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「利刀を以て斬れぬもの」第三章の裏話

「利刀を以て斬れぬもの」第三章のエピソードがすべて公開されました。
話はここで折り返し地点を迎えます。主人公・余義の過去が明らかになり、いよいよ物語はクライマックスへ向けて動き出します。

それはさておき、今回も裏話です。以下、三章のネタバレを含みます。






























■「借血法」

狄医生が弥華を蝕む劇毒を除くために使った「借血法」。
こちら、おそらく多くの方が気づいていらっしゃるでしょう。この「借血法」とはつまり血清療法です。

体に害があるもの(抗原)を排除するため、生物の肉体は免疫反応として抗体を生成します。この抗体を別の個体に注射することで抗原を駆逐するのが血清療法。
テレサの体には蛇毒に抗い生き残った結果として対蛇毒抗体が存在したため、これを弥華に与えることで解毒を図ったのです。

この血清療法、歴史的には19世紀に入ってから発見されたものです。つまり思いっきり時代錯誤したオーパーツ的技術。作中時間の16世紀には存在するはずもありません。

それではなぜそんなものをしれっと登場させたのかと言うと……他に助かる方法が思い浮かばなかったのです。
そもそも弥華の解毒は本筋でもないですし、さくっと治ってもらいたかった。

なので本作の「借血法」は「狄医生が独自に発見し、そして誰にも伝授することなく消えて行った技術」と捉えて頂ければと……。

■余義の正体

読者にはもはや自明の理ではありましたが、余義の正体は倭人でした。
序章にて戚継光と戦っていた彼です。

戚継光は嘉靖四〇年(西暦1561年)に倭寇と戦い、その戦場にて一つの剣術書を手に入れました。
彼はその剣術書を元に倭寇の用いる技を研鑽し、我が物とし、後世に残しています。

しかし私はここでこう考えた。
「いくら希代の名称軍とはいえ、秘伝書だけで技を会得できるものだろうか? そもそも戦場で得られた剣術書がどれほど判読できるものか怪しい。それどころか、戦場に武芸書を持ち込む輩などいたのだろうか?」
そしてこうも考えました。
「戚継光が得た剣術書とは書物ではなく――その技を修めた倭人そのものだったのでは?」

こうして剣術書、すなわち余義というキャラクターが誕生したのです。

余義は序章の勝負で戚継光に敗れ、捕虜となり、そして彼の友人となり、互いに武術を教え合って義兄弟となったのです。
そして幼い弥華とも出会い、「君が旅に出るときには守ってあげよう」と約束した……。

余義が不倒三獣に追われている弥華を助けたのも、実は偶然ではなく。
この約束を果たすために家出した弥華を探していたのです。律儀すぎる。

■ポルトガル商人と倭寇

この時代、明の沿岸には西洋の商船も多数来航していました。
しかし明国は自由貿易を禁止している。できるだけ多くの利益を上げたい彼らには困った話です。

ではどうしたかと言うと、倭寇と結んで日本に火縄銃を売り込んだのです。

歴史の授業で種子島へ初めて鉄砲が伝わったことはみなさんご存知でしょう。
しかしこれ、倭寇によって仕組まれたものであったという説があります。銃を売りたいポルトガル商人をわざと日本まで連れてきた倭寇がいた。そしてその倭寇は、自らを「五峰」と称したと。
――五峰徽王、王直の仕業です。

そうした倭寇の手引きがあったために、ポルトガル商人の船は日本を頻繁に訪れていました。
余義がジョゼたちの会話を理解したのは、倭寇時代に彼らの言葉を覚えたからなのです。

■第四章予告

倭寇掃討計画が進む中、余義は弥華奪還のために奔走する。
その一方で、弥華は倭寇の砦にて衝撃の事実を知ることに……。

第四章「王の秘宝」、乞うご期待!

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