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『万年シルバー』⑩ ルーク編 ルーク視点

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 こちらは、
『万年シルバーのおっさん冒険者が、パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ。』
https://kakuyomu.jp/works/16818093073905606922
 の幕間を公開している近況ノートです。

 ルーク編のネタバレを含みます。
 
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 俺は、どこまでも遠くへ行ってみたかった。
 見た事のない景色、過酷な冒険、仲間との友情、なんだって楽しかった。

 だけど、俺一人じゃ走り続けるなんて無理で、賛同してくれる仲間を集めて冒険を始めたんだ。

 楽しかった。
 大地を真っ二つにするような大渓谷を見た。
 誰かが、古の神々が戦いで付けた傷跡に違いないと熱弁していた。
 雲の上まで続く山の上で、巨大な何かが立ち上がるのを見た。
 気付かれないようこっそり通り抜けたけど、実は登ってみたかった。
 焼き尽くされた森を行けば、真っ黒な大地から芽を出す植物があった。
 あっという間に大きくなって、地面を埋め尽くした。食べてみた実は塩ゆですると美味しかった。
 熱湯の噴き出る山岳地帯を行き、雷の絶えない大平原で立ち往生して、巨大な地下空洞を見付けてウッキウキで探索していたら、ゴブリンの大帝国を発見した。
 流石に進めないって大きく迂回路を取ったけど、出来れば連中と話をしてみたかった。
 ゴブリンには時折とても知能の発達した種が生まれて、そういうのが群れを纏めるんだ。だから、随分と前に本で読んだ、ゴブリン語っていうのを試してみたかった。あんな大帝国を築いていたなら、きっと話せる個体も居た筈だ。
 氷海でクラーケンと戦い、勝利した。
 殆どが海中に沈んでしまったけど、斬った脚を食べてみて、あまりの不味さに皆で吐いた。

 冒険をした。
 駆け抜ける日々は楽しくて、大変で、興奮がまるで冷める事が無くて。

 その先で遂に、竜を見付けた。

 竜が居たのは、黒い灰に覆われた古代の都市だった。
 昔はこんな所にまで人間が文明を築いていたんだって、歴史好きのリドゥンが大喜びしていた。女王アーテルシアの時代より更に昔、人間と神々がまだ当たり前に顔を合わせていた時代には、こんな途方もない建造物が当たり前にあったんだって。
 今まで見たどんな国よりも大きな橋が渓谷に架けられていて、二方向を巨大な剣山に囲まれた巨大都市。
 もう一方はなだらかな階段状になっていて、渓谷へ降りて行く道があるらしかった。

 最初は見るだけのつもりだった。
 だけど、旅に同行していた者の一人が誤って渓谷へ転落し、救助を行っている間に竜が気付いた。

 何度も撃退され、寝る間もない程追い回され、逃げ切ったらまた現地へ戻り。

 一ヵ月以上もそんな戦いを繰り返して、最後には渓谷へ落ちた仲間が自力で都市内部へ潜り込んで、自作した酒で竜を眠らせた。
 穀物とか、果物とか、糞とか、大抵のものは水と混ぜてりゃ酒になるって。ちょっと最後の奴は知りたくなかったけどさ。

 逆鱗を貫かれて尚も竜は暴れ続けた。
 綺麗に保存されていた都市が滅茶苦茶になって、リドゥンが悲鳴をあげ、僕らも悲鳴をあげながら竜に追われた。

 俺達も、竜も、ボロボロになって戦い続け、そうして、勝った。

 最高の瞬間だと思った。
 だけど竜の死骸を見上げ、誰かが言った。

 もう、帰ろう。
 十分に冒険はしたじゃないか。

 と。

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 そうして俺は今、ここに居る。
 クルアンの町。
 冒険者の第二の故郷。
 ここにだって冒険はあって、人々の役に立つのが冒険者だって言われてることも分かる。
 それを教えてくれた人の事は尊敬しているし、憧れてもいる。

 だけど、俺はもっともっと、あの先を見たかった。
 見たかったのに、戻ってくるしか無かった。

 魔境を旅するというのは、俺自身想像を越えて過酷だったから。

 先へ進むほどに人が減っていった。
 犠牲が出なかった訳じゃないけど、途中で離脱していった人の殆どは冒険についていけなくなった人達で、単に戻っていっただけだ。

 前を向いて、さあいくぞ、としか言えなかった俺では引き留めることも、立ち止まって待っていることも出来なかった。

 強いだけじゃ駄目なんだ。
 敵を倒せて、俺は凄いぞと示しながら先を行くだけじゃ、付いていけなくなる。

 もっと色んな人に寄り添って、一緒になって考えたり、悩んだり、話を聞いて、あぁまた明日も頑張るかって、そう思わせることの出来る人が居なくちゃ、俺はあの先には行けない。

 竜殺しなんて呼ばれて、冒険者としての成功を謳われて、オリハルコンにまで登ってきて、だからこそ思う。

 あの人が必要だ。

    ※   ※   ※

 「冒険、どこに行きましょうか」

 今は夜明け前。
 ザルカの休日真っ只中。
 お祭り騒ぎの大戦争で、俺と彼は誘い込む現場でぼうっと空を見上げていた。

「気が早い。これから戦いがあるんだぞ」
「気持ちを昂らせる為にも必要じゃないですか」
「だったらお前のは十分だから、周りをやる気にさせてみろ」

 むぅ。

 難しい話だ。
 俺は俺のやる気をいつだって引き出せるけど、他の人はそうじゃないらしいから。

 俺なんて、この人が『冒険に行くぞ! 付いてこい!』って言うだけで飛び出して行けるのに。

 どうして皆、分からないんだろう。
 アイアンになんて降格させて。

 まあ俺も、具体的にどうすればいいかなんて分かってないけど。

 世界でただ一人、冒険へ連れて行けるのなら、やっぱり彼がいい。
 絶対に楽しくなる。
 聖都でうんざりしていた時だって、きっと上手い言葉で俺を盛り上げてくれる。

 あぁでも、ちょっと違うんだよな、とも思う。

 俺と彼の違い。

 本当に、ちょっとだけ。
 だから一時的に組むことはあっても、かつての様にはいかないんだと思う。冒険者になっていく自分が楽しくて、夢中で追いかけられていたあの頃とは、俺もちょっとだけ変わってしまった。
 クルアンの町に留まって、ここで暮らしていることが出来ない。
 新しいものを見たくて、日々を味わうよりも大きな衝撃と興奮が欲しい。
 同じだと思っていたけど、ちょっとのズレがそのまま続いて、気付けば大きく分かたれている。

 それを悔しく思うのに、嬉しさも残ってる。

 だってさ。
 きっと彼は、僕なんかよりも遠くへ行ける人だから。

「なんて言おうかなぁ」

「竜が来たって大丈夫です、なんて言うんじゃないぞ」

「あっ、それいいですねえ!」

「……言いたいなら、合わせるが?」

「ははっ!! お願いしますねっ!!」

 さあ声を張れ。
 戦いが始まる。

 生きる事は冒険だ。

 いつだって険しい道を進んでる。

 それでもさ。
 俺は未知の場所へ行きたいんだ。

 だからこれからも仲間を集め、さあ行こうと叫んで駆けていく。

 その為にも、もうちょっとこの人の力を学ばないとね。




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