たった2つの操縦桿と2つのペダルで人型ロボットをどう動かすのか。
この命題が僕のロボ創作家としての根幹と言って過言ではありません。
この世にはロボットを動かして戦わせるゲームが数多あり、その中には本物さながらに操縦桿やペダルを使うものもありますが、僕はそのどれもに「実在するロボットを動かすには不充分だ」と不満を覚えてきました。
なら、納得のいくものを自分で考えよう。
二十代のころにそうした試みを始め、そして三十代でweb小説を始めるに当たって題材に選んだのもこのテーマでした。2つずつの操縦桿とペダルをどう使って操縦するかを詳細に自分で考えた架空のロボットゲームを遊んでいた主人公が、やがて操縦方法がそのゲームそのままな実在のロボットに乗って戦う。
それが僕の処女作〝機巧操兵アーカディアン〟です。
これを書いていた当時から、僕の最大の目的は劇中の「僕が操縦方法を考えた」ロボットゲームの実現でした。コンテストに応募して小説の商業デビューを目指すのはそのための第一歩という考えです。
機巧操兵アーカディアンが完結したあとも、僕は基本的にこのスタンスでロボ小説を執筆してきました(中にはアフタラス・ザデルージュのような例外もありますが)。それだけ僕にとって「自分で考えたロボの操縦方法」は大事なものであり、心の拠り所になっていました。
自信の源とも言えます。
偉大な創作家は数いれど、こんなに「ロボットをちゃんと動かせる操縦方法」を思いついているのは世界中に俺だけだ。俺のこのアイデアを採用しなければ人類はこの先ロボットをまともに操縦することはできないのだ。我こそはオンリーワンでナンバーワンだ、と。
大言壮語が過ぎるので表立っては言いませんでしたが、内心では本気でそう思っていました。ですがある日、その幻想が打ち砕かれました。
(株)人機一体さんが作られている人型ロボット。
〝零式人機〟の操縦方法を知ることによって。
その名は〝異構造マスタースレーブ〟と言います。
ロボットにおけるマスタースレーブとはパイロットの動作をロボットがトレースするもので、創作だと機動武闘伝Gガンダムの〝モビルファイター〟やフルメタル・パニックの〝アームスレイブ〟などの操縦方法に採用されています。
その操縦インターフェースはパイロットの動きを読みとるためにその体、手足を覆うもので、僕の最も好む「2つの操縦桿と2つのペダル」とは見た目の上でも明確に別物です。
これは僕が求めるロボットの操縦方法ではありません。
嫌っているわけではなく、むしろこれはこれで好きなのですが、一番の座は「2つの操縦桿と2つのペダル」による操縦方法ということです。
マスタースレーブなら「インターフェースをどう使えば」なんて悩むことはなくパイロットが自分の体と同じようにロボットを動かせるので、操縦桿とペダル式よりよほど分かりやすいのですが、それでも僕は「ロボットの操縦方法はこれでいい」とは思えないんですよね。
操縦桿とペダルが大好きなので!!
ところが、零式人機の操縦方法はマスタースレーブでありながら、インターフェースは操縦桿とペダルだったのです(いくつもバージョンがある中でペダルを用いないものもあります)。
僕がそれまでマスタースレーブの全てと思っていた、インターフェースがパイロットの体を覆う、つまり入力装置が出力装置であるロボットと同じ人型をしているタイプのシステムは〝同構造マスタースレーブ〟といい、これに対して零式人機に用いられた〝異構造マスタースレーブ〟は入力装置と出力装置の形状が異なるものだったのです。
パイロットの腕にまとわせた入力装置を解して、ロボットの腕がパイロットの腕と同じように動く同構造マスタースレーブは理屈として分かります。しかしロボットの腕の関節構造とまるで違う操縦桿に力を加えることで、パイロットが意図したとおりにロボットの腕を動かせる異構造マスタースレーブは正直ワケが分かりません。そんなことが可能だなどと夢にも思わなかったため、そんなものが実在していることを長らく知らなかったのです。
知った時は衝撃でした。
僕は僕の考えた操縦桿とペダルによるロボット操縦方法に自信を持っていましたが、不満点が皆無ではありませんでした。それは僕の考えた方法ではロボットに攻撃や防御といった大まかな命令は与えられても、その手足の関節をどう動かすかといった詳細な命令は与えられない、ということです。
ロボットアニメでは機体が人間を手に乗せたり、物を掴んで作業したりといったシーンがありますが、ああいうことはできない。マスタースレーブならそれができるのは分かっていましたが、インターフェースが操縦桿とペダルでないのが気に食わない……と思っていたのが、異構造マスタースレーブなら操縦桿とペダルでも同じことができるのです。
じゃあ、これでいいじゃん!!
