• 異世界ファンタジー

「ぐうたら剣姫行」224、225話の解説

第224話「それぞれの正体」を投稿いたしました。
次話「カルナリアの戦い」も合わせてカルナリアの知らない裏事情をこちらで解説しておきます。

まず、山賊王の正体判明。
ガザードは元は忍び組織『風』の一員、いわゆる「抜け忍」でした。カラント側ではなくバルカニアに近い方で活動していた理由もそのため。カラント側だと、トニアのような者と接触してしまい、生存が知られあらためて討手を出される可能性が高いからです。
今回、これまで築き上げてきたものすべてをなげうってレイマールに味方したのは、罪を許されそれどころか有力貴族となって堂々と下界に降りられるようになるからです。
人間性はともあれ、能力はきわめて高い人物です。貴族となればいわゆる奸臣となり宮廷に食いこみのし上がっていくことでしょう。忍びのままではそんなことは夢のまた夢でしたが、まさかこのグライル山中で夢を現実にするチャンスがやってきて、全力で動いています。

配下の山賊たちを突然処分したのは、カルナリアとして突然に見えたというだけで、レイマールとガザードの間で打ち合わせて、どこかでやると前から決めていたことでした。
ガザードの言葉通り元はろくでもない犯罪者でその上で腕は立つので、引き連れてカラントに戻ったとしても略奪をはじめレイマールの評判を落とすことをやりまくり、それどころかガルディスに寝返ることもあっさりやりかねない連中だからです。
レイマールにガザード、セルイもそうですが、この手の人物は、ひとつの行動をひとつの目的だけでやることをもったいないと思い、それを利用して複数の目的を果たそうとしてきます。小細工して金貨をばらまかせたのは、フィンに制裁を加えるだけでなく、この「今後の不穏分子を判別する」ために使えると考えてのことでした。
どれだけ欲しくても、この限定された場所ではのちほど身体検査されたらすぐ見つかってしまうことを即座に気づき、周囲の兵士たちの実力や場の気配などを察知し、何もしないでいるのが正解でした。金貨に飛びつきつかみ取っている姿をさらした時点で、その者の評価および処分は決まっていました。
なおちょっとくすねた客はお目こぼしされます。バルカニア人なので処分はしません。もっともどこかで盗んだことには気づいていると告げて、弱みを握って言いなりにしようとするでしょうが。

トニアは忍びそのもの。いわゆる「くノ一」でした。レンカと構えが同じだったのも当然、同じ組織で幼い者のための戦闘技術を教えこまれたからです。
案内人は下界から入ってきた者を仲間に加えることはありますが、当然ながら下界とつながっているようならすぐ殺してしまいます。女性の場合は子供だけ産ませて処分。トニアはその点で、今のカルナリアよりも幼いくらいの年齢で転がりこんできたので、疑われることがほとんどありませんでした。
与えられていた任務も、下界にグライルの情報を伝えることではなく、案内人たちの上に立てというものだったので、グライルを往復し何度も下界との接点に来ても何一つすることはなく、疑われることのないままじわじわと勢力を広げていっていました。
とはいえそれには筆舌に尽くしがたい苦労があり、ここまでのカルナリアが経験してきたようなことをもっとたくさん、しかもフィンのような護り手なし状態で乗り越えてきています。男に襲われることも。そりゃ役立たずを嫌い必要とあればすぐ殺すという精神にもなろうというものです。
今回の、カラントでの反乱とレイマールのグライル越えは、トニアには一切知らされていませんでした。ただガザードがレイマール一行を迎える準備をする、そのために動いている中でトニアと接触し、いよいよ新しいグライルを作るために動きだすぞという情報だけは与えていました。トニアがあのタイミングで裏切ったのは、下界の情報を得ただけではなくその要因もあります。


そしてやっとカルナリアと合流したフィン。
この時点では、レイマールはまだフィンを絶対に殺そうとは考えていませんでした。したがって山賊たちを攻撃した際に、岩の上にいたフィンは狙わせていません。あのセルイがとにかくただ者ではないと言っていたこと、トニアが伝えた恐るべき戦闘能力、カルナリアを単身で守り通してきたという事実からも推測される力量、実際に無数の戦士たちに囲まれてもまったくおびえる様子を見せない底知れなさ、諸国に名高い剣士という立場、美しいという容姿……無礼の罪を問うべきではありますが、自分に雇われるのならばそれもいいと考えて、攻撃させないでいました。
なのでフィンは何もされないまま高いところから全体を見つつ、このタイミングで――自分を最も高く売りつけられる、すなわち楽ができそうなところで声をかけてきたのです。

ちなみにフィンは、カルナリアがファラから金貨を「貸し付けられて」いたことは知りませんから、依頼料を差し出されて実はかなり驚いています。あれ、あの時ファラに払わなかったのか?(148話「おこづかい」)と。
そうでなければ、剣士を雇うには報酬が必要だぞお前が持っているものは……とカルナリアに自分を売ると言わせようと目論んでいました。そうすれば再びこの子を自分のものにできる、と。それは後に別な形で実現しますが……ちょっとえげつないぞこの剣聖。

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