第227話「明かされた真実」投稿いたしました。
ついに明らかになったレイマールの目論見。
ガルディスと最初からつながっていて、反乱は実は彼ら「兄弟」が引き起こしたもので、その究極の目的はカラント王国の貴族層を根こそぎにして新たな国に作り変えることでした。
日本でいえば幕末――倒幕から明治維新を経て武士階級は消えてゆきましたが、ペリー来航からしばらく、いわば最初の頃は幕府の刷新や制度の改変などで何とかしようとしていたのが、十数年を経てそれじゃだめだとわかって公武合体論から武力倒幕、大政奉還に到ったという流れを、段階抜きで最初から新政府を樹立し武士階級をなくそうと考えて立ち上がった、みたいな感じです。
……以下、解説はかなり長くなります。
兄弟が実際の行動を起こすまでにはやはり十数年にわたる様々な経験がありました。番外編03「星を目指した忍び」前編、ダガルの過去編でその辺りは少し出ています。ファラもカルナリアにそのことは告げています。
内側から穏便に変えていこうとはした。でも十数年かけてもだめだった。ならば、と……。
レイマールは、幼いうちは、この英雄たる兄を自分が助けよう、あの兄にできないところを自分が担おう、兄が軍を率いるなら自分は外交や内政を引き受けようと考えていました。
しかし彼は彼でやはりひとりの人間、「美しくないもの」はどうしても好きになれないタイプ。この国の腐ったところを取り除き新しい国を作ろうという長兄の壮大な意図はきわめて美しいと感じましたが、このまま計画を進めて新しい国ができた場合の自分の役目は、立ち位置はということを考えると、その点ではどうにも美しさが足りないと感じてしまってもいました。レイマール自身が語った通り「ただの王弟というだけではすぐに忘れられてしまう」というそこです。
そこへある時天啓が。新たな国のために、邪魔になるものをすべて自分が引き受けてしまえばいいのだと。
かつての英雄の悲劇的な物語からか、それとも歴史の講義の中で教師がふと漏らした発言か、あるいは日常のどこかで見聞きしたものか、どこから得た発想かレイマール自身すらわかっていないかもしれませんが、とにかく新たな国のために必要な、きわめて美しい役割を見つけたのです。そう、発案者はレイマール本人でした。
ガルディスは強く反対しました。大事な弟を、同志を犠牲にするわけにはと。しかしレイマール自身が説き伏せました。理屈としても、立場としても、最も効果的かつ効率的だと。
かくして大計画は発動します。何も知らないカルナリアが絶望的な逃避行の間ずっとレイマールの元へと願い続けていた、それを根底から踏みにじる美しくも凄惨な役割を果たすべく、レイマールはここが命の賭けどころああ何という恐ろしく美しい瞬間だと日々感動しつつバルカニアを脱出、グライルを突き進んでガザード砦に到りました。案内人たちがついていてもなお過酷なグライル行に貴族である親衛隊が耐えられたのも、主たるレイマールのその猛烈な前進する意志のおかげというところもあります。
しかしそれが、根底からひっくり返ることに。
一途にレイマールの元へと逃げてきたカルナリアがもたらしたもののせいで。
『王の冠』を装着し神々に接し能力の大幅パワーアップを経たレイマールは、ガルディスのやり方の欠点も見えるようになっていました。
すなわち、貴族階級とは知識階級にして官僚や役人を輩出する階級でもあり、それを廃して平民を引き上げたところで今までのちゃんとしていた部分を保つことができなくなって、国が大きく乱れてしまい建て直しに時間がかかる、その間に東からの脅威が迫ってきてしまういやむしろカラントの混乱を好機と見て東があふれるかもしれない。
その点、貴族層の支持がある自分ならば、国のために役立つ者たちは残し腐ったところだけ削り落とし、ガルディスがやるよりも短期間で効率的に新たな強い国を作ることができる……今のこの自分ならできる!
