第284話「帰国」を投稿いたしました。
これにて完全に、グライル編の終了です。
105話でタランドン市を離れて以降、「巨大山脈に踏みこむ」という展開を思いつきプロットを組んではいたのですが、まさかこれほどの長編パートに、ここまで書いてきた全体(104話)以上に長くなるとは、作者の自分も想定外でした。
ただ「険しい山脈に踏みこんだ」だけですませたくない作者の心理が動いてしまったせいです。
ただただ、「人が通ることは無理、と言われるだけの過酷さがなければ説得力がない」ととにかくきつく過酷な状態を作ろうと、それを乗り越えるカルナリアを描こうとしてきたせいです。
「案内人」たちや、アリタ、モンリークなどなど当初プロットにはまったくなかったのに展開上必要だろうとほぼ即興で生み出したキャラたちのせいです。
ええ本当に。
ゴーチェは、プロット時点では名前すらなく、モンリーク(問題ありありの貴族)の従者その1というキャラでした。貴族の護衛としてかなり腕が立ち、しかしグライルでは対人技能は意味がなく足を負傷しカルナリアが譲ったロバにまたがり……九十九折りのところで転がり落ちてきた吸血岩からカルナリアをかばって自分がくっつけられ落ちてゆき、息はあったものの致命傷でどうすることもできず、涙目のカルナリアに膝枕され「あなたはわたくしの騎士です」と言われて相手の身分を察して最高の光栄と共に旅立ってゆく……そういう設定でした。
ですが書いていくと、まずゴーチェの負傷とその治療自体が、カルナリアが関わるどころかモンリークの内臓治療とファラによる死滅魔法の処置で、大したものではない扱いとなってしまい……。
その後は、チスイアリと石人本隊という本来なら全滅必至の危機を前に、腕を落とされたものの生き延びることができたという展開になってゆきました。
あのあたりのゴーチェの生存、その後の同輩を殴ったりカルナリアに忠誠を誓ったりは、当初の構想には一切存在しない展開が次から次へと、そういうキャラになったのだからそうなるしかないよなあという、これは最後まで生き延びるだろうというキャラに「育って」ゆきました。
割を食ったのはアリタの夫、シーロです。
当初の構想ではゴーチェが「吸血岩」にやられる展開だったのですが、前述の通りゴーチェは何があっても生き残る名ありキャラ側に入ってしまったもので、割を食ったかたちになりました。
その一方で、妻アリタが、生き残るどころか、その先の歴史に大きな影響を及ぼした人物になろうとは、シーロも作者も想像もしていませんでした。
ゾルカンたち「案内人」も、これもまたプロット段階では一切存在していなかった面々でした。ゾルカン、エンフ、バウワウ、そしてトニアも。
自分の書き方だと、プロットはプロットとして、その場で想定外のキャラが出てきた場合、プロットに反しない範囲でそれぞれの個性を出すように描きます。ほとんど表現されていませんが初登場時のエンフが「髪を頭の後ろでまとめている(ポニーテール)」だったり、一般人のアリタのキャラ立ちをさせようと「何気ない仕草や吐息がやたらと色っぽい」という個性をつけたりとか、そういうのです。
先を考えてのことではない、そういう「何となく個性を作った」キャラが、その先の展開を描いてゆく中で「そういう個性のキャラならこうなるんじゃないか?」とある意味熟成されていって、終盤にまでからんでくる重要人物になってしまうとは。
本当に創作とは面白く、またキャラクターとは作者の創造物というだけではなくそれぞれの存在を主張して生き延びてゆくものだということを実感させられる経験を、本作の執筆中だけでも何度も何度も味わいました。
キャラが生まれるだけではなく、それらの関わる出来事も色々と生まれてきました。案内人たちの宗教儀式など最たるものです。下界の者たちとは違うだろうなと思って書いてゆくと自然に、天(グライル山脈)を崇拝するものになるだろうなと設定が作られてゆき、カルナリアとの別れの際の儀式が自然と発生しました。あれは本当に、書いていてそうなるように展開したものです。
それら、多くのキャラを生み出したグライル編も、カルナリアがカラントに帰還して、これで完全に終了です。ゾルカン、エンフ、バウワウ、ドランたちとはこれでお別れです。
105話から、まさかここまで、それまでの全て以上に長くなるとは思ってもいませんでした。レイマールが登場してすぐにグンダルフォルム襲来のはずだったのに、登場してから一章を分けてもいいほどに色々展開するとは。そこまでの色々やカルナリアやフィンの設定、個性によりそうなってしまいました。
色々、こうなるだろうこういうのを入れて面白くしようと考え盛りこんだ結果こうなったわけで……それについては、お詫びというにしても「創作の面白さに負けましたすみません」というしかないものです。
本当に、とにかく面白く読んでもらおうとして色々盛りに盛りに盛った結果がこのグライル編です。
ここから先は、一日どころか一月、半年が飛びまくる大きな展開となります。
あと20話足らず、30日の最終話までおつきあいくださいませ。