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こちらは、
『万年シルバーのおっさん冒険者が、パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ。』
(
https://kakuyomu.jp/works/16818093073905606922)
の幕間を公開している近況ノートです。
リアラ編のネタバレを含みます。
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おじさんがギルドから女の子を連れて出てきた時、私は『あー、また何か人助けでもしてるのかなー』って思ってたんだけど。
「た、たたた、大変よっ! ロンド様がとうとう幼子にまで手を出してっ!?」
「…………え? いや普通に迷子とか、そもそもギルドから出てきたじゃん?」
「広めなきゃ……! この驚きをもっと多くの人に広めなきゃ……!!」
「ちょ!? 落ち付いてフィリア!? そもそも北でおじさんの事知ってるのなんて私達くらいだしっ、なんでそんなに噂を広めたがるのっ!?」
フィリアのおじさん信用度は地の底くらいにあるのかもしれない。
いや、単純に慌てているだけか。
迷宮での戦闘時はあのリディア並に冷静沈着なフィリアだけど、地上に居ると何故か頭が緩んだりする。
パーティには変な人多いし、高ランク冒険者って本当に。
「いいから落ち着いてっ! おじさん只でさえクエスト失敗でギルドからも当たりが強くなってるんだからっ!」
それと何か今の子見覚えがあるんだよね。
どこで見たんだろう。
この前助けた北からの避難民?
それともありがとうって野花をくれた子?
もしかしたら神官は失せろって石投げてきたから躾をしてやった悪ガキ達の中に居たとか?
うーん、思い出せない。
やってる間におじさんはどこかに行っちゃって、あー声掛けそびれたなぁって不満が残る。
でも前に酒場で話した時より、ずっと表情が柔らかくなってた。
例のクエスト……相当にキツそうだったもんなぁ。
神官って、思っていたよりやれることが少ない。
私が弱っちいだけだけど。
リディアみたいに出来ればいいんだけどっ。
無理だけど!!
「あの、さっきから拘束する腕がちょっと痛い方向に、あっ、あっ、駄目、痛い痛い、痛いですぅっ、ぎゃあああエレーナァ!?」
「え!? ああゴメンゴメン! って、そんな強くやってないからっ。私グロースみたいなムキムキじゃないもんっ!!」
「そうは言いますけど、なんだか前より腕が一回り太くなったような……腹筋もしっかりしてきましたわねえ」
「よし、落とすか」
「ああああああン!! 駄目ェ……! そこは本当にキツ、あっ、ん、っふぅ」
「エロい声ださないで!?」
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そんなこんなで例の子がグロースの娘さんだと判明した。
どおりでイマイチ覚えてない訳だ。
あの子、ゼルディス様の賑やかしやってた頃の私をずっと遠巻きにしていたからねっ、きっと嫌われてるんだよねっ。
…………落ち込んで来た。
でも負けない!!
「もう分かったからいいじゃん。グロースがおじさんからの言伝貰って引き取りに行ったんだよ、話はそこで終わりだよ」
「いいえ! ロンド様の事ですから絶対に何が発展しますわ!! 具体的に言うとこの後出てくるだろうカトリーヌさんとの不倫よ!! 絶対面白くなるに違いないわ!」
そんなことある訳ないじゃん。
あるとしても、グロース側に問題があったんじゃないかな。
それで一時的に預かるとか、面倒見るとか、そういう感じ。
「来ましたわっ、隠れましょう!」
「あーはいはい」
フィリアがギルドで聞き出したおじさんの潜伏先、って彼女は呼んでるけど、とにかく泊っている場所で張っていたら、西門方面から二人が戻って来た。
うん? 二人?
おじさんとグロースの娘さんだ。
グロースは?
