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こちらは、
『万年シルバーのおっさん冒険者が、パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ。』
(
https://kakuyomu.jp/works/16818093073905606922)
の幕間を公開している近況ノートです。
エレーナ編のネタバレを含みます。
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「あぁエレーナ、ちょうど良かったわ」
パーティの活動が休みとなった早朝、杖を手に出かけようとした所でフィリアと遭遇した。
お酒の匂いがする。
私は今から活動だけど、フィリアは今から寝に戻ってきた所ね。
「なに?」
彼女とは少し前にパーティとは別に編成された、外パーティっていうので一緒になった。
オリハルコンの魔術師、私とは違う本物の実力者。
今までは何考えてるのかも分かんない怪しい奴って印象だったけど、最近は少しだけ話すことが増えた。
「この前の報酬。素材の換金がようやく終わったのよ。はい、これは貴方の分よ」
小奇麗な袋に入った、たっぷりの銀貨。
それを受け取った時、ふっと別の顔が浮かんだ。
「それじゃあ確かに渡したから……ふわ、っ、私はもう寝るわ」
もう、というか、ようやく、でしょうに。
「うん。それじゃあね」
言いつつ、既に顔はニヤケ始めていた。
このお金は、この報酬は、私が冒険者として初めて自分の力で獲得したものだからだ。
……本当の所は、殆どフィリアのおかげだし、私が低層の希少種狩りで活躍した訳じゃないけど、でも、その半ばで初めて冒険をした。
したんだ。
「ふふぅん!」
神殿で修行するつもりだったけど、今日は買い物に変更!
杖を抱き締めながら、私は地面を蹴っ飛ばすような勢いで駆け出していった。
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なんだかあったかい。
首元を抜けていく風が気持ち良かった。
身体が軽くて、崩れかけの古い石塀へ跳び乗るとそのまま上を走っていく。
降り道が見えた。
下は大通りだ。
普通の市場とは違う、ちょっと高級な商品の並ぶお店。
少し前まではゼルディス様に連れられて、色んなものを買って貰ってた。
だけど今、私の懐には私のお金が入っていて、それで買い物をするのが楽しみで仕方なかった。
登ってきた馬車とすれ違い、風の背を追いかけて坂道を下る。
煌びやかな店舗。
普通とは違う、特別なお店。
低ランクの冒険者なんかじゃとても手が出ないような品々が中には並んでいる。
金貨がぎっしり、って訳じゃないけど、これだけ銀貨があればちょっとしたものなら十分買える。
私なら店の人間が顔を覚えてるし、追い出されたりはしないでしょう。
半時ほど店を見て回った。
綺麗な服の並ぶお店、特別な称号を与えられた鍛冶士の作った防具屋、遠方から魔術で凍結させながら持ち込んだ珍品の並ぶ食事処、道行く人達までどこか華やかで、田舎から出てきたばっかりの頃は目を輝かせて遊び回れた。
ただ、なんとなく足が止まる。
道端の長椅子に腰掛けて景色を眺めた。
別に今更煌びやかなものに興味が無くなったんじゃない。
華やかさは、結構好きだ。
本物の貴族なんかには敵わないけど、どこそこのご令嬢、って感じの人の所作を真似してみたこともある。
ただ、気付いた。
もう私が欲しかったものは、いつの間にか全部ゼルディス様に買って貰ってたんだ。
彼は冒険者ギルド『スカー』でも三人しか居ないアダマンタイト級冒険者の一人。
フィリアを始め、最上級の冒険者ばかり集めたパーティを率いるリーダーで、その金持ちぶりたるや生半可な貴族じゃ相手にならないって言われてた。
だから彼に気に入られていた私があれもこれもと強請れば、その程度のものは右から左へ転がすみたいに手に入る。
前に買ってもらったものはなんだっけ。
全然覚えてないや。
くれるっていうから、ありがとうって言って、そのまま部屋へ輸送してもらった。
彼は、少なくとも私みたいなへっぽこの冒険者からすると、本当に英雄なんだと思う。
けど、と。
その言葉を考えた時、別に浮かんでくる顔がある。
「……………………ふふん」
心が沸き立つ。
本当に怖かったし、死ぬかと思ったけど、私が得た初めての冒険。
それを一緒に駆け抜けた相棒。
相棒、なんて呼ぶには私はまだまだ弱いままだけど、そうなるって宣言したんだ。
懐の中にある袋の中で、銀貨が擦れ合い、音を立てた。
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ギルドの前でその姿を待つ。
手の中にあるのは、華やかでも綺麗でもない、実用一辺倒みたいな革製のベルト。
前に見た時、結構磨り減って色褪せてたから。
余計なものだったかな。
冒険者は自分で認めたものしか身に付けない、とか。
でもとにかく頑丈で、余計なものが付いてないのを選んだ。
嫌がられたり、はしないか。
最悪使わなくたって、きっと喜んで受け取ってくれる。
悔しさは残るけど仕方無い。
目利きも出来ないへっぽこ冒険者なもんで。
なんて。
思っている癖に、気持ちはずっと上向きだ。
最近楽しい。
ゼルディス様に付き纏うのも止めた。
そういうの、彼は彼で敏感みたいで、誘われることもなくなったけど、幸いにもパーティを追放されずにそのままだ。
腕を磨く目的が出来た。
あの時みたいにはなるもんかって思える。
行く先がはっきり見えて、踏み出す先が分かるようになった。
遠く沈み行く太陽を眺めながら、その向こうに見覚えのある人影を見付ける。
「おーい!」
立ち上がって手を振る。
気付け。
ねえ。
ほら。
あっ。
気付いた。
「おーいっ、ねえおじさん! ねえねえ聞いてよーっ!!」
贈り物を引っ掴み、私は彼のところまで駆けて行く。
あの日私を支えて、私の背中を押してくれた、大きな手を挙げて、
よう相棒、って言って。
思いっ切り、手を叩き合わせた。