第197話「命の重さ」を投稿いたしました。
状況が激変し、敵が危険な魔物や環境から同じ人間へ。捕らえられ連行されるカルナリアたち。その過程でも出てしまう死者。しかしこれまでのようなどうしようもないもの相手ではなく、人の意志によるもの――「死んだ」ではなく「殺された」なので、カルナリアの受ける衝撃やつらさも大きく重いものになっています。
そんな中で現れた平蜥蜴バラニダエ。コモドオオトカゲをもうちょっと平べったくしたイメージです。高さのない体を生かして草むらを忍び寄ってくるたちの悪いやつ。群れで狩りをする知能はありませんが、一匹が獲物にありつくとすぐ察知して寄ってきて結果的に集団になるので面倒な相手です。
もっとも平べったい分段差を登るのが苦手なので、人間なら木か岩の上にでも登れば逃れるのはたやすく、グライルの中ではそれほど危険なものではありません。実は魔獣ですらないですし。縛られていなければ、案内人たちにとっては今晩の食材が手に入ったと喜んで狩る程度のものでした。
その、案内人たちを縛った元凶、見た目は美しく態度は穏やかだけどやることなすこと苛烈な女ボス、トニア。
カルナリアとは完全に正反対の存在です。境遇のせいもありますが見事に水と油。実はモンリーク相手の方がよほど楽なくらいに、トニアと共にやっていくのは困難です。モンリークはとにかくへりくだっていれば簡単にあしらえますが、トニアはそういうのはすぐ見抜きますしこれはだめだと判断すると前兆なしで殺しにかかってきますからね。
そんな彼女に引き連れられて向かう先は――次話をお楽しみに、というところでネタバレ空白。
トニアの正体と目論見について。
かなり先の方のことまで語っています。
後で明かされる通り、特別な生まれと能力から忍び組「風」にひときわ目をかけて養育され、タランドン領の忍び組「台」がグライル内の人間とつながっているらしいということで、カラント国内ではなくそちらに送りこまれて「風」のためにひいてはカラントのために活動するよう期待された人物です。
「風」は国王ではなく王太子ガルディスに忠誠を誓いましたので、必然的にこの先に待つあの人物ともつながっており、したがってトニアもまた彼らの目的に沿うように案内人たちを絡めとり手駒を増やし影響力を広げてとひそかに色々活動していました。ガルディスの反乱が起きなければ、ゾルカンのようないずれ全体の長となり得る人物の妻の座について、案内人集団そのものを支配することを目論んでいたでしょう。実際それに近いところまでは来ていました。
ただ彼女は、ゾルカン隊に同行していたために、反乱が起きたことはゾルカンと同じタイミングで同じ内容を知るしかありませんでした。したがって初日、初対面の時はカルナリアを第四王女とはわかっていません。どう見ても奴隷じゃない、多分貴族の子女だろう女の子とは見抜いていますが、まさか王女本人とまでは。そもそもカルナリアが産まれる前にグライルに入っていますので第四王女の名前すらろくに知りません。
本編でまったく語られないので完全な裏設定ですが、彼女が様々な情報を得るのは第二日目です。「1」ことグレンがグライルに送りこまれた特別な存在のことを知っており、合図を出して反応したトニアと接触していました。二日目早朝、第121話「早朝の問答」の時です。そこでようやく詳しい反乱の推移やカルナリアおよびその持ち物のことを知りました。
ですので、それ以降のトニアはカルナリアを王女と知った上で色々問いかけたり反応を見たりしています。
なおグレンはフィンへの警戒から、すでに籠絡されているレンカにはトニアの正体は伝えていませんし、トニアにもセルイのために動くような真似は一切するなこれまで通りにし続けろと指示しています。したがってトニアは幾度となくピンチに陥ったカルナリアを助けることはしませんでしたし、フィンともセルイとも接触することのないままここまでやってきました。
またガザード砦にいる人物のことは、さすがにグレンも情報は得ていなかったのでトニアもこの時点では知らないままです。グンダルフォルム出現という非常事態と、何をするにしても味方につけないと厄介な獣人たちのひとりギャオルの離反によって今回の行動に打って出ました。彼女にとっては人生最大の賭けで、実はかなり焦り、余裕をなくしています。それもあって砦であの人物に会った時に自分のしたことは間違いではなかったと安堵し精神の均衡が崩れ、盲目的な忠誠を誓うようになってしまいました。それこそ自分の命に替えても助けようとするほどに……。