をありがとうございます(* u.u))
     不躾ながら、急な質問です。enbanさんの中で神話とはどのようなものなのですか? 単純な興味からです。

     私は愉快な祖父が作った夜伽話が時代を経るにつれて洗練されたか、凄腕の文筆家の手によるものかと捉えています。
     神話がどのようなものかはよく語られているかと思いますが、どのようにして形成されたかは一般人の身ではあまり聞きません。世間一般がどうか、enbanさんの解釈はどうか。その辺りどのような解釈なのかご講義いただけますと尚楽しく続けて拝読できます。

     40日ぶりとは忙しさが過ぎるようです。どうか健康だけは損ないませんよう(* u.u))
  • 神話がどのように始まり形成されたか。
    遠蛮がいつも非常に語りたい、しかし語る相手のないお話をよくお聞き下さりました、少し長くなるかも知れません。お覚悟を。

    もともと神話のおこりというのは、たぶん日本人にとって日本神話がやはり、一番わかりやすいんですが王権を民衆に承認させるための宣伝文書であると、いいかたに衣を着せなければそういうことなのだと思います。だから天孫(高千穂系、現皇室。実際には一度、壇ノ浦で断絶しているわけですけども)族にとって邪馬台国やら、出雲神話の神……天孫以前の王家、支配者層は「国つ神」として新しく押さえつけられるか、滅ぼされる。タケミナカタみたいに諏訪まで逃れて新しく諏訪大社なんか建立できた大物もいますが、そのタケミナカタの父親、オオクニヌシの出雲大社は立派ではありますものの、実のところアレは巨大すぎる影響力をもつオオクニヌシを封じておさえこむべき牢屋であり、その牢番に配されているのは別天つ神というイザナギ・イザナミ以前の祖神です。……というのも実は怪しく、実のところ彼らも権力闘争に敗れた天孫……皇室直系派閥外の神様ではないかと思われるのですが(実際、アメノミナカヌシは蘇我氏の祭神だったらしいですし)。とにかく為政者の正当性を手っ取り早くわかりやすく、民に知らしめるためには「おはなし」という形にして広めるのが一番だったというわけです。だいたい何処にでもある創世神話、あれも皇統の権威付けということでことさらに荘厳に書き立ててはありますが、だいたいにおいて原神話に比べるとだいぶ後から、王権が根付いた後で血統書の証明というか、上等な家系図として作られたもの、に過ぎません。

    以上がまあ、おれごんさまが問う「世間一般の解釈」を自分なりにかみ砕いたお返事になります。そしてここからが「遠蛮自己流の解釈」ですが。

    「神話」=「弁士と民衆が共同作業で面白おかしく肉付けしていった結果にできあがった、その国の民話に土地ごとの意見解釈を貪欲に取り込んだもの」です。この場合サンプルになりやすいので三国志をひきあいに出すとします。神話ではないですが、わかりやすいはず。

    まず、「説三分」というすごくつまんない物語が三国時代直後に成立するのです。それはもう、どれくらい面白くないかというと「ガンダムというロボットの名前だけ出てくるけど実際にはテイム・レイがエンジニアやってるシーンばっかりやっててガンダム出ない詐欺」みたいなもので。まあ三国志なので一応活劇ではあるのですが、基本的に殺し屋の張飛が一人で無双するだけのおはなしなので、殺伐とするばかりで盛り上がりようがないのです。そのくらい盛り上がりに欠けるものなんですが、これが講釈師=吟遊詩人といっても良いですけども……の語りと、それを聞く民衆たちの「次はこのシーン入れて」「次はここ!」という要求に応え続け、最終的に羅貫中という天才(これまた一人の天才なのか複数人のペンネームかはっきりしませんが)の手に編纂されて中国屈指の名著になりました。まあ三国志は明初の動乱からの換骨奪胎がすさまじく、そこのところを知って自分としては批判的にもなるのですが(特に明の天才軍師・劉伯溫の功績がほぼすべて孔明のそれとして人口に膾炙し、劉さんの名声丸つぶれで可哀想、とか)。

