もっとも興味深かったのは多岐流太郎「幻法ダビテの星」。〝ダビテの星がとり憑いた〟天草四郎を探るべく、松平伊豆守の命を受け島原へと潜入した元・邪宗徒にして南蛮絵師の灘ノ衛門作。が、彼には四郎を影で操る森宗意軒との、浅かならぬ因縁があった…という物語。後の由井正雪も登場し、物語は陰惨淫靡を極めていく。読み進むうちに山田風太郎の「魔界転生」を連想したのだが(それは選者の志村有弘も同じようで解説でも触れている)、両作品には何か関係があるのだろーか(ちなみに「ダビテの星」の発表年は昭和36年、「魔界転生」は昭和39年)。
栗田信「猫に踊らされた男」はさしずめ時代小説版・怪奇探偵ものか。元・御用聞きで今は隠居の身である〝鬼千〟の、酸いも甘いも噛みわけた、粋でいなせな感じがいい。これはシリーズものだったのだろうか、作中で軽く触れられている「半面髑髏」や「なめくじ侍」「血笑曝し首」等、過去に彼が手がけたという怪奇事件のエピソードも(あるのならば)読んでみたいところではある。