表題作の国枝史郎「北斎と幽霊」はタイトル通り葛飾北斎が主役の一種の仇討ち物語。かつての師・狩野融川を死に追いやった老中・阿部豊後守へ北斎が取った復讐の方法とは――権力に屈せぬ融川、北斎の芸術家としての気骨が印象に残る。
選者の志村有弘が解説でも述べているように、葉多黙太郎「くぐつの女」宮野叢子「大蛇物語」等々、本巻の裏テーマは〝蛇〟。黒木忍「蛇神異変」に水上準也「蛇穴谷の美女」もそうなのだが、前者が大道破魔乃介、後者が足柄金太郎なるヒーローを擁し展開するさまは、まさにザ・通俗大衆小説!といった趣きである。