ご結婚、おめでとうございます!
うれしくてうれしくて、どうしても今日のうちにおめでとうをお届けしたかったものですから!
本当にささやかで申し訳ないのですが、下のショートショートをお贈りいたします。
カクヨムには出さないので、志貴さんへのお祝いに。
技術はともかく、気持ちはこもってます。
広い心で受け取ってやってください。
文学賞は、北日本文学賞というところです。
選者の宮本輝さんに読んでいただきたいだけのために挑戦しました。
未公開限定になっていて結果は1月なので、それまでカクヨムには出せませんが、それが過ぎたら公開するかもしれません。
気にかけてくださって、とってもうれしいです。
『グリーン・ベア』
「贈り物と言うのは、物をもらうのではないのよ。贈ってくれる人の心をもらうのよ」
期待外れだったらしい友達からの誕生日プレゼントに、不満をあらわにしている小さな顔に語りかけると、はぁいと返事が返ってきた。
今でこそ子どもたちに偉そうなことを言うけれど、贈り物は贈る人の心だなんて、たぶん昔の私は思っていなかった。
良い物をもらえばうれしいし、そうでもない物ならそれなりに。
感謝はするけれど、その程度のものだった。
本当の贈り物の意味を知ったのは、夫に出会ってからだ。
今時の若者のように、サプライズだの記念日だのと騒ぐことなどまるでなく、クリスマスやバレンタインどころか、へたをすると誕生日でさえ忘れてしまうような彼からのプレゼントは、おそらくどこのカップルよりも少なかったのではないかと思う。
そんな彼からの数少ない贈り物は、実に期待はずれなものばかりだった。
造花のバラの花。
百円均一の店の不思議な雑貨。
出張土産の不気味な置物。
年齢と同じの数のカーネーション。などなど…。
悪気はないけれど、彼らしい勘違いが満載のプレゼント。
たしかに私はブランド物もアクセサリーも興味はない。
欲しい物はと聞かれても思い浮かばない変わり者の娘だった。
けれども、そんな私にも乙女心はあるわけで、興味はなくても期待はしてしまうものなのだ。
「プレゼントだよ」
彼の満面の笑みと共に差し出されるラッピングの袋に罪はない。
そうして少しずつ、置き場に困るもらいものが増えていった。
そんなある日。
彼からプロポーズをされ、私は幸せいっぱいに頷いた。
プレゼントに関しては残念な人だったけれど、人間としては大好きだったし心から尊敬していた。この人と一緒に歩く人生は、きっと自分一人のものよりも素晴らしいに違いないと素直に思えた。
ところが。
私は急に不安になった。
遠距離ということもあったし、当時の仕事がお互いとても忙しく、結婚のためのいろいろな準備を一緒にできなかったこともあって、彼がそばにいないことがひどく辛かった。
「なにか、私にくれない?」
思い余って、つい彼に言った。
彼の代わりになるような、心が私のそばにあると思わせてくれるような物。そんなものが欲しくて仕方がなくなった。
彼はしばらく考えて、ごそごそと小さな緑色のクマのマスコットを持ってきた。
「これ、どうかな」
正直、そんなに可愛らしくはない。色も油粘土のような緑色だ。
それでも私はありがとうと受け取ろうとした。
「あ、ちょっと待って」
彼はそのクマを両手に握り込むと、額に当てた。
まるで何かを念じるように。
「気持ち、込めておいた」
優しい微笑みで彼は言った。
あんまり可愛くない緑のクマが、その瞬間、ぽわっと温かく特別なものに変わった。ちゃんと私の不安を受け止めてくれる、彼の心が入ったクマになった。
「大丈夫だよ。俺も頑張るから」
「…うん」
夫からもらったプレゼントは、私の宝箱に全部入っている。
子どもたちは、どうしてこんなのが宝物なの? と不思議そうに言うけれど、私はそれを大事に撫でながら言うのだ。
「贈り物と言うのは、物をもらうのではないのよ。贈ってくれる人の心をもらうのよ」と。