※本編のオマケです。ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの馴れ初めを気が向いたらこちらにアップしていきます。
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目に入れても痛くない可愛い可愛いジダ様。
そんな坊ちゃんのお嫁さん候補、グリエ様とともにメイド仕事を終えた私は、同僚とともに本業である魔獣の討伐に向かった。
今日の相棒は、ドリッチ。
始末屋の二つ名を持つ、ヘッセリンクを除けばレプミアで最も危険な男さ。
「あんたはどう思う?」
森の浅層と中層の境でつがいのオーガウルフの首を捩じ切った後にそう尋ねたら、なんのことだと言うように首を傾げる。
勘の悪い男だよ。
「もちろん若奥様のことさ。あの『始末屋』ドリッチが気に入って甘やかしていると、みんな驚いてるよ」
敵と見れば血も涙もない男が、若奥様若奥様と目尻を下げているのを見て、若い連中が天変地異の前触れかって騒いでたからね。
「甘やかしているつもりはないが、いいんじゃないかと思うがね。ジダ様も悪い気はしていないみたいだし、何よりルクタス様がそれと決めている様子だ」
「そうかい。ルクタス様が進める気でいて、家来衆筆頭も同意見なら、私達もそのつもりで動く。それでいいんだね?」
私がそう確認すると、少し間を置いて頷く始末屋。
「今のところはな。逆に聞くが、あんたはどう思ってるんだ。最近よく一緒に行動してるみたいだが」
「監視しているような言い方はよしてくれるかい? 若奥様が屋敷の仕事を覚えたいと仰るから、僭越ながら指導させていただいているだけさ」
どう思ってるかって質問に答えるなら、あの子なら両手を挙げて賛成だね。
真面目?
癒しの力?
顔がいい?
そんなもんはどうでもいいんだ。
あの子のいいところは、こっちが恥ずかしくなるくらいにジダ様にぞっこんなところさね。
ジダ様が覚悟決めりゃあ済むんだろうけど、奥手だからねえ、私達の坊ちゃんは。
「くくっ。秘蔵っ子を攫われただけでもはらわたが煮え繰り返っているだろうに、よりによって『首狩り』レーダからメイド仕事を教わってるなんて知ったら、教会の連中はどんな顔をするだろうな」
始末屋が楽しそうに肩を揺らして笑う。
普段なら舌打ちの一つもしてやるところだが、確かにそりゃ楽しそうだ。
「いいねえ、ぜひ国都の教会本部に乗り込んで行って試してみたい気分だよ」
こないだは留守番だったからね。
次は絶対お供させてもらうよ。
そんな決意をしていると、始末屋が苦笑いを浮かべる。
「自分で言っておいてなんだが、自重してくれよ? ルクタス様が十貴院の連中に根回しをしているようだからな。上手く運べば、近いうちにジダ様と若奥様の婚姻が成る」
「嬉しいねえ。あの小ちゃかった坊ちゃんが結婚とは。婆やとしては涙が出るよ」
私がふざけて涙を拭うふりをすると、始末屋も同じような仕草をしてみせながら言う。
「爺やだってそうさ。もう少ししたら若い奴らの時代になるってことだ。それまでに、俺もあんたも済ますべきことは済ませておかないとな」
そんなことを言いながら、咆哮を上げながら突っ込んできたシカの頭を馬鹿みたいにデカいハンマーで叩き潰す。
ジジイのくせにどこにそんな力があるのか、いつ見ても不思議で仕方ないよ。
「あんたに言われるまでもないね。まずは、若奥様がなんの憂いもなく嫁入りできるよう教会の始末だ。腕が鳴るねえ」
いけないいけない。
ついつい拳に力が入り過ぎて、弾け飛んだ兎の返り血浴びちまったよ。
まあいいか。
この服は、若奥様に洗濯の仕方を教えて差し上げる時に使おうかねえ。
「はっ、教会の奴らも可哀想に。まさか、『首狩り』レーダに目ぇ付けられるとは思ってもみないだろうよ」
「それを言うなら、『ヘッセリンクに』の間違いだろう? まったく同情するよ。教会は、この世から消えちまうかもしれないね」
そんなやりとりをしながら仕事をこなす私達。
順調に十分な量の魔獣を討伐し、そろそろ帰ろうかと話していると、浅層方向から人の気配がした。
「お? こんなとこにいやがったのか二人とも」
やってきたのは、私達の可愛い可愛いジダ様。
その姿を認めた瞬間、始末屋と首狩りでいることをやめ、爺やと婆やに戻る。
「おやおや、ジダ様。どうされました? 私達をお探しとは珍しい」
「おやつの時間にはまだ早いのでは? どうしてもお腹が空いたのなら婆やの部屋の戸棚に焼き菓子が」
「ガキ扱いやめろ。親父から呼び出しだ。すぐに屋敷に戻れ」
ルクタス様からの呼び出し。
先ほど仕舞い込んだ首狩りが顔を出しそうになるのを抑えて言う。
「それだけのためにジダ様が?」
「ああ。他の連中は客をもてなす準備で手が空かなくてな。一番暇な俺にお前ら探してこいって親父から指示が出たんだよ」
客、ねえ。
これでも一応メイド長なんてやってるが、そんな話は聞いちゃいない。
「はて。お客様の予定などありましたか? レーダさん」
「いいえドリッチ殿。何も聞いておりませんので、急なお客様かと」
家来衆筆頭も知らないなら間違いないね。
そう確信してジダ様に視線を向けると、唇の端を大きく歪めてみせた。
くぅっ!
男前に育ってまあ。
そりゃあ、教会なんて狭い世界しか知らない若奥様が参っちまうのも仕方ないさ。
「そうだな。急な客だし、招かれざる客でもある。教会の連中がオーレナングに向かってるんだとよ」
おやまあ。
それは……なんとも願ったり叶ったりだねえ!
ウキウキを抑えきれず始末屋に視線を向けると、考えは同じみたいだ。
「レーダさん、すぐに戻りませんと。若奥様のお身内を歓迎するのに、ジダ様の爺やたる私と婆やたる貴女がいなければ始まりますまい」
そうだろうそうだろう。
さあ、忙しくなるよ!
「仰るとおりですね。さ、参りましょうジダ様。教会の皆様には、ヘッセリンクとは、オーレナングとは何かを、とくと味わっていただかなければ」