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くろてんゲーム化エッセイ-6.ちょっとした歴史&神話論考

性懲りもなく遠蛮ですが、本日レビューをいただけて、自分は人のいない壁に向けて喋っているワケではないと勇気をいただきました、有り難うございます。本編の方ですらほとんどレビューなどいただけないのですが、もしかしたらここを読んでるうちに戦記物(になるのは3章だけで、1章2章は冒険篇。なのでここまでで「兵法・軍略」のタグに「嘘やんか」と離れられた方も多いと思うのですが、実際3章は本格です)への興味が湧いて読んでいただけるかたが増えるかも? と、皮算用しつつ今日も。

 その前に少々、懺悔をしましょう。「艦これ」とか「FGO」で歴史の世界に入った方々への謝罪と言いますか、自分は過去にひたすら歴史と神話学をやってきたので、これらのゲームから礫人物への興味を持たれた方々への軽視というか、侮りが明らかにありました。どこから入ろうが同好は同好、なんら悪いことではないのにです。なのでここに謝罪を。あまり正直なこと言うと逆に嫌われるよ、といわれたこともあるのですが、自分は唯一絶対、嘘だけはつきたくない人間なのでこれはどうしても言っておきたかった。

で、そのうえで先日、お話しした通りに歴史のお話をしようかと。くろてんの強み……というかこの所為でごっちゃになってわかりづらい部分かも知れませんが……は世界包括史&包括神話なので。たとえば主人公・辰馬くんが使う魔術「輪転聖王《ルドラ・チャクリン》」の術式、神讃はインド、ヒンドゥーの三柱の至高神が一、ヴィシュヌの10の化身のうちの最終顕現・カルキの別名からとったものだったりで、神讃というアイディアもリヴ・ヴェーダ讃歌だったりアタルヴァ・ヴェーダ讃歌からよさげな讃歌を引っ張ってきての改変です。というかだいたいの国の神話をひもとくと神に捧げる祝詞やら讃歌やらそういうものがあり、それが下敷きになってああいう中二病的な神讃というものができました。

 父・狼牙さんのそれもまたインド系ですが、辰馬君がデーヴァ(神族)由来にのに対して狼牙さんのはアスラ(魔族)由来だったりします。実のところデーヴァもアスラも本来的には対等の神族なのですが、インドではデーヴァ=神でアスラ=魔。これがイラン高原に目を向けるとアスラ=神でデーヴァ(ダエーワ)が悪魔扱いだったりします。拙作で魔王が実はいい奴だったり? 的な描き方をしているのもそのせいで、ものごとは一面から見ても正確にはならない的なやつですね。なんで主人公の技がインド式かというと、「たぶん世界で最も歴史が面白い国は中国であり、神話が面白い国はインド」というのが自分の中にあるからです。とにかくマハーバーラタとラーマーヤナ、この超巨大長編叙事詩(聖書より大部!)を排出した国ですよインドは。まあほとんど「入れ子式」という、本編の中に誰かが「○○よ、○○のことについて語ってくれないか」といって関係のない話を保を挿入、もともとはだから10分の1ぐらいのお話だったと思うのです。それが吟遊詩人と民衆の要請で「アレ入れて、あの話」「ほい来た」と現在の形になった……三国演義と似てますね、成立の仕方としては。

 三国演義といえばそのルーツは「説三分」といまして、日本語版は……でてないと思うのですが、こっちはクソ面白くなさがかえって楽しい物語です。曹操=韓信、孫権=鯨布、劉備=彭越の転生で、劉邦(漢の高祖)に不当に殺された俺たちに天下取りをやり直させろ、というお話で、その幽霊たちの転生を採決するのが司馬さんというのちの司馬懿。ですが作品の主役は張飛で、呉子の兵法を駆使して大活躍というヤツでした。でも、面白くはないのです。遠蛮は中国史に関しては正史24史全読なので、中国史に関してもだいたいはどこでもなんでも語れます。蘭陵王不細工説とか、岳飛は実際朱仙鎮まで進撃できてないとか。