そう考えてしまったのです。
それほどに、もたらされた神の力、引き上げられた自分の能力は巨大なものでした。
「新レイマール」「レイマールver.2.0.0」となった彼は、今までの自分の役割はガルディスに果たしてもらおう、これまでのカラントの欠陥があのような反乱という形で現れたのだから今後はそうならないための施策を行うという口実で、邪魔な大貴族たちの勢力を削ぎおとし大胆な国政改革を行おうと思い定めています。あの兄ならわかってくれるし、自分が滅びる側に回ることも受け入れることだろうと。何しろガルディスは本物の英雄ですから。そしてその読みもまた正しいのです。
かくして太陽王は、新たな道を突き進むことに決めました。
妹の嘆き? 自分では何一つできない幼い少女、その血筋と立場は使えるが、それ以外は新国家というものの前では瑣末事にすぎん。それが一国の王の判断です。残酷で冷淡ですが間違いとは言い切れません。
しかし太陽王の足元に、ひとつの小石が。
フィン・シャンドレンという名の小石につまずき高転びして終わるだろうとセルイは断言しましたが………………果たしてどうなるか。
そして作者目線での解説。
…………このあたりの、この物語の根本にかかわる情勢を設定するにあたってまず頭にあったのは、日本史における「応仁の乱」と「関ヶ原の戦い」の比較でした。
応仁の乱。東軍と西軍と呼ばれはしたもののトップは誰でどこの誰がどちら側かいうのがとにかくグダグダ、決定的な合戦というものも起きずに十年も続いてしまった応仁の乱。どのような解説書でも上手い書き手でもこの乱についてはわかりやすく説明することができていないひどいもの。一応は乱が終わったとされた後も、どっちが勝ったというのは明確ではなく誰が処分されたというようなことも特になく、ただただ室町幕府の権威が弱まり全国的に混乱が広がっただけとなったしろもの。
一方の関ヶ原。こちらは東軍徳川家康と西軍石田三成というわかりやすいトップがおり、各地の勢力がどちらについたかというのも明確で、勝ち負けがはっきりして、勝った側が新しい政権を確立させる結果となりました。
他にも中国の戦乱期やドイツ三十年戦争などのごちゃごちゃグダグダ状態の実例は色々あり、そしてやっぱり、明確な「勢力の頭」「長」がいた方がわかりやすく面白くなる。
英仏百年戦争でもやっぱり一番面白く描かれるのはジャンヌ・ダルク登場のあたりですし(佐藤賢一「双頭の鷲」で描かれる黒太子やゲクラン元帥が活躍する初期もそれはそれでいいのですが)、三国志でも群雄割拠を経た上での曹操vs劉備・孫権が激突する赤壁の戦いがクライマックスになります。
そういうことを頭に置いた上で、この物語を作り始めました。
まず根本の設定を定める際に、「旗頭となるまとめ役、大義を持った総大将がはっきりといてくれた方がわかりやすくなる」「いないと散発的かつ終わりの見えつらい小規模な衝突が延々と続き結果的に戦乱が長引き国の力も弱まる」ということから、王太子が反乱を起こした、第二王子がそれに対抗するという基本構造に、「結果的にそうなった」のではなく「最初からそのつもりだった」というアイデアを入れました。第二王子はグダグダ内戦状態を回避するのが目的のいわば大スパイ、内通者ということに。
これは、主人公たるカルナリアが逃げこむ相手先として、レイマールのもとにたどり着いたのでもう安心めでたしめでたし……というだけではストーリーとして弱い、やっと助かったと思ったその相手が実はという方が面白くなるという作劇上の判断です。単純な兄弟激突にしてしまうと合流後はそちらが主人公になり、カルナリアが何かをする余地がなくなってしまうのです。彼女とフィンの物語である、という根本設定のためにも、そうしてしまうわけにはいきませんでした。
かくして「レイマールは最初から敵側であった」という設定が定まり、それに基づいてセルイの思わせぶりな言動はじめ様々な伏線も決まってゆきました。
そして、この後どうなるかも、最初期から決まってはいたのですが……ちょっと、いやかなり、想定とは違う分量と内容になってしまいました。方向性だけは当初のままなのですが、色々と……ええ色々と。たっぷりと。予想外のことが次から次へと。
どうかお楽しみくださいますよう。
……とまあ、長々とすみませんでした。
いよいよこの物語のクライマックスです。
あと少しおつきあいくださいませ。