「さしものミスリル級戦士もロンド様のこましっぷりには敵わなかった様ですわね。御覧なさい、あの幼女の懐きっぷり。肩車なんてされて羨まし……いえ、とても仲睦まじいですわね」
「行き違いになったんじゃない? それかー……なんだろ?」
なにかあるんだよ、きっと。
思っていたらグロースがカトリーヌさんを連れてやって来た。
そこでまたフィリアが煩くなるんだけど、私は近くのお店で買って来た果実水とパンをむしゃむしゃやりつつ傍観の構え。
待機をどう過ごせるかは重要だっていつも言ってるもんね、おじさん。
警戒はしつつ、だけど意識は緩めて、身体は状況に合わせてしっかり休ませたり、すぐ動ける状態を維持したり。
武器の手入れも大切だけど、今朝やったばかりだから今は必要無い。
「出てきましたわ……っ」
「あーはいはい」
よくそんな緊張状態を維持出来るなぁ、なんて思いながら私もフィリアの下から覗き込む。
「…………あれ? グロースだけ?」
「これは事件ですのよ」
「いや、別にそうと決まった訳じゃ」
「まさか……あのロンド様がグロースから娘も妻も巻き上げて桃色世界を築き上げていただなんてっ!」
異様に背中を丸めて去っていくグロースを見送って、私は隠れるのを止めて道へ出た。フィリアが慌てて止めてくるけど、疑う前にやることは決まってるじゃん。
「確認して来ればいいでしょ。素直に聞いたら、おじさんは嘘吐かないよ」
「今乗り込むと大変な状況に遭遇してしまいますわっ!? ひ、人妻に娘もお付けしている感じの世界ですのよ!?」
たまにこのオリハルコンは頭がオリハルコン並に不可解な事を言い始める。
よく分からないんだよね、オリハルコン。
なんか魔法と親和性高い感、みたいなふわっとした理解で世界に流通している謎金属。
柔らかかったり硬かったり、よく分からないけど凄い感。
うん、どうでもいいやっ。
「それで、フィリアはどうしたいの。今日は私の鍛錬に付き合ってくれるって言ってたのに、結局一日訳分かんない見張りで終わっちゃったじゃん。休暇の交代、次はいつになるんだっけー」
「もうちょっと! もしからしたら更に発展するかも知れませんわ! 次々と押し寄せる女達っ、北域で形成されるロンド様ハーレム! そして修羅場っ! この一大事件は見逃せませんっ」
「はいはい。じゃあ発展したら呼んでね。私は拠点戻ってるから」
「一人だと寂しいのーっ」
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結局夜中まで付き合わされて、寝不足のままクエストに参加したからゼルディス様にすっごい怒られた。
しかもフィリアは平気な顔して普通に参加してるし……このオリハルコンめっ。
短時間の眠りで一気に体力を回復させることも出来るっておじさんも言ってたけど、変な所で差を見せ付けられて感心すればいいのか怒ればいいのかわからないっ!
「私が思うに、既にグロースは破局寸前ですわ」
出先の野営地でまだフィリアは言い張っていた。
私は焚き火へ薪を放り込みながら適当に頷く。
当のグロースはリディアから支援を貰って走っていった。普通に歩いて一日と少しの距離だから、支援ありで全力疾走すれば確かに短時間で戻れるけど。
あれだけ戦った後でいつも平気な顔してるし、グロースもグロースで体力がおかしい。
ミスリルもよく分かんない金属だよね。
ふわっとしてる。
まあ、私が魔術関連あんまり知らないのもあるんだけど……本って読んでると眠くなっちゃうから、勉強は未だにそれほど進んでない。身体動かすのは好きなんだけどなあ、なんで私神官を選んだんだっけ。
……………………うん、吟遊詩人に詠われる英雄と結ばれるのって神官が多いからだな。
我ながら茹だった理由でした。
反省。
でも身に付けた力で出来る事もある。
殴り神官。
普通にやったって私がリディアに並べるとは思えない。同郷の、トゥエリだってどんどん力を付けてるって聞く。焦る。だけど、おじさんに教えて貰った道が、私は誇らしいって思えるから。
「――――つまりロンド様がグロースの奥様、カトリーヌさんを手籠めにしているというのは最早確定事項ということですわっ。奪われたグロースは日々ああして妻と娘を取り戻そうと必死に頑張っていますが、憐れ既に二人の心は彼になく……あぁなんて面白、いえ羨ましい、いえ、えっと」
「別に無理に本心隠さなくてもいいけど、声は抑えてね」
ちらり、と視線を流すと、焚き火からは離れているけど天幕の影でずっと護符作りをしているリディアが居た。
なんであんな所で作業しているのかは分からないけど、ミスリルもオリハルコンも理解不能な私からすると、アダマンタイト級神官のやる事なんて考えるだけ無駄だ。
「……聞こえたら怒られるよ、そういう話」
「あらいつの間に」
あんまりというか、声を荒げて怒る所を見たことはないけど、リディアって妙に圧を感じる時があるんだよね……。
一応、ゼルディス様から私の指導を任されてる、とはなってるけど、当の私がヤケクソで馬鹿やってたからとっくに見放されてるし。
うーん、と。
時々、何か助言みたいなことを言われたりはする。
だけど私も緊張しちゃってあんまり話せなくなるし、怖気てちゃいけないのはわかるんだけどなぁ……。
アダマンタイト。
自分を磨けば磨くほどにその重みは想像を絶するものになっていく。
前の私、アレを相手によくあんな命知らずな事言ってたよなぁ…………絶対根に持たれてる、完全に嫌われてる、そう思うともう……うーん、おじさあああん!
私が別な事で嘆いているのを無視して、フィリアが顔を寄せて指を立てる。
声を潜めて。
こちらに何故か耳を向けて、心なしか距離が縮まっているようにも見えるリディアを警戒しながら。
「今回の遠征が終わったら、事をはっきりとさせる為に一度ロンド様を問い詰めましょう。最悪の場合……既にグロースの手で…………」
「大丈夫だと思うんだけどなぁ」
でも私もおじさんと話したいから、ちょっとだけ無理してみようかな。
ささっと魔物を退治して、パッと戻ればあっという間だし。
その後、パーティは謎の強行軍を発揮して、帰りは何でか消耗の激しいゼルディス様の飛翔転移で戻ることになった。