 おばさん(2幕になってまだ33才、全然お若いのですが)ことプロローグ主人公・ルーチェの技はこれは完璧にユダヤというか、カバラ魔術の影響です。お姉さんで本物の聖女・アーシェさんのは錬金術のアルス・マグナ(黄金錬成=生命の造出)に着想を得ていますが。カバラ魔術というといわゆるヘルメス学、その巨大な世界は詳述すると本当に知ったかぶりになりますが、キリスト教が世界最大宗派である以上カバラの影響力もやはり世界的に無視できないのですね。かのアレイスター・クロウリーも一時期カバラ・ヘルメス学の「黄金の夜明け団」に所属していたのは有名な話。ちなみにエレナ・ブラヴァツキーさんのことは皆さんよくご存じかと思います。FGOに登場しますから。ただあの人、近年の人なので写真ありますけども、凄い薄汚いおばあさんなので違和感が……。お金持ちだったはずなんですが、なぜか見た感じに怖いというか薄汚いのです。というか迫力がある。まあ簡単に言ってセフィロト(生命の樹)というのがあってそこにそれぞれ照応する概念というか小世界……が存在します。非常に面白くはある世界ですが、やはり魔術的概念世界においてインドには及ばないというのが遠蛮解釈。キリスト教世界は魔術以上に人間世界のどろどろした関係性というか、歴史が楽しいのです。遠蛮が最も好きな軍略家で瑞穗さんに仮託してその兵法・ワゴンブルク……の、一端を使わせたヤン・ジシュカ・トロクノフはチェコの民族英雄でフス派ターボリストの軍事指導者でしたが、このひと若い頃は山賊騎士という追いはぎみたいなことをやってたわけです。それがヤン・フスという大宗教家……実のところ宗教改革の発端はルターではなく、フスに始まるのですが……との出会いから人生変わって(フスがだまし討ちで焼き殺されたからキレて)国を割っての大戦争、キリスト教国ほぼ全てを相手に寡兵のターボル派をひきいて生涯無敗を誇るのです。隻眼で、のちには全盲になるのですけどね。実戦で最初に銃火器の斉射戦術を使用、ワゴンブルクという、荷車を使った移動要塞能の構築、そして無学な農民兵にもわかるように徹底化した命令の簡略化など、彼がやったことは「早すぎた軍制改革」といわれ、枚挙にいとまがないくらいで実力から言えばたぶん間違いなく世界一といえるのです。彼が大国の王だったならチンギスやティムールやアレクサンドロスですらかなわなかったでしょうというくらい。ナポレオンやカエサルなど足下にも及びません。

 ナポレオンの話が出たのでまた話が飛んで。ジャンヌ・ダルクは皆さんご存じだと思うのです。「なに言ってんだコイツ」レベルでしょうが。しかし彼女が生前から19世紀まで、ほとんど無名であったことはご存じでしょうか? もともとシャルル7世王は自分に自信がない(実際に王の子であるかという確信がなかったため)わりに猜疑心も功名心も強く、ジャンヌがやったことはあの当時すぐさま忘れ去られているのです。たぶんイングランドに渡せと言われたとき渡りに船と思ったと思うのですが。

 それを引っ張り出したのがナポレオン。「今、国難にあって世間は英雄を求めているが、英雄は貴族から出る必要はない、かつてオルレアンを救ったラ・ピュセルを見るがいい、彼女は農家の娘ではないか」とまあ、自分もフランス貴族とは違う、コルシカ島の小貴族に過ぎなかったナポレオンの自己肯定化プロパガンダにより、数百年ぶりでジャンヌ・ダルク復活となりました。それまでは誰も知らなかったのです、フランス国民ですらも。まあ、一度日本という国のオタク文化で覚醒したので、今後忘れられることはまず、ないと思いますが。

 同じく1幕第2章で登場の「竜の魔女」(まさかFGOでまったくおなじ呼称が使われているとは……呪術廻戦の天与呪縛という設定にも「先越された!」と嘆きましたが)ニヌルタが使うのはシュメール・メソポタミア(カルデア)系。あそこの神は始原の神アプスーとティアマト(二柱ともに水の神であり、竜神)に端を発し、ルーツがそれだけに竜種の神や神獣が多いのです。あとムシュマッヘーという竜も登場させましたが、あれとムシュフシュはこれまた違います。混同されがちですが、別種の竜なのですよ。あそこまで歴史が古いと、さすがによくわかんないところがあり、歴史としてのかたちはほとんと残ってないですね。ほぼ神話だけ。「ギルガメシュ叙事詩」という作品があるからギルガメシュは世界最古の王とされますが、そもそも半神という立場からして日本の神武天皇とおなじくらい信憑性がないです。ちなみにギルガメシュの父はルガルバンダ王、母は女神ニンスンといい、もうこの時点で「さらに前の王様おるやんか」という感じですらあります。あとギルガメシュ叙事詩は日本でもいくつか出ていますが、アレは全部不完全版。というより完全版は世界のどこを探しても存在しません。粘土板の一部が完全に損壊しているので。


 あと他にはエーリカのヴェスローディア。武芸師範ハゲネ、という「ニーベルンゲンの歌」に登場する名前が一度だけ出たので分かった人はたぶん分かった、ドイツ・北欧系。ただし国の経済として経済大国、商業大国であるのはオランダ・ポルトガルのイメージなのですけれど。「盾の乙女」という設定、最初はなかったのですよ。作品設定完全に決め打ちで書き始める自分としてはめずららしいんですが。ただ、トキジクという時間を操る力+サトリで心を読める瑞穗、魔力欠損症で魔力的干渉が効かず、しかもとんでもない身体能力持ち……+辰馬に一番近しい雫、彼女らに匹敵させるためになんかテコ入れするかということでやりました。もちろん元ネタはワグナーの「ニーベルンゲン」に登場する主神オーディンの娘たち、エインヘリヤル(死せる戦士の英霊)たちを導く11人あるいは12人の行く戦乙女《ヴァルキューレ》。彼女らにそれぞれ剣だったり槍だったり双剣、斧などの特質を保たせ、辰馬くんの周りで必要なのはガーダー役、ということで「盾」になりました。ドイツの物語というのも面白く、簡単に手に入って資料価値があるものとして「ドイツ英雄物語」というのがあります。1.ニーベルンゲン、2.グードルーン、3.ディートリヒ・フォン・ベルン。このうち現在の日本で一番有名でなさそうで、実は一番有名であろうのが3番、ディートリヒ。なにせ「あいりすミスティリア!」にメインキャラとして登場します。ギゼリックという名前ですが、ディートリヒの本名がヴァンダル王ギゼリック、ゲームでのギゼリックが支配する国名ファウスタはそのままギゼリックの妻ファウスタスの同名でもあります。なので、有名と。

