※本編のオマケです。ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの馴れ初めを気が向いたらこちらにアップしていきます。
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国都に向かった息子が無事帰還しました。
なんと女性連れで。
先日、息子宛に女性からの文が届いただけでも大興奮だった家来衆達は、この未曾有の事態を受けてそれはもう大騒ぎです。
きっと今夜は宴でしょう。
「照れ屋さんのお前が、女性を連れて帰ってくるとは思いませんでしたよ」
普段なら、私の言葉に例外なく噛み付いてくるようなところのあるジダですが、長旅を終えたばかりのグリエ殿に配慮したのか、軽く肩をすくめるだけに留めました。
「仕方ねえだろ。俺が国都に張り付いとくわけにゃあいかねえし、かと言って国都に一人で置いとけもしねえ」
「そうですか? リンデに任せればおかしなことにはならないでしょう?」
私の妻であり、ジダの母親であるリンデ。
その外交手腕を王城や上位貴族達からも高く評価されている自慢の妻なら、グリエ殿を守れる環境を作り上げてくれると思うのですが。
「こいつはな。その代わり、お袋に任せたら教会側が確実におかしなことになるだろ。下手したら、こいつの帰る場所がなくなる」
ああ、母親のやり過ぎを懸念しているのですね。
遅かれ早かれ壊してしまうのに、壊し方を気にするとは。
「敵に気を遣うなんて、相変わらず優しいですね愛する我が息子よ」
「俺が優しいんじゃなくてあんたが厳しすぎるんだよ。あんたの息子にしちゃ、真っ直ぐ育ったもんだと自分でも感心するわ」
はて。
ジダが真っ直ぐ育つ?
「はっはっはあ! これは、面白い冗談ですね! だめです、お腹がよじれる!!」
素晴らしい!
こんなに面白いのは久しぶりですね!
お前は歪みに歪んだ私の息子ですよ?
真っ直ぐに育つわけがないじゃないですか!
腹を抱え、涙を流しながら笑う私に腹を立てたのか、勢いよく殴りかかってくるジダ。
「本当に仲がよろしいのですね。私は両親とも早く亡くしましたので、羨ましく感じます」
親子喧嘩を終えた私達に掛けられたグリエ殿の感想に、髪と服が乱れたままのジダが深々とため息を吐きます。
怪我はありませんよ?
治しましたからね。
「節穴かよ。仲良し親子が客の前で殴り合うわけがねえ。それに、こないだ目の前で俺が売り飛ばされたの見てただろ」
「売り、飛ば……?」
グリエ殿がとぼけたように首を傾げるのを見て流れるように拳を握り込んだジダが、ハッとした表情をみせました。
「危ねえ。もう少しで手が出るとこだったわ」
激しく歪んでいる息子にもそのくらいの理性があることにほっとしつつ、尋ねます。
「それで、ジダ。グリエ殿をどうするつもりですか?」
「当面ここに置いとくとして、その後は向こうの出方次第だろ。まあ、タマ奪りにくるとは思わねえが、なんか言ってくるくらいするはずだからな」
それまではヘッセリンクで保護してやりたいと。
教会指導者を保護するのが狂人なんて、なかなか素敵な巡り合わせですね。
そんなことを考えていると、グリエ殿が表情を引き締めて口を開きました。
「お義父様」
「てめえ、さては思ったより余裕か?」
「なんだい? 息子の妻よ」
「乗るなめんどくせえから!!」
そんな風にいちいち反応するから私だけでなく家来衆からも揶揄われるのだと思うのですが、これが息子の可愛いところです。
一通り息子をかまって満足した私に、グリエ殿が頭を下げました。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。ですが、しばらくこちらに置いていただけませんでしょうか。お掃除でもお料理でもなんでもさせていただきますので。このとおりです!」
細い肩を震わせながら深く頭を下げる若者の頼みを聞けないほど、このルクタス・ヘッセリンクは狭量ではありません。
「もちろん好きなだけいてくださって構いません。ドリッチ。グリエ殿の部屋を整えてもらっていいですか?」
頼りになる腹心にそう声をかけると、基本的には私の指示に二つ返事で応じるドリッチが首を横に振り、真剣な顔で言います。
「ルクタス様、僭越ながら申し上げます。ジダ様の部屋の壁をぶち抜き、グリエ殿と共に生活していただけるように広い部屋を設えてはいかがでしょうか」
なるほど。
このルクタスとしたことが、手落ちでしたね。
「採用」
「ぶち抜くな! いいか? 俺の部屋から可能な限り遠い部屋にしろ。命令だ」
「申し訳ございませんが、爺はルクタス様の家来衆でございますので、ジダ様の命令は受け付けておりません。では、若奥様。速やかにぶち抜いてまいりますので少々お待ちください」