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くろてんゲーム化エッセイ-12.世界包括神話⁻ケルト編(1)

今日はくろてんの第一幕第一章の改稿をやりました。
といっても1章だけでA4用紙43枚? くらいありますからね、気づいたところは適宜修正して、必要なところはかなり大幅に書き換えたりもするので時間が足りず、作業は明日に持ち越し。ゲーム制作の方はCi-enさんにメインヒロイン3人の紹介を載せておきました。興味がある方はCi-enの「遠蛮亭」で検索くださいませ。

というわけで今日は感覚的にあんまし仕事してない……実際にはずっと校正してたのでやってるんですが……気分で、それにしては体力的に辛いという一日でした。昨夜ちょっと、pixivさんの方でいやなことがあり、無償リクエスト募集なんかしてないにもかかわらずタダで描いてくれが殺到するので「相手してられっか!」と久々にキレたわけですよ。そしたら自己嫌悪で精神状態を失調し、睡眠薬飲んで寝るつもりが頭痛薬と間違えて眠れず。朝、中途半端な眠りから脱却するために昼まで睡眠薬で寝たらこれがもう、起きたときの調子悪いこと。久しぶりに死ぬかと。

まあ、それはさておきまして本日はケルト神話いきましょう。くろてんといえばケルトな訳です。辰馬くんの本来の名、つまりノイシュ・ウシュナハはアルスター神話の英雄「黒髪紅顔のノイシュ」からですし、実父「銀腕の暴君・オディナ・ウシュナハ」の名はディルムッド・オディナから。「銀腕」というのはダーナ神話の隻腕の主神「銀腕のヌァザ」からの借用でした。

というわけで。ダーナ神話→フィオナ神話→アルスター神話と続きますけども、まず今日はダーナ神話。ちなみに「ケルト=アーサー王伝説」と誤解しているかたが多分、ものすごくたくさんいらっしゃると思いますが、あれはケルトの神話伝説とは違います。むしろローマとかキリスト教圏から持ち込まれてケルトにあった伝説を換骨奪胎したもので、詳しくお知りになりたい方は「ブリタニア列王史」とかご覧下さい。なのでアーサー王伝説は除外。いちおう、あそこからも借用はしてる(数百年前東西戦争期、伽耶聖が一戦で900人を斬った、というのは源アーサー王伝説に依拠します。だいたい作中でアーサー王の話をもってきたのはそれくらい)のですが。

創世
ケルトにはキリスト教やらインド・ヨーロッパ語族系のような創世神話はありません。創世がなかった、というよりそれは現在進行形で行われている「現実」であり、その「第一日」が永遠に繰り返される……というよくわからない考え方なのですけども、世界は今日創られたのであると同時に、明日もまた最初から創られて、終わって、またその翌日最初から、です。

ドルイド(ギリシア人が見事な示唆をもって「哲学者」と表現した)は時間と空間その相対性およびその内包する欺瞞について、かなり的確な認識を持っていました。『「現在の瞬間」とは今はもう存在しない過去から、未確定の未来への時間を伴わない移行である』と。無から無への、時間を超越した移行、ということになります。人間の世界とはかように不確定で、確実なものは神だけ。その中でも唯一「完璧なる者」はイルダーナフ(なんでもできる者)ことルーグ・ラファーダただひとり。で、神という完全なる前性の存在を舞台に上げるためには照応する悪(不完全性の証明)が必要になり、そこでケルト人が求めたのはこの、「完全」が「不完全」を打破する作用ということになります。ケルトの源神話としてもっとも旧いものは「海蛇の卵探し」であり、卵=性交と受精の象徴=宇宙の創成にかかわるもので、その卵の居所が海にあるのは海=生命の源であると言うね、そういうお話です。実のところドルイドが持っていたものは海蛇の卵ではなく、巨大なウニだったそうですが。海蛇の卵=宇宙卵だとすれば、インド神話やイラン神話に通ずるところが、やはりケルトにもあるわけです。ちなみにこの宇宙卵のエネルギーを持って氾濫した海を平定し大海蛇を征したのは太陽神ベレノス、別名ヒュー・カルダンといいますが、ウェールズローカルの神話なので有名ではないかもしれません。

ついでバローロンの神話になります。ある年のベレノスをたたえる祭りの日に、バロールとその眷属は海を越えやってきました。彼らはただの荒れ地であったケルトの地を開拓し開墾し湖や川や平野を創って、豊かに変えます。この人々が最初のケルト人というべき存在で、彼らがフォモール族……悪魔と言うべき存在……と激戦を繰り広げることになりますがまあ5000年、平穏に過ごします。

しかしこれが疫病により一週間で全滅。生き残ったのはトゥアン・マッカラルという変身能力を持つ男ひとりでした。

次いでネヴェ族がアイルランドにやってきます。マッカラルは鹿に変身してこれに合流。ケルト神話には「変身物語」というたくさんの姿に変身するお話がありますが、そのベースになっています。ちなみにネヴェ族は24隻の船でアイルランドを目指したものの嵐に遭って座礁、たどり着けたのは9隻という、結構な損害に見舞われます。で、彼らがたどり着くやいなや、魔王バロール(バローロン族と似てますが、まったく別存在)とフォモール族、そしてバロールの戦士長コナンが襲いかかり、4度戦い4度目でほぼ全滅。ただしフォモール族にも大損害を与えます。