 なんか本当にいくらでも語れますが、最後にヒノミヤの巫女連。彼女らはまあ当然、日本の巫女さんアレンジ。ただアレでした。巫女衆と言いつつ実のところヒノミヤの本質的イメージはなにかに通じると思われたはずで、そのものズバリ戦国時代の石山本願寺だったりします。アカツキという国には仏教がないのです。「慈教」という似た思想はありますが、釈迦牟尼のような大カリスマが存在しなかったのでしょう。金髪碧眼の天才軍師少女、磐座穣は本願寺の参謀役、下間頼廉がモチーフだったり、のちにヒノミヤ事変収束後、新教主となる鷺宮蒼依さん……手違いで名前が序盤だと「真榊蒼依」になってますが……は本願寺に与して信長、家康を苦しめた傭兵隊長、雑賀孫市だったりします。突騎隊を率いる神威那琴さんは日本の将ではなく中国・後漢王朝の呉漢将軍のイメージですが、敗北して長船に穢されました。実際呉漢の兵略があったらそうそう負けなかったと思うのですが、あくまで「突騎」の指揮官に過ぎず軍略はそこまでではなく……。日本神話もやたら面白い(あとむやみやたらとは人が死なない)ので「古事記」「日本書紀」を読まれたことがないかたは是非。ただまあ、天つ神と国つ神とかごっちゃになりますし、王権の交代により上位だったはずの神があっさり失墜したり(天之御中主という蘇我氏の祭神で上代日本の主神の一柱は、蘇我さんが中大兄皇子に蘇我ブレイクされた瞬間失墜しました)します。あと日本神話には女装して敵を倒す話が多く、拙作でも辰馬くんを女装させる作者としては「伝統の踏襲ってこういうことか‥?」とか思います。

今回めちゃくちゃ長くなりました。それでは最後に「広輪凪」様による瑞穂さんの服ビリ差分でも乗っけて終わりにします。ただし明らかに乳首が露出なので、肩口までですが。

現在第2幕が37話目。キリよく40話完結を目指していましたが現状のお話の具合を見ると次話あたりで完結しそうな。まだわからないんですがそういう予感はあります。それではまた。

2件のコメント

  •  イランとインドの神と悪魔のお話良かったです。
     もしかして、「あいつらが崇めている神は邪悪だ❗️ だから悪魔👿」とかの考えから両者で逆転が生じたのかなあ、なんて想像しました。

     それと他の作品に先越され問題。これは後で生まれた、あるいは後で発想した、先に完成させられなかった我が身を残念に思うより他ありませんね。ですがそのおかげでより良い方法を編み出す場合もあり、あのまま採用しなくて良かったと思うことも。なんでもアイデア次第です( ˊᵕˋ* )
  • またもコメント有り難うございます!

    インドとイラン、あの両国は昔から……現在もですが仲が悪いですからね、もともとのルーツからして「ウチが元祖」「ウチが本家」と言い合うので実際の所どちらが先に始めたのかよくわからないんですが、ゾロアスターよりさらに古い時代のイラン神話になるとこの二国の神、そもそも同一なのです。ヴァルナとかミスラとか、名前も神としての権能もほぼおなじ。インドの武勇神といえばインドラですが、このインドラもやはりイラン神話に登場するので「実は昔は仲良かったんじゃないかなぁ」と思うくらい。どこかでなにかあったのでしょうね、決定的に袂を分かつ何かが。あと、インド・イラン神話はヨーロッパのキリスト教神話にも影響与えてます。「アエーシェマ・ダエーワ」がキリスト教だとアスモデウスだったり「女神イシュタル」がアスタルテだったり。ちなみにインド神話系はまあ、結構読めるので紹介の必要はないでしょうが、イラン神話となると自分でも2冊くらいしか知りませんのでご紹介を。青土社の「ペルシア神話」と平凡社の「王書(シャー・ナーメ)」です。本当のところ、この手の専門書を角川さんとか、廉価で出せるお力のあるところに出して欲しいところ!

     先こされたのはまあ、ショックではありますがそこまで気にはしていないです。おなじ武器でも使いよう、だと思っているので。ただ、やはり自分のアンテナの低さですね。各方面へのアンテナを張って情報を拾うようにしないとダメだなと言うのは痛感なのでした。

    それでは、有り難うございました! 今回印刷すると4ページにもなり、我ながら「これエッセイの文量じゃないよなぁ」と思いましたが早速お読み下さり、感動です!
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