※本編のオマケです。ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの馴れ初めを気が向いたらこちらにアップしていきます。
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頭のおかしい女に絡まれてとんでもねえ日だったわ……、で終われたらどんだけよかったか。
今俺は、苦しい立場に追い込まれちまってる。
「では、話してもらいましょうか」
机を挟んで向かいに座る男が、優しげな笑みを浮かべながらそう聞いてくる。
ただ、俺はこの男が全く優しくねえことを知ってるわけだ。
かと言って誤魔化しても余計立場が悪くなるから正直にあったことを吐く。
「腐れ聖職者に追ん出されて王城の周り散歩してたら今にも折れそうな木にしがみついてる頭おかしい女がいたから柄にもなく助けたらそれが次の教会の頭だった」
男が眉間に皺を寄せる。
そりゃそうだろうよ。
話してて自分でも何言ってんだかわかんねえんだから。
「それで?」
「そんなのと一緒にいたら碌なことにならねえから撒こうと思った瞬間凄え力でしがみつかれて振りほどこうとしてるのを衛兵に見つかったから仕方なく抱きかかえて逃げた」
「ジダ様の熱烈な抱擁を思い返すと、顔の火照りが止みません」
俺の横に触って頬に手を当てながらホウッと息を吐く女。
図太え。
ヘッセリンクっつう、身内が揃って図太え家に生まれた俺が言うんだから間違いねえ。
普通は初めて来る貴族の屋敷で茶をがぶ飲みしたりしねえから。
「黙れ手前。大体なんでこんなとこまでついてきたんだよ」
「ついてきたというか、貴方様に連れてこられたのですが」
そうだった。
なんで俺はこいつを放り捨てずに屋敷まで連れて来ちまったのか。
犬や猫じゃねえってのによお。
「グリエ殿。貴女が突然姿を消したことで王城は大騒ぎだったのですよ? 教会関係者の慌てようといったら。可哀想すぎて笑いを堪えるのに苦労したほどです」
目の前の男。
レプミアで一番やべえ貴族、ヘッセリンク伯爵の肩書を持つ親父が唇を歪めて笑う。
「それを聞いた私は、同僚の不幸を想って反省したほうがよろしいのでしょうか」
「いや、反省は絶対しろよ。教会はどうでもいいが、手前のお披露目のために親父も含めて錚々たる面子が揃ってたっつうのに逃げ出したんだろうが」
十貴院やらカニルーニャやらサウスフィールドやら。
戦でも顔を揃えることのねえ面子が集合してたっつうのに。
下手したらこいつの首が飛ぶぞ。
「確かに貴族様方の貴重な時間を無駄にしてしまったことに関しては真摯に反省しなければなりませんね」
「必要ありません。どうせどいつもこいつも領地でふんぞり返ってるだけの暇人共です。むしろ、教会の人間が慌てふためく姿という最高の見せ物を見せてやったのだから感謝されて然るべきでしょう」
「お義父様は、教会はお嫌いですか?」
親父をお父様なんて呼ぶだけでも違和感しかねえのに、妙な気配がしやがる。
よくわかんねえけど寒気が止まらねえんだけど。
「生まれついて嫌いではありませんが、私が『聖者』などと呼ばれるのが気に入らないらしく、まあしつこく絡んでくる。好きになれと言われる方が無理でしょう」
「史上最高の癒しの使い手、『聖者』ルクタス・ヘッセリンク様。神を信奉する教会からすれば、貴方様の圧倒的な力は邪魔者以外の何者でもございませんものね」
狂人ヘッセリンク。
代々ぶっ壊すことしかできねえイカれた面子のなか、親父に与えられた力は、癒し。
貴族も平民も金持ちも貧乏人も分け隔てなくその圧倒的な力で怪我人を癒し続ける姿についた二つ名が『聖者』だ。
親父が用事で国都に向かうと、それに合わせて親父の力を必要とする奴らが各地から国都に向けて大移動を開始するのがお約束になってやがる。
だが、どこまで行ってもヘッセリンクな以上、中身まで聖者なわけがねえわな。
「陛下の許可があれば、あの鼻につく派手な建物を綺麗に押し流してやるのですが。残念ながら今日も許可が降りませんでした」
心から残念そうに首を振る親父。
二つ名が一人歩きし過ぎてやがる親父の言葉に、次期教会の頭が真剣な顔で言う。
「もし陛下の許可が出たならご連絡ください。特等席で見とうございます」
「約束しましょう」
「妙なこと約束すんなよ、この『えせ聖者』。手前も騙されんな。その親父、本当は癒すよりぶっ壊す方が得意なんだぜ?」
普通水魔法使いったら、癒しが得意なら攻撃が苦手、攻撃が得意なら癒しはほとんど使えねえって相場が決まってるっつうのに、この親父はどっちもいける口だ。
なんなら攻撃のほうが得意なはずなんだよ。
俺の言葉を聞いた女が『まあ、お父様のことを理解されてるのね』とかなんとか的外れなことを呟いてやがるが、それにどうこう言う前に親父が口を開く。
「ジダ。今後のことですが、決めました。とりあえずお前がグリエ殿を城から攫ったことになさい。ヘッセリンクに攫われたとなればこの子が叱られることもないでしょうし。うん、我ながらいい考えだ」
「息子を売ることのどこがいい考えか聞かせてみろよクソ親父が!」