    それはさておくとしてもとは素朴な物語を、民衆と弁士がひとつの物語に昇華させていくというあの感覚がまさしく神話の形成過程であり、醍醐味なのだろうと自分は思っております。だから同じ神話でも福岡と大阪と岩手ではたぶんいろんなところが違いますし、そしてまったく違う土地の共通点なさげな民話にも、いろんな土地を渡り歩いて神話を広めた弁士の影が残ってどこか似た話もあるのだと、遠蛮は思うのです。ケルトを例に挙げますとあれがアルスター神話、フィオナ神話だった頃のお話とアーサー王伝説の共通性を調べるとやはりまあ、キリスト教化されたアーサー王伝説がどんなにケルトの臭いを消そうとしても、消しきれない共通点類似点が残っていますし、なので今の時代盛り上がっているゲームやアニメのお話も、2000年消えずに残ったら神話伝説になっているかもしれません。遠蛮が拙作で言うところの「世界包括神話(作中で露骨にこの言葉を出したことはありませんけども、作品を貫く骨子としては常にそれです。世界中の神話・歴史のごった煮いいとこ取り)」を先んじてやっているのはタイプムーンさまのFate、あのへんだと思って先越されたと思っていますが要はああいうことで、もしかしたら古代日本で朝廷側の思想押しつけ的な意味を持って弁士の話を聞いていた民衆だって、「アーチャー格好いい、セイバー可愛い」と同じ感覚で「スサノオさまかっこいー、コノハナサクヤさま萌えー」とか言ってたかも知れないという感じです。まあ多少もっとまじめに聞いていたはずながら、そういう風に民衆の人気を獲得していったからこそ大和朝廷は長らく今に至るまで存続して自分達の氏神、その系譜を伝えられているのだろうとまあ、こんなものでしょうか。為政者側は必死に「俺たちの王権の証明!」とか、言ってたはずなんですが、民衆というのはだいたいがそんなまじめに考えてなかったはずなのでやっぱり「物語」として面白いものを吐いた側を支持するのではないかなと。近々で語らせていただいた北欧の話につなげますと、やはりチュールが王権から転がり落ちたのはオーディンという外来の神がもってきた「知恵」というものもあるのでしょうけど、その知恵に付随して「オーディンが支配しトールが暴れ回りそしてロキが引っかき回す」、あの長編叙事詩的な世界観を突きつけられたらやはり民衆はつまらん……というか素朴なチュールの神話よりオーディンがひっさげたあの神話につくだろうと、小人たちがオーディンたちにプレゼンした話を出しましたけれども、オーディン(新為政者)がチュール(旧為政者)と民衆の支持を懸けてプレゼンしたのだろうと思います。そしてぶっちぎりで勝ったのだと。

    そして最後に、遠蛮にとって神話とは。もうこれは簡単です。「自分の源泉」であり「元ネタの宝庫」です。30年以上歴史と神話ばかり読みあさっていますと、大概のお話はどこかで外出のものなっているわけです。「あぁ、この話の今の件はあの神話のあそこに似てるな」という。なので自分はそれを逆手にとって、拙作中の歴史や神話と現実世界に存在する歴史や神話を対照的に描いて「あぁ、これあの神話(あるいは歴史)のあそこか」と人に言って欲しいわけですが、今のところ誰からも言ってもらえず……配し方がわかりづらいのか、単純に自分の文章力の稚拙かと懊悩するところ。

    以上、お答えになっているとよいのですが。もしこれでは飽き足らん、とさらに踏み込んだお話を要されますならDMのほうにくだされば。この手の(神話および歴史関係の)話に関してはいくらでも語りたいことがありますので、多忙につき少し時間は掛かりますけれども神話関係書籍一式ぞろっと引っ張り出して、腰を据えてお話させていただきます。むしろ積極的に、語らせて下さいというくらいですが。それでは。
  •  ご講義ありがとうございました(* u.u))
     増築に改築で、冗長と洗練を繰り返して今の形になったのでしょうねぇ( ˘͈ ᵕ ˘͈ ) その紆余曲折を知るだけでも地図作成にも似た妙味を味わえるのでしょうね。嵌ってしまうのも頷けます。

     これだけの内容をDMで独り占めはもったいないです。是非こちらか、あるいはどこかで共有されるべきものと思います。

     お身体にはお気をつけください。脳内物質過剰で疲れ知らずなだけでドッと崩れるかもしれませんから。一度そうなってしまうと進捗が全くのゼロになってしまいますからね。衷心から念押しします。
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