ついでフィル・ボルグ族がやってきます。彼らの王ヨッキーは公明正大な英主でしたが、やはり力を盛り返したバロール以下フォモール族に皆殺しにされる。

そしてついについに。北の海から……たぶんノルマン系でしょう……トゥアハー・デ・ダナーン族がやってきます。彼らは最終的に「マー・トゥラの戦い」でバロールを滅ぼしアイルランドの正統支配者に……キリスト教によりその座を逐われるまで……なるのですが、一番最初にやったことはというとバロールやフォモール族と手を結んでフィル・ボルグ族を滅ぼすことでした。その後両雄並び立たなくなりますが、この最初期の同盟のときにダーナ神族は医学の神ディアン・ケヒトの息子キュアンと、バロールの娘エトネを結婚させました。この婚姻により「神と魔の血を継ぐ完璧な存在」太陽神ルーグ……まさしく新羅辰馬くんの出自はこのあたりに依拠します……が生まれるのですが、それはちょっと後。

フィル・ボルグとダーナ神族の戦いは一進一退、ダーナ神族の王ヌァザはその戦中のある夜素晴らしい美女の訪問を受け一夜をともにし、実は魔女モリガンだった彼女から授かった力でフィル・ボルグを圧倒、それでも地力はあちらだったのか、フィル・ボルグの英雄スレングとの激闘の果て、右腕を切りおとされます。ちなみにこの戦の乱戦でフィル・ボルグの王ヨッキーは戦死、これによりダーナ神族はフォモール族とアイルランドを共同統治する立場を得ましたが、片腕になったヌァザは統治者としての資格を失っています。差別表現を避けてまあ、四肢を欠損しているものは王や貴族としての資格がない、というのが古代社会での考え方。

王権はフォモールのエラッハが犯したアイルランドの化身でダーナ神族の女王エリウが産んだ息子ブレシュに継がれましたが、ブレシュはフォモールを優遇、ダーナ神族を冷遇して父神にして魔術の神ダグザに要塞を築かせ、武神オガムには王宮で使う薪運びをさせるなど酷使します。ここでリアルな話になりますが、王が王に値しない存在であったために国が衰退し、そこにつけ込んでダーナ神族はゲリラ戦でブレシュを突き上げ、退位を求められたブレシュは猶予を求め、フォモール族に泣きつきます。

その時期にディアン・ケヒトはヌァザに銀の義手をつけました(このために銀の腕=アーケツラーヴ)が、さらにその息子ミァハはヌァザの切りおとされた腕をそっくりそのまま移植します。これでヌァザは王権を取り戻し、「銀腕」という異名も「佩剣クラウ・ソラス」の銀光のことを指すようになりますが、ともかくヌァザは神王に返り咲きました。しかしその裏でディアン・ケヒト、このひとは自分を上回る医療技術を持った息子を惨殺してしまいます。

そしてフォモールに泣きついたブレシュ、これが母の認知を受けてフォモールと大王バロールの援軍を得まして、このとき大戦起こる、の直前に登場するのが「ルーグ・ラファーダ(長腕のルー)」です。俺はキュアンとエトネの息子、ルーグやから登城させろ、というと、門番はどんな資格と能力を持つか、と誰何。ルーはアレが出来るこれが出来ると列挙しますが、門番は「お前の言う才能は、すでに他の神々が持っている」とはねつけるのですが「ではそのすべてを一人で兼ね備えるもの(イルダーナフしいるのか?」と問い返すことで、ルーグは神王の前に目通りを許されました。ちなみにルーグはヌァザからダーナ神族の「マー・トゥラ」における戦いの指揮官に任ぜられますが、それは過去に一度もチェスで負けたことのないヌァザを完璧に負かせたから、だったりします。

そして始まる「マー・トゥラ会戦」。神王ヌァザはバロールの前に陣没、次いでルーグとバロールが対峙して言葉を交わすものの、古ゲール語よりさらに旧い言葉でしか記録されていないためにこの会話を読み解くことが出来る人間は現在地上に一人もいないそうです。バロールの必殺武器と言えば邪眼であり、普段は閉ざされたその巨大な瞳を見てしまった相手は何千人いようと即死してしまうと言う凄まじいもの。これはフォモール族の勇士4人がかりで開かせるのですが、これが開く瞬間、ルーグは投石機から放ったタスラムという魔弾……もうひとつブリューナクという槍もあり、どちにも必中にして必殺の武器です……でで射貫き、バロールは戦死。この戦いの死者は少なくとも7000人といわれ、戦死者の数が非常に少なかった古代社会の戦争にしては非常に大きい死傷者率となりました。

最後にモリガンが登場し、ダーナ神族に祝福の魔法……バフですね……をかけると勝負は一方的となり、殲滅戦へ。オガムはフェモール王の一人インデモクと差し違え、そのため武神で力の神、而して知恵とルーンの守護者オガムは死んでしまい、ルーンの秘密はここに断たれることになるものの、戦争の趨勢は決しました。ちなみにブレシュは人間に耕作の方法とよき収穫の方法を教えて生き延びたそうですが、実のところアイルランドの土地の痩せ具合を見るにこの助言が役立ったとは思えません。

ここで直接は言及されませんが、この話はなにかというとブレシュは大地の化身だから悪行……自然氾濫……があっても結局は許すほかなく、ルーグは祖父でもある冥界神バロールを殺したことで深遠なる宇宙の秘密から手を離した、とかそういう含蓄を含むのだそうです。流石に「哲学者」が編んだ、ケルト神話。奥深い。

というわけで明日はフィオナ神話をやる予定です。

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