…あーもう寒いって。
足だけは氷漬けされたように冷たい。…仕方ない、起きるか。暖かくてやわらかくてわたしを離さないとする羽毛布団に顔をつっぷした。
映画『もののけ姫』でサンがモロ(母親の山犬)に『あの人の目にならなきゃ』とおでこを引っ付き合わせてそう告げるシーンがあるのだが、まさに今わたしは羽毛布団にそんな気持ちで別れを告げた。嘘、ごめん。
足が冷たくてどうしようもない日は足湯に限る。
わたしはのろのろ起き上がって、風呂場に少しだけお湯を溜めた。仕上げにわく子で沸かしたお湯も混ぜ入れれば、ほどよい熱さの湯加減になる。
風呂の縁(へり)にタオルを敷いて、腰を掛けた。足を入れるとびりびりするぐらいあったかい。う~、あつ。
手持ち無沙汰なので、片手には『九龍ジェネリックロマンス』第6巻。ノスタルジーとSF的な要素で毎ページ心躍らせてくれる。前は絵柄が好きで追っかけていたが、今はストーリーに引き込まれてる。なんでだ、なんでだと読み進めていく。しかも、キャラクターのバックグラウンドがけっこう解ってきたので、彼らの生身の言葉がちゃんと動き出すから、それが面白くて。こういうのが書けたらいいんだよなあって思った。
読んでいて、ふと思ったことがある。わたしは今執筆活動しているのだが、主人公は超内向的で自分を見せてくれないしどーしたもんかと思っていたけれど、最近実在しない人間なのに、一人の人間として普通にリスペクトしている自分がいて驚く。まるで意志を持った人間のようにわたしの頭でぽつりぽつりと話はじめるからだ。前まではそんなことなかったのに。
昔夢枕獏大先生が「清明と博雅は二人で勝手にしゃべる」みたいなことをあとがきで書いてあったのを読んで、昔は「なわけ」と思ってたけど、最近そんなことが起こるのだ。あんたら二人は仲悪かったんか?とか、あんたはそういう性格だったのか、とか、え!そんなことが!とか自分の中でも楽しい現象が起きてる。みなさんもあるんじゃないかなあ。こういうことがあると、小説書くの楽しいなって思うのだ(それ以外は苦行)。
湯が冷めてきたので、風呂から出た。足をタオルで拭くと、桃色になった足はやわらかくふわふわになった。よしよし。普段はもったいなくてニベアのボディミルク(500円)しか使わないけど、今日はマークスアンドウェブのフッドオイルを贅沢に使う。オレンジとラベンダーの温かみのある匂いはどことなくホットワインを連想させる。オイルが温まった足になじんでく。
よしこれで。また歩き出せるね。