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毒蜘蛛と子猫5

※本編のオマケです。ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの馴れ初めを気が向いたらこちらにアップしていきます。 


……
………

 しんどいことがあれば文を送ってこい。
 そう伝えたはずの女から届いた文の中身は、なんてことのない近況と、国都でのやり取りの礼だった。
 多少の縁が出来たとはいえ一日二日顔を合わせただけの赤の他人だ。
 精々、こんな中身なら西の果てからあいつが上手くやることを祈ってやって終わりのはずだったのに、なんだかスッキリしねえ。
 あれが、近況報告の文なんて送ってくるタマか?
 いや、一日二日しか顔を合わせてねえのに何がわかるっつう話だが、どうしても違和感が拭えなかった俺は、ニヤニヤ笑ってやがる親父の顔面に一発入れ、何人かの家来衆を連れて国都に向かった。
 もちろん殴り返されはしたがそれはまあいいや。
 で、教会本部に顔出してみたら、お前には会わせねえの一点張りときた。
 まあ、直近で頭を攫ったことになってるんだから当たり前っちゃあ当たり前なんだが、ヘッセリンクなんてやってると疑い深くなっていけねえ。
 手段は伏せるが、対応してくれた聖職者らしい兄ちゃんに口を割らせてみりゃあ、なんと神への反逆の罪で地下牢に入ってるっていうじゃねえか。
 いや、腹抱えて笑ったわ。
 教会の頭が反逆って、神さんもザマァねえな。
 で、なぜか善良な市民である俺に刃物持って向かってくるヒョロい聖職者連中を丁寧にしばきながら地下を覗いたら、本当に捕まってやがるの。
 顔見たら指差して笑ってやろうと思ってたんだが、あんまりしょぼくれてやがるからやめた。
 
「あの、ジダ様」

 二度目の人攫いと洒落込む俺に、それまで大人しく肩に担がれてた女が声をかけてくる。

「あ? なんだ。今更やっぱりやめたはなしだぜ? 現状立派な人攫いだからよ。なら、せめてきっちり攫わせてくれや」

 教会の頭を二度攫ったなんてことになれば、流石に王城あたりから兵を出されるはずだからな。
 何しても捕まるなら、攫い切った方が達成感があるだろ。
 
「攫われることには大賛成なのですが、その、お屋敷とは逆方向では?」

 あー、なるほどな。

「もし俺が方向音痴で道に迷ってるとか思ってるなら、その辺りにぶん投げて帰るからよーく考えて喋れよ?」

「ジダ様の腕の中、とても落ち着きます」

 理解と手のひら返しが早いのはいいことだぜ?
 まあ、腕の中じゃなくてどう考えても肩に担がれてるわけだがよ。

「心配しなくても屋敷には間違いなく向かってる。黙って荷物やってろ」

 ちゃあんと向かってるさ。
 オーレナングの屋敷にな。
 俺が向かったのは、教会本部から十分離れた、屋敷とは逆方向にある古い家が密集した地域。
 
「ジダ様。こちらでございます」

 女を担いだ俺を待っていたのは、ローブを着た爺いと、小型の馬車だ。
 
「わりいな。俺の小遣いから給金に色付けとくから勘弁しろよ」

「何を仰いますやら。幼い頃から見守ってきた坊っちゃまが、教会勢力の排除に着手されると聞けば興奮で夜も眠れぬほどです」

 そんなもんに着手した覚えはねえよ。
 俺がそう言うより先に、女が俺の名を呼ぶ。

「ジダ様、あの」
 
「勘違いすんなよ。別に教会をどうこうなんて考えちゃいねえよ」

 親父と家来衆共がどう考えてるかまでは知らねえが、少なくとも俺は教会に興味はねえ。
 そう伝えると、肩に担がれたままそうじゃないとぶんぶん首を振ってみせる。

「やるなら、徹底的にお願いいたします。腐敗したものは、元には戻らないと思い知りましたので」

 重てえなあ。
 いや、こいつそのものじゃなくて、こいつが背負ってる諸々がだ。
 どう答えようか考えてると、爺いが口を開いた。

「若奥様、よろしいでしょうか?」

 おいテメエ。

「はい、なんでしょう」
 
 お前もなんでだよ。

「待て待て待て待て。おかしなやりとりしてんなよ。とりあえず乗れ。追手が来ねえとも限らねえからな」

 なぜかジタバタ抵抗する女を肩から下ろして馬車に乗せようとすると、俺の言葉を聞いた爺いが薄ら笑う。

「追手? まさか。動いているのが爺だけだとでも? もう、終わっておりますとも」

 何が、とか、どこまで、とかは聞くまでもねえ。
 こいつが終わってるって言うならそうなんだろう。

「相変わらず動き早えな」

「素敵なこともそうでないことも、やるなら迅速丁寧、そして徹底的に。それが、ヘッセリンクでございます。特に今回はジダ様が若奥様をお迎えに上がると聞いて、皆浮き足だってそれはもう」

 そう言って心から嬉しそうに笑いやがる爺いにこっちも心底げんなりしながら返してやる。
 
「今夜のことを素敵なことと捉えてるのがどうかしてるって気づけよ? あと、触れたかねえが、なんだよさっきからその若奥様っつうのは」

「あの朴念仁極まるジダ様が積極的に二度も同じ女性を攫いに向かったと聞けば、家来衆一同つまりそういうことだと認識しております」

「きゃっ」

 きゃっじゃねえんだよ、きゃっじゃ。
 
「二度攫うって言うがよう。一度目は親父に売り飛ばされただけで、今回は気まぐれでしかねえ。おう。お前もちゃんと否定しとけよ。じゃねえと、本当に取り込まれちまうぞ」
 
「あの、お名前を伺っても?」

 俺の注意を黙殺した女に名を問われた爺いが背筋を伸ばす。

「名乗りもせず大変失礼を。私はルクタス・ヘッセリンクが家来衆、ドリッチと申します。ジダ様のお目付役兼、何でも屋でございますな」

「始末屋の間違いだろ」

 ルクタス・ヘッセリンクが聖者なら、このドリッチは異端審問官。
 親父の敵は絶対に許さねえ、真性の狂信者だ。
 始末屋呼ばわりされても、ニコニコ穏やかに笑ってやがるとこなんて、最高にヘッセリンクだと思わねえか?

