ここのところ大忙しの遠蛮です。月曜は母の病院二つ。これが役所の手違いで来月からの保健所しかなかったために全額自費の10万超え。背筋の凍る瞬間でした。注射一本で5万とか……。そして昨日はその還付手続き……そんなもん、本来後期高齢者介護保険で1割のはずのところですからね、9割返して貰わないと、ということで役所に行き、再交付していただいて保健所へ。まあこういうことも経験にはなります。そろそろ「母の襁褓を代える」頃が来ているようで、むかし戯れにそう言う時期も来るかもねー、と言っていた頃、うちのおかんは「絶対にない」と言ったものですが最近はそれも気弱になり非常に心配……今日は自分の病院……本来なら昨日の予定でしたが、一日ずれて今から……、そして明日は新居購入の契約交渉です。これだけでたぶん、半日はかかる……健康で人付き合いのいい人間ならともかく、脳障害持ち引っ込み思案コミュ障の自分にはかなり辛いです。
泣き言はここまででさておきまして。本日は北欧神話。いわゆる「陸のケルト」ですね。いわゆる現代の一般的なファンタジーの素地と言えばたいていが北欧か、ギリシアになる感じですが。元ネタにする人が多い=それだけ神話としての完成度が高いわけですよね。
もともとケルトというかゲール(ガリア)人というのは現在のフランス一帯に住んでいたわけですが、ローマに責め立てられて北だったり東だったりに奔らされ、北の海を渡ったのが島のケルトことダーナ神族、東に走り北欧に住み着くに至ったのが、陸のケルトことアース神族でした。
現在伝わる創世神話としては「まず南方にあるムスッペル(炎の巨人の国)にスルトがおり、神と世界を滅ぼす日をこのときからすでに待っている。北にはニフルヘイムという氷の領域があり、中心にはフヴェルゲルミルの泉があり、フヴェルゲルミルは11の支流を持つ。この南北の国の間に、ギンヌンガァプ(欠伸する裂け目の意。虚無の国)があって、フヴェルゲルミルの水が流れ込むとここは毒霧と疾風に包まれるようになった。
北方が完全に凍てついた頃、南のムスッぺルは溶けて燃え輝くばかり。この時両国の気を受けてギンヌンガァプの空気は澄んだ穏やかなものになり、ニフルヘイムからの風はギンヌンガァプの氷をわずかに融かし、雫をしたたらせます。この雫の中で原初の生命が胎動し、一人の巨人となります。この巨人の名をユミル。
ユミルは霜の巨人で、生まれた瞬間から邪悪だったといいます。人間の創造はえらくぞんざいで、彼が寝ている間にかいた脇の寝汗から、一対の男女が生まれたとされます。ちなみにこのとき同時に足をこすりあわせたユミルの足裏から生まれたのが霜の巨人たちです。霜の巨人たちはこの自分達の祖をアウルゲルミルと呼びました。
ギンヌンガァプでさらに多くの氷が溶け出すと、その雫は雌牛アウドムラとなります。ユミルは彼女の乳を飲んで食事としていましたが、アウドムラの食事はそこらへんの氷でした。
創世の最初の日。アウドムラが氷を舐めていると、氷の中から人間の髪が見え、さらに舐めると二日目には人間の首が現れました。三日目。ついに最初の人間が姿を現します。彼の名はブーリ。
プーリは逞しく長身で美男子でもありましたが、彼自身についての言及はあまりありません。息子ボルが霜の巨人ボルソルンの娘ベストラと結婚し、ここから生まれたのが「人間」オーディン、ヴィリ、ヴェーでした。
……この創世神話自体が、本来は違うのですけどね。本来天神として北欧を支配していた絶対無二の神はこのアース神族の神話においては武勇と勝利の神というチンピラに堕とされたチュールであり、最強の雷神ながらおつむの弱いトールもまた、本来的には雷が地に与える栄養とそれによる豊穣を約束する、軍神であり豊穣神でした。ただ、この源神話に関してはほとんど資料がなく、「オーディンを始祖とするアース神話は後世付託されたもので正統とは違う」程度のことしか知らず、大層なことは言えないのですが。まず確かなことはオーディンは北欧の正統な神ではなく、異国から流れてきて「知恵」という武器で北欧の素朴な神々を従えるに至ったなんらかの文化英雄の神格化、ということです。
