グライル編が終わり、戦記編というか建国編というか、これまでとまったく違う次元の展開に。
個人が逃げて戦って愛してというものが、何万人単位が動いて戦って国の行く末を決めるものに。王になるというのはそういう身になること。
で、カルナリアの思いは本編で触れていますので、こちらではそれ以外のことをつらつらと。
グライルから出てきたトニアとダンたち「グライル族」五人。
まずトニアです。血筋的には王族とされてもおかしくない身であり、幼少期から忍びの訓練を受けているので、忍者部隊のトップに据えられてしまいました。
グレンたちやタランドンのラーバイでやられた大勢はあくまで「実働部隊」の面々であり、組織の運営、各地に張り巡らせた諜報員たちのとりまとめなどを行う者たちは別にいます。大抵の場合現場からは引退した者がその立場に就き、経験豊富なだけに小娘にすぎないトニアはお飾りとして上に置くだけ……のはずだったのですが。
トニア当人の能力が高い上に、「なぜか」味方がどんどん増えてゆくことによって、この冬の戦いの頃には実質的にも忍び組のトップとなっていました。やっぱりフィンが枷をはめておいて大正解。野放しだったら本当にカルナリアの王位も危うかったかも。
その直属の配下、ダンたち「グライル族」五人。
こちらも下界ではとんでもない有能キャラでした。生まれ育った土地が過酷で、そこで育ってきたのですからそれはもう。ちなみに、序盤でカルナリアがフィンに助けられて越えた領境の山、どちら側にも難所がありフィンえもんの色々な道具がなければ超えるのが大変だっただろうあの山を、彼らは一日で軽々と踏破できます。グライルに比べれば楽なもの、というレベル差。逆に言えばそういうきわめて優れた者たちに案内されていたからこそカルナリアもグライルを越えられたのです。
カルナリアにも味方がたくさんできました。
騎士テランスは、タランドン編だけで登場は終わるつもりだったのですが、帰国したカルナリアのその後を「カルナリアはガルディスを打ち破って女王となりました。めでたしめでたし」ですませるわけにもいかず、色々書いていくと、そりゃ当然この人物は参戦してくるわなと。しかもタランドンでの経緯、負い目があるので忠誠心MAX。能力も人格も申し分ない、カルナリア軍の中心人物になりました。
ランダルの再登場も、これもプロットには一切なく、「生きていたのだからカルナリアのところに駆けつけてくるだろう」ぐらいは考えていたのですが、流れでこれもカルナリア軍の中心人物に。派手な戦果をあげ自分の名を上げたい、功績により領地を得て成り上がりたいというような欲望を持たず、それでいて有能、地味な任務を着実にこなしてくれるという、組織にとってはなくてはならない存在。彼もまた物語が勝手に拾い上げた人物となりました。
ここへ来て初登場のローラン元帥。
「項羽と劉邦」(司馬遼太郎や横山光輝など)、いわゆる楚漢戦争における「韓信」です。突然出てきた、抜擢された超天才。外見イメージは「銀河英雄伝説」のヤン・ウェンリー。この物語上最高の名将。カルナリアが見つけ出した宝物。
そして実はそれと同等の才能を持っていたエンフ姐さん。『神眼』カルナリアだからこそわかったことであって、当人も周囲も、誰ひとりとしてそんな才能のことなど想像もしていません。彼女の日々の暮らしの中で、そんな才能の片鱗すら発揮されることはありません。人の能力、運命とはそんなもの。
そしてその逆に「今は不遇な自分にもこんな才能があるかも!」と夢見る人がたくさん出るのもまた人の世の常というもの……どうにもこうにも、上手くいかないものです。