• 異世界ファンタジー

「ぐうたら剣姫行」208話

第208話「道化」を投稿いたしました。

モンリーク君。モンちゃん。君の意図は壮大だった。反乱の報に接するなり、グライルを越えて隣国のレイマール王子のもとへ駆けつけんというのは確かに常人にはできない発想、歴史的偉業。

……問題は、「グライルを越える道がありまっせー」と伝えてきたのが誰なのかどうして今まで知られていなかったのかなどを考える警戒心が彼にはなかったことと。
その道を行くにはけっこうなお金がかかるし持っていく荷物や食糧や色々必要なのですが城主の三男でしかない彼にはそれを用意することができず、反乱の報を受けてタランドン領も戦時体制に入り各地から物資が集められていた、それをくすねるという、発覚したら文句なしに本人は処刑され兄たち家族も厳罰を受けるということをやらかしたことと。
レイマール王子のもとへ駆けつけて、その後どうするのかの展望も何かできる能力も何一つ持っていなかったことでした。
「問題しかねえよ」byゴーチェ

彼につけられていたアルバン、オラース、ゴーチェたち従者は、いつも「何かをしよう」としてはろくでもないことばかりやらかす主がまた今度も何かやる気だとうんざり顔で従ったのですが、まさかグライルに連れこまれようとは。
カルナリア視点では一切描かれませんが、107話「グライルへ」で初登場した際に、彼らもまた窓を塞がれ外も見えない馬車に延々と乗せられてる行程を経てやってきており、移動中に(……これ、ガチでヤバいところに行こうとしてるんじゃないのか?)という気分が強まる一方のまま、ついに馬車を下ろされ黒々とした山並みを前に「グライルだ!」とわかった時に一度はその場に崩れ落ちていました。三人でなかったらモンリークを捨てて逃げ出していたかもしれません。その後最初のテストで暗い山道を延々と歩かされて、ようやく野営地について食事と休息にありつけましたが、彼ら三人の雰囲気は日本ならお通夜も同然でした。新しいバイトだ!と盛り上がる先輩に連れられて現場に連行されてみれば国名も聞いたことないような外国だった、みたいな状況を想像していただければ彼らの気分に近いかと思います。
のちにゴーチェがその際にカルナリアがゾルカンと同じ鍋を囲んでいたことに気づくかどうか探られていますが、それどころではなかったのでした。

そして過酷な旅路を経て、モンリークはついにレイマール王子に出会えました。夢の成就です。あきらめなければ夢はかなうのです。
……ですが、カルナリアへの態度のせいで全てが水の泡に。
それさえなければ、あきれられはしても忠義だけは評価され、侍従としてレイマールに付き従うことを許されていた可能性があったのですが……。
もっともその場合でも、これまでにカルナリアに対してどのように振る舞ったかがいずれはレイマールの耳に入り、結局は罰せられていたでしょう。

さらばモンリーク。

初期のプロットでは影も形もなかったのに、タランドン編を書いている途中でその先のグライル編プロットをあれこれ組み立てている時に湧いてきた、貴族のダメさを具現化したキャラでした。
物語の作り手としては、いいキャラではありました。
彼の「おかげ」で動いた展開がどれほどあったことか。
これはこれで、こうも悲惨な目に遭い続けていると、ある意味哀れすぎて愛着も出てきた人物です。

……ただ、さらにこの後も色々なことが起きる展開の中で、今話を書いた時点では、彼の生死は決まっていませんでした。
生存パターン死亡パターンどちらもあると、決められないまま書き進めていきましたが……どうなったかはいずれ出てきますので、それまでお待ち下さい。

なお、もうずいぶん出番のない剣聖さんのモンちゃんへの評価と対応は……。
岩棚で、アルバンとオラースに「この子を守れ、それが治療代だ」と言ったあれで終了です。ゾルカンやエンフなど周囲の者で十分に対処可能と見切って、他の危険な面々に対する警戒とはまったく違う扱いにしています。ぶっちゃけ「あの子でもやっつけられそうだからなあ」「剣を使うまでもなく撃退できるしなあ」と、この物語で唯一、カルナリアに良くないことをしたのに殺意を向けられていない人物だったりします。

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