ともかくも、チュール神話はわからないのでオーディン神話を続けますけども。オーディンたち三兄弟は自分達を取り巻く環境……火の国ムスッペルと氷の国ニフルヘイム、空虚なギンヌンガァプだけの世界……に嫌気がさし、さらにはユミルの眷属・乱暴者の霜の巨人たちに腹を立てて、とうとう全ての生命の祖、ユミルを攻撃して殺します。ユミルという巨人は全ての巨人族の中でも破格に巨大でしたから、流れ出る血はおびただしく、その洪水で霜の巨人はベルゲルミルとその妻を除き、全員、溺死してしまったと言うことです。
しかるのち、オーディンとヴィリとヴェーはユミルの身体引き裂いて宇宙を創造しました。肉からは大地を、骨からは山脈を創り、血からは湖と海を創りました。大地を創造した後で海洋を周囲に巡らせましたが、およそ人間が渡りきることを最初から考えられないような広さだったと言います。
さらにユミルの頭蓋骨から天空を拵え、四つの角が指し示す方角に東西南北と名付け、それぞれの方位に小人を起きました。さらにムスッペルから飛び火してくる強烈な炎、これを捕まえて天にちりばめ、太陽と月と星と名付けます。星のあるものは中天に静止し、あるものは定められた軌道を進むように決められました。
大地は丸く、輪形をなし、オーディンらは霜の巨人ベルゲルミルの子孫たちに土地の一角を与えました。ここをヨトゥンヘイムといいいます。三兄弟は巨人たちが大嫌いでしたから、ここから遠く離れたところに国を創り、城郭で囲ってそこに住むことにします。これがミッドガルド(中つ国)。ちなみに雲はなんでできたかというと、ユミルの脳みそでした。
三兄弟はここでやや傲り、人間を創ります。もともと自分達も人間であるわけですが。トネリコと楡の木で創られた最初の男はアスク、女性はエンブラ。オーディンが魂を、ヴィリが感情と感受性を、ヴェーが視聴覚などの感覚を与え、ミッドガルドを人の領域として明け渡しました。
オーディンは巨人族の娘《夜》とその(三番目の夫デリングとの間の)息子《昼》を捕まえると、駿馬に乗せて毎日毎夜、延々と天を運行させるようにします。《昼》を乗せるのはフリムファクシ、《夜》が乗せられるのはスキンファクシ。この母子の犠牲によって世界には昼夜が規則正しく訪れる、と言うことになります。
最初太陽と月は世界に据え付けられていたのですけれども、ミッドガルドの人間のなかに《太陽》《月》を自称する姉弟がいたのでオーディンはその不遜に腹を立て、彼らを攫うと天の戦車に乗せて太陽と月の運行を司らせました。太陽がいつも急いで沈んでいくように見えるのは、彼女がスコールという狼に追い立てられているからだと言います。また月もハティという狼に追い立てられ、やがて終末の時、この姉弟は狼に捕まり喰われるさだめにあります。
そしてオーディンたちはユミルの身体に残ったウジ虫を使って小人(ドヴェルヴ=ドワーフ)を創造、最初のドヴェルヴはモードソグニルといい、だいたいにおいて狡猾な種族ながら、工芸品・魔術の品を創る技量にかけて比肩するものがありません。
こうして世界の大枠ができてから、オーディンたちはあらためて自分達の国、アスガルドを築きます。この国は比類なく美しく、広大で、頑健な城塞であり、ミッドガルドの高みの平原から虹の橋ビフレストで結ばれていましたが、この橋は神々の門番・勇気のヘイムダルに護られて終末のラグナロクの時まで、なんぴとの侵掠を許すこともありませんでした。……と、いいつつしばしばピンチに陥るのですけれど。
そしてこれら創世されたすべては、最善のトネリコ・ユグドラシルにつながり、その枝の下に広がっています。三つの根はアスガルドとヨトゥンヘイム、ニフルヘイムにつながり、それぞれの下には泉があり、枝上には鷹と鷲が、枝のほとりでは鹿が根を少しずつかじり、リスは上へ下へと走り回ります。そして根の一番底では邪竜ニーズヘッグが、盛大に牙を立ててかじっているのでした。終末の時、ユグドラシルはニーズヘッグにより倒され、スルトの炎で焼かれますが、また再生して新しい《万物の父=アルファズール》の到来を待つのだとされています。
今回ここまでで勘弁して下さい! 今からお出かけです!