「それも含めての、何でも屋でございますよ? それでは若奥様。なんなりとお尋ねください」
 
 若奥様はやめろって抗議する俺をひたすら黙殺しながら、女が躊躇いがちに口を開く。
 
「ではドリッチ殿。ヘッセリンクに速やかに取り込まれたい場合は、どうすればよろしいのでしょうか」

「ふむふむ。いくつか手立てはございますが、一番手っ取り早いのは、毒蜘蛛と呼ばれる若者に愛していると囁かせることでございます」

「なるほど。頑張ってみますね!」

 

26件のコメント

  • この話を別にちゃんと読みたい…おまけ感覚ではなく
  • あれ?攫ったはずがいつの間にか包囲されてる……
  • 掲載ありがとうございます!
    ヘッセリンクがヘッセリンクたる所以の一つは、結局どの世代でも口から砂糖ダッバダバな愛の使徒ってことですね。分かりますm(_ _)m
  • 頭のおかしな毒蜘蛛さんが常識人に見えるよ…疲れてるのかな
  • シンプルかつ的確。
    今も昔もヘッセリンク狂信者はw
  • ドリッチさんジャンジャック枠かな?

    この世代の活躍もちゃんと読みたくなってきました
  • 素敵なこともそうでないことも、やるなら迅速丁寧、そして徹底的に。それが、ヘッセリンクでございます。

    今もで影なる伝統として生きている大事なコンセプト。

    毒牙にかかったのではなく、かかりに逝った聖女。
    ヘッセリンク家はどちらかの一目惚れから始まるのかぁ。
    で、毒蜘蛛殿は奥方からと、、、、φ(..)メモメモ
  • まぁ、当代が聖者なんて呼ばれてたら家来衆の狂信者レベルも高かろうw

    しかし毒蜘蛛じいじがツッコミ担当とは、これがキセキの世代…。
  • 教会「奴は大変なものを攫って行きました」
  • 良いですねぇ。こらもひとつの愛のカタチ♩
  • あぁ、愛が狂っていたのは炎狂いの母君の方だった訳か・・・
  • JJの分身…?(=_ゞ)ゴシゴシ

    本人が自覚する間もなく周囲による埋め立てが迅速である。
    曲がりなりにもプロポーズする毒蜘蛛さんが見られるのは、ひょっとすると結婚式当日だったり?
  • プラティ「思い返してみると、歴代ヘッセリンクでもっとも良識を弁え常識的なのは私ですね、次は息子のジーカスでしょうか。父と祖父は問題外ですね。」
  • 素敵なお話を大変ありがとうございます。
    オマケではなく、正しく毒蜘蛛編として読みたく存じます。
    今後とも続編・番外編・ご先祖様編の更新を宜しくお願い申し上げます。
  • いつも思うのが、なぜおまけなのか?

    というか歴代ヘッセリンクはみんな本出せるよね?

    全員見たいー!!

    初代様・プラ様が出てきた時にこれ以上のおもしろご先祖様はそういないだろうと思ってたのに、ジダ様に聖者なご先祖さままで出てきて気になりすぎなんよ
  • こちらの爺やも大好物。
  • どんどん外堀が埋まってるし自分の事を善良な市民とか言ってるし、どこまで行ってもヘッセリンクですなあ。
    毒蜘蛛様も憎からず思っているから面倒事に首を突っ込んでいるんでしょうし、素直じゃないのんねー。
  • 本来、糸で絡めるはずの毒蜘蛛が、逆に絡め取られておりましたとさ。

    家来衆一同(この聖女おもしれぇ!)

    聖者(フフフ。計画通り!)
  • おまけのレベルが高すぎる!
    本編、未来、おまけといつもありがとうございます。
  • 狂信者が多いって意味での聖者だったかな???
  • ドリッチさん。
    これもなかなかキャラが立ってる…。
    もう歴代ヘッセリンクの話を書いてしまいましょうよ!
  • 教会滅殺のフラグが立った〜(笑)

    さぁ〜、皆様ご唱和を〜(笑)

    あっそ〜れ〜
    」゚Д゚)」さっらっち!( 」゚Д゚)」さっらっち!( 」゚Д゚)」さっらっち!( 」゚Д゚)」さっらっち!( 」゚Д゚)」( 」゚Д゚)」さっらっち!( 」゚Д゚)」さっらっち!
  • おまけレベルじゃないよねめっちゃ楽しみに近所ノート見てる
  • 聖者の名前は初出かな?
  • やっぱり毒蜘蛛さん現在登場してるヘッセリンクの中でもかなりまともなのでは?
  • 蜘蛛が網を張るのではなく、周りが蜘蛛の糸を張ってる笑笑 まじ、最高です。
    10話超えたら、ぜひ別立てください笑
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