操縦桿とペダルを使い、異構造マスタースレーブで動かす。これが人型ロボットの操縦方法の最適解であると、僕の価値観はアップデートされました。それは僕にとってアイデンティティの喪失を意味しました。
人機一体さんの零式人機シリーズは未だ完全な人型をしていませんが、将来的には完全な人型ロボットが制作される予定です。その時、操縦桿とペダルを用いて完璧に操縦される人型ロボットが誕生するでしょう。
ロボットの未来は安泰です。
ですが、そこに僕は必要ありません。異構造マスタースレーブがある以上、僕の考えたロボット操縦方法の出る幕はない。僕がいなければ真の操縦式ロボットは実現しないと思っていたのが恥ずかしい。僕は要らない人間でした。
自分の考えた操縦方法によるロボットゲームを出す、という僕の夢は潰えました。生きる目標を失いました。もう生きていてもしょうがないと本気で思いました。まだ生きているのは自殺する勇気がなかっただけです。
そして、たとえ失意のドン底で生きる気力がなかろうと、まだ生きている以上はロボ創作を辞めることはできず、僕は自分で考えた操縦方法を捨てて、異構造マスタースレーブを採用したロボット小説を書くことにしました。それが現在連載中(というか休載中;)の
〝ソード&マシーナリー〟です。
ソードマで用いられている異構造マスタースレーブによるロボット操縦方法は僕なりの工夫も加わっていますが、それでも僕のオリジナルとは到底呼べない代物で、そこに僕の魂は込められていません。
ソードマをいくら書いても僕がかつて夢見た〝自分で考えた操縦方法によるロボットゲーム〟には繋がらないので、それだけだとモチベーションが足りません。それを補うため、作中で登場する異構造マスタースレーブを用いたロボットゲームを、VRゲームとして深掘りすることで「これは自分のオリジナルだ」と呼べるものにして愛着を持ち、今度はこれを実現することを目標に書いてきました。
現在ソードマの執筆はとまってしまっていますが、それはここで話題にしている内容とは無関係のプライベートな事情によるもので、ソードマを書ききりたいという意欲はちゃんとあります。ただ、かつて強く願った夢ではないという想いは心の底でくすぶっていました。
それが、昨日。
本当に突然、こう思えたんです。一度は捨てた操縦方法、アレやっぱりいけるんじゃないかと。異構造マスタースレーブは手足は器用に動かせるけど空中戦には不向き、一方で僕の考えた操縦方法は手足は器用に動かせないけど空中戦での自由度が高い。一長一短、ならどっちもあっていいじゃないかと。
悪い夢から醒めた気がしました。
異構造マスタースレーブの存在を知ってから無価値と断じていたオリジナル操縦方法も、これはこれでアリだと。捨てることなんてなかった。あきらめる必要なんかなかったんだと気づけました。
この操縦方法を用いたロボットゲームを実現したいという夢が、僕の中で復活しました。生きる目標ができました。それで昨夜はテンションぶち上がって、その操縦方法に対応したロボットの構造なんか考えてました。
と、いうわけで。
あまりにも深刻なので今まで黙っていましたが、無事に解決できましたのでこうしてお話しました。ご心配をおかけしてしまったかたには申しわけありません!
異構造マスタースレーブを採用したソードマは、いずれ再開してきっちり終わらせるつもりです。オリジナル操縦方法のロボットはそのあとで書けばいい。心のつかえが取れた分、ソードマに向かう姿勢もより前向きになれそうです。天城はこれからもロボの操縦にこだわった小説を書きつづけます!!