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レビュー選定作品発表!and選評!


【選考及び対応について】
・今回は長編・短編、ジャンルに制限は無し。
・数にバラ付きが生じる為、全作品『応援』は押していません
・レビュー選定+ピックアップ=個人的に高評価ではありません。下記の要素を元にレビューを入れたいと判断した作品を選ばせて頂いており、☆も品質に合わせたものを贈呈しています。
・今回の選定基準は『あらすじとしての質』(作品ページ・リプライ文を総合して)と限られた文字数による『直感的な魅力』と『冒頭の引き』です。

※募集ツイートに作品紹介して頂いた時点で、当方のレビュー傾向を了承したと見なします。キャッチコピー・評価値・レビュー本文の変更依頼は受け付けません。


前置きは以上、今回は予定の三作品から+1した四作品をレビュー選定作に選ばせて頂きました!そして今回は、ピックアップ枠として二作品も追加!レビュー本文はありませんが、奨励賞的な意味合いでキャッチコピーを贈呈させて頂きました。

では結果発表〜\\\\٩( 'ω' )و ////


【蝉と、アクセサリーと、僅かな時間と。長くて儚い七日間が、夏に巡ります】

選定作品①
『蝉の置土産』
作者 高村 芳
https://kakuyomu.jp/works/1177354054935411992

【レビュー】
ハンドメイドアクセサリー工房の先生と、弟子入り主人公(私)が作品作りを通じて、ありふれた時間と思い出を形成していく7日間を描いた中編の物語。装飾品のように夏の日を彩るクワガタやトンボといった虫のキーワード、合間に挿入されるコーヒーブレイク……からの、茶を嗜む。この『暑気を包んだ工程感』が魅力で、二人の近い距離感もスワイプする指から読み取れます。

タイトルにもあるように『蝉』をテーマだけでなくキャラ付けにも絡めて、二人の日々は過ぎていく。一話はだいたい5000文字くらいのボリュームで、日常を切り取るには悠長だけど、過ぎてしまえばあっという間に思える、この『一日』という刹那を1ページで感じさせる筆力は素晴らしいの一言。

気になる点は同じ単語と似たような言い回しが短い間隔で連続する所で、これは最後まで散見されました。上にある悠長は、時間を味わうと考えれば良い作用でもあるのですが、文芸の質としての視点が入ると、文字を重ね過ぎるあまり読者の負担になりかねません。

せっかく『アクセサリー』や『五綵を演出する昆虫』が物語のキーなので、地の文で飾り過ぎずにワンポイントくらいが丁度良いのになぁと非常に惜しい印象。ですが、人物間のやり取りや手製の描写はとても丁寧なので、取捨選択を意識して推敲したら隙の無い作品に昇華する事でしょう。

作品が示す、日常の変化と不変のメッセージ。そして予感が牽引するラストを是非、限られた読書時間を通じて見届けてみて下さい。



【救世主になるために。これは、こころ蹌踉めく勇者が『意地』を通すおはなし】

選定作品②
『モブ冒険者だった俺だが、最後の意地くらい通してやった』
作者 ギル・A・ヤマト
https://kakuyomu.jp/works/16817330658938411784

【レビュー】
モブ冒険者と自覚する主人公とヒロインであるマーニャの間に、何があったのかを明かしていく王道ファンタジーのエッセンスを含んだ短編小説です。表明ともいえる作品名と冒頭の入りで、おはなしを聞かせて貰おうか?と興味を示す読者を最後までグイグイ引っ張り通す、熾烈な力強さを感じた作品でした。

『来たな、勇者』からの展開は、緊張感があってテンポも良いので目が離せません。モブのような、何者にもなれない者が運命を動かそうとする姿に奮い立つのは、平凡に生きる事を強制される世に身を置いているからこそ。シナジーを楽しむ文芸のエンタメは、これくらい大胆であるべきです!

勢いはとても良いのですが、やはり作品を期待する読み手として目に付くのは、文章構成の甘さです。人称設定が色々唐突なのと、基本的に展開はああなってこうなっての安直な羅列なので、物語世界として『完結』はしてても『完成』に届いてないのは歯痒い点。読まれる小説品質のコツを掴めれば、熱い物語にきっと多くの読者が付いてきてくれるだろうと期待を持てる作家様です。

絵本の勇者に憧れつつ、理想に届かずモブに落魄れる主人公が最後に見せる『意地』とは。ヒロインを行動原理とし、勢い任せで突き進む展開こそ、勇者の様式美だと納得させられる作品、ご一読あれ!!



【天使はかつて女の子だった。女の子が見るは現実の中にある憧憬と葛藤で——】

選定作品③
『love letter.』
作者 白木犀
https://kakuyomu.jp/works/16817330660970151819

【レビュー】
書簡体小説のような叙述的エッセンスを感じる短編作品。人嫌いの天使が世界を見下ろして綴られていく言葉は解放的でありながら、彼女自身の目線は卑下ており、窮屈で息が詰まる感覚を読み手に与えてくる。

船香との出会いまでの過程も丁寧で、存在を排除してしまった天使が自分の形に近い少女を俯瞰する事で、救いを知れたというストーリーラインが美しい。ありのままとは心地良くもあるが、噛み合わなければ重荷になるというカタルシスが文章によく出ています。

全体的に完成度は高い一方、理不尽のアクセントとなるいじめ描写は使い古しの域を出ないものでした。本作は天使といったファンタジー要素を含みますが、同性を好きになってしまう葛藤と得られない理解という現実味のあるテーマなので、あまり「ありがち」に頼ると、マイノリティの解像度を下げる要因となります。

作品としては十分な出来なので、手直しする必要はありませんが、『可哀想』で片付けられないような展開の工夫があると、文芸作品として極上なものとなるでしょう。

今一度見つめる事の大切さ、儚き少女達の姿、淡い想い含む文章が生む揚力は読者の心に浮遊感を与えてくれます、良作です。



【自然なる超能力× 呪獣による世界地響くポルターガイスト(衝突)を見よ!】

選定作品④
仮面の英獣使い
作者 TOBU
https://kakuyomu.jp/works/16817330647820479199

自然系能力と得体の知れない呪獣(ゴースト)によるバトルが熱を帯びた、現代ファンタジーテイストの長編群像劇。当方の目を引いたのは、なんといっても設定と文章の作り込み。妥協の無いルビ振りも親切心が伺えますし、舞台装置や生徒キャラクター造形のこだわりも伝わってきます。日常からの非日常の移り変わりは没入感があって、ビジュアルに関する表現力は秀逸!

登場人物の理解度を持ってからの第三話『渋谷事変』以降は、映像が目に浮かぶようでスイスイ読み進めてしまいました。都心部を舞台に、厨二病が刺激される能力と謎多き獰猛な獣によるバッチバチのぶつかり合いと、直球的な描写、この小説を言い表すなら『読むポルターガイスト』です。個人的に神宮大牙のキャラクターが好きで、もっと活躍が見てみたいなぁと思わせられました。

しかし第一話(長編で言えば一章にあたります)は丸々キャラ紹介と日常描写の為、世界観と物語の目的が掴みにくく、話が動くまでに2万文字以上も使う展開の遅さは難点に思えました。SFやファンタジーは設定考察が面白みの一つではあるのですが、情報掲示が適度でないと読者にとっては煩わしさに繋がります。序盤以降も補完の余地が無い程に説明過多ですし、よほど文章の整理整頓が好きじゃないとリタイアを招いてしまいそうなのは勿体ないなと思います。

キャラは魅力的で動かし方も上手く、リータビリティは安定しているので、読者を置いてけぼりにしない文章の匙加減を会得したら、公募通過レベルの作品に化けると言っても過言ではありません。スローな物語運びと過密な作風は人を選びそうですが、骨太な世界観を見せてくれる作品です。


《《篤永ピックアップ作品》》
【一目惚れのときめき、とまどい……。これがモモとスズの『好き』のカタチ】
モモの木の青いバラ
作者 バル
https://kakuyomu.jp/works/16817330660635864715
[選評]
清弘萌望音の目線で描く短編文芸作品。友山鈴華に一目惚れする所から始まるのですが、プラトニックが魅力である百合もの特有の「とまどい」が凝縮されていて、微笑ましさを誘います。色々考え過ぎては自己解決したり、思わぬ展開に慌てふためいたり。若き乙女心の揺れ動きと距離が近付く過程のリアリティと言いましょうか、文章から香る同時代性がこの作品最大の魅力です。

当方は最後まで文芸として楽しんだ一方、タグに「ライトノベル百合」とあって、あれ?となってしまったのが、少々腑に落ちませんでした。ここの線引きは難しくあるのですが、その型にはめるのであれば『感情移入』や『体験効果』のような読者を清弘萌望音になりきらせなければならなくて、それを考慮すると入り込み難いキャラ設定な気がしました。ですが、文芸でしたら合格点なので、そこは自信を持って頂ければ。



【思春期が甘酸っぱく刺激する『純』と『狂』は、最後に愛をどう見せる?】

愛慾に至る病
作者 渡橋銀杏
https://kakuyomu.jp/works/16817330656171308439
[選評]
(※ セルフレイティング「性描写あり」作品)

思春期の少年少女を被写体にして、愛の形と事件の真実を追い求めていく長編小説。ミステリー&ホラーの醍醐味である物語への没入感はとても良かったです。一章から三章まで精神と心の成長過程をじっくり踏みしめながら、感覚で舐め取るような地の文の先、第四章から始まる現実と過去の共倒れはキーワードでもある『愛慾』が招くデカダンスを表現しています。若い男性の物差しを軸にした《私小説》なので、行為の描写は踏み込んでおり読む人を選ぶのは仕方ないにしろ、文芸として見ても丁寧な作りです。

良くも悪くも文章のリズムは最後まで一定なので、地の文の抑揚は付けた方がいいかもしれません。理性にしろ感情にしろ、終始考える余地があるような描写は違和感がありました。説明不用な雑文くらい時折あったほうが『欲求の言い表せない不気味さ』が出て、主観作品としての魅力が飛躍時に上がる事でしょう。




今回で二回目となる篤永のレビュー選定会。
選考期間にTwitter(今はXか……)でも呟いたのですが、正直カクヨム公開作なら全部レビュー入れてあげたかった勢いでした。しかし今回は、限られた時間で数作品を選ばなくてはいけない【公募特有の残酷な要素】を味わう為に苦渋を飲む事に。
候補はいくつかあって、最終的に上の作品に決まりましたが、ギリギリまでどれになるか分かりませんでした。あらすじ的にはこれだなと三作品定めて、いざ読んでみたら選評作が変わったり枠が増えたりと、視野を広げるとキリが無くて恐ろしいです……。

あと紹介頂いた作品に百合小説が目立っていたのは、自主企画の( https://kakuyomu.jp/info/entry/yuri_annoucement )影響でしょうか。自分も書いておけば良かったなあと、後悔しながらも素敵な読書時間を味わえました。

次は10月くらいにまた、作品タグを利用してレビュー選評会をやるつもりでいます。募集期間は今回と同じくらいで、選考期間をもうちょっと伸ばすくらいにはしようかな……。

レビューを時々書いてはいますが、自分も公募作家ではあるので興味があれば作品を覗いて下さると嬉しいです、考えてみれば……児童文芸、歴史小説、スポーツ、異世界ファンタジー、ミステリーホラー、プロレタリア文学、ラブコメ、青春もの、実験小説、SF、音楽小説……短編長編共にマジで食わず嫌いせずに色々なジャンル書いてます。フーダニットだけ、まだでしょうか。そのうち書くだろうけど(笑)

今週半ばからは、こえけん応募作が動きます。
なかなか珍しいであろう、台